【ライブレポート】コントリーヴァのリーケ・シューベルト演ずるドイツ人形劇

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ドイツを舞台にした、浦沢直樹のマンガ『モンスター』では、主人公たちが幼少時代に読んだ童話が重要な意味をもつ。その童話は、プッペ(Puppe:ドイツ語で“人形”の意)をモチーフにしていて、主人公たちの運命を操るような不可思議でグロテスクな物語をものがたる。そこには子供たちが目にする光と闇、体験していくであろう夢と挫折が、かなり近い距離で共存しているように思える。グリム童話といい、ドイツの童話や人形劇のなかでは、日本人が想像するよりも近い距離に、グロテスクと子供ならではの“無邪気”さが同居している。

◆リーケ・シューベルト画像

東ベルリン、シュプレー川が流れる大きな公園、トレプトアー公園(Treptower Park)のなかに、人形劇場、Theater im Treptower Parkがある。ここでは日々、子供向けのドイツ童話の人形劇から、高学年から大人向けの、風刺的な人形劇、芝居などが上演されている。

2013年5月10日(金)、この劇場で、リーケ・シューベルト(Rike Schubert)とノエル・ラッデマッハー(Noel Rademacher)による『ジャスト・キッズ(Just Kids: the Story of Patti & Robert)』の上演が行われた。『ジャスト・キッズ』は2012年に刊行されたパンクロックの女王、パティ・スミスの自伝小説。1960年代末のニューヨークなどを舞台に、写真家ロバート・メイプルソープとの20年にわたる生活が綴られている。

リーケ・シューベルトとノエル・ラッデマッハーによるこの舞台の初演は2012年の11月。リーケ・シューベルトはミュージシャンとして、マーシャ・クレラ(Masha Qrella)が在籍していたポスト・ロックバンド、コントリーヴァ(Contriva)でギタリスト、ヴォーカリストとして演奏、また2002年にソロ活動を開始したマーシャ・クレラのツアーに同行、2006年のソロ・シングル「ドント・ストップ・ザ・ダンス」、2009年のクルト・ワイルのカヴァー作品集『スピーク・ロウ』でも、目立たないながら印象的なギターを演奏している。そのほか、ドイツの伝説的な女性ロックバンド、レッシー・シンガーズ(die Lessie Singers)出身のクリスティーアーネ・レージンガー(Christiane Rösinger)が結成したブリッタ(Britta)のメンバーでもあった。そして、彼女は女優として、映画、テレビ、舞台に出演している、多彩な才能を持った女性アーティストである。

この日の舞台では、パティ・スミスの小説を朗読し、時に歌い、声色を使い分けて、様々な人形(ケネディやらアンディ・ウォーホールやら)にアテレコするリーケ。アメリカを舞台にしたパティ・スミスの物語が、ドイツの人形劇を通じて、ヨーロッパの小さなおとぎ話に収束して行くような、不思議な感覚を感じた。

ドイツの人形劇には独特なアイロニーと喜びがある。この日、Theater im Treptower Parkでみた人形劇『ジャスト・キッズ』は、永遠に世界に残して行きたい、そして、多くの人々にも見てもらいたい、素晴らしい文化だと思う。

文&写真:Masataka Koduka

◆リーケ・シューベルト オフィシャルサイト
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