【インタビュー】藤倉大、世界を股にかけて活躍する新進気鋭の現代音楽作曲家の思い

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「現代音楽」というジャンルではくくることのできない、独創的な世界観を生み出す作曲家として注目を浴びる藤倉大。音楽家になることを誓い、15歳で単身渡英。現在もイギリスを拠点に活動し、ハダースフィールド国際音楽祭作曲家賞、ロイヤル・フィルハーモニック作曲賞、オーストリアの国際ウィーン作曲賞など、世界を股に掛けて数々の作曲賞を受賞している。2012年10月11日にサントリー大ホールで開催された「作曲家の個展2012ー藤倉大」の模様を収録した最新作の『ミラーズ - 作曲家の個展』を軸に、藤倉大の素顔に迫る。

■一般的にはビジュアルの方が強いと考えがちですが
■音楽の洗脳力はすごくパワフルだと思います

――15歳で単身渡英されて、最初から音楽を勉強するのが目的ですか?

藤倉大(以下、藤倉):はい。小さいときから、母が偉大な作曲家の伝記を読んでくれていたんですね。シューベルト、バッハ、モーツァルト、みんなドイツ語を話すじゃないですか。だから、ドイツに行ったら良い作曲家になれると思ってたんですよ。でも両親が、「まず英語を学んでからドイツに行けば?」と言うんです。どうせなら早いほうがいいだろうということで、中学を卒業して次の週にイギリスに留学したんです。

――15歳でたった一人で留学出来てしまう度胸ってどこからきてるんですか?

藤倉:特に考えなかったですね。なんででしょうね?

――不安はありませんでした?

藤倉:思い出せませんね。あったのかなぁ? 不安もあったのかもしれなかったのですが、入試に行ったときに、感触が良かったんです。14歳の夏にイギリスの語学学校に行ったんです。サマースクールみたいなやつですね。そのときに二校受験をしたんですけど、どちらも「ぜひうちに入学してくれ」って、すごく良い感じだったんです。サマースクールもすごく面白かったし。結局、奨学金のレートが良いほうを選んで、音楽奨学生として入学したんです。中学校の友人と今でも会うんですが、その友人に言わせれば、その頃と僕は変わってないって。僕は一人っ子っていうのもあって、グループに所属するとか、そういうのがなかったんです。だから、どこに行っても何故か特別扱いされていたような気がします。

――イギリスでの学生生活はどのような感じなんでしょう。

藤倉:共学の全寮制の学校でしたね。僕はまだ子供でしたが、奨学生として入学しているから、学校側はビジネスライクなんです。学校が奨学金を払ってるんだから、ここでプロモーションのためにピアノを弾いてくれ、学校のスポンサーたちが集まるディナーで一曲弾いてくれって。

――容赦ないですね(笑)。

藤倉:でもかなりストレートだから、子供なりにスッキリした感じでした。僕は、音楽を使って、自分の良いように持ってってたことが多かったかもしれませんね。音楽をやっていたおかげでいじめられたこともないですし。

――音楽を使って良い状況に持っていくというのは、具体的にどんな感じなんですか?

藤倉:僕は大阪出身なんですが、学校にはガラの悪い同級生もいたんです。特に仲良くはないけど、仲が悪いと何かされるかもしれないじゃないですか。その頃から、舞台で何か曲を弾いてくれと言われる機会も多かったんですが、メドレーみたいな感じで即興で弾くんです。ちょっと不良っぽいやつらは「音楽なんか聴きたくねぇ」って騒いでたりするんですが、彼らが好きそうな曲をチャラっと入れたりすると、とたんに「お前ら聴けよ!」ってなるんですね(笑)。イギリスに行ってからも、音楽をやっていたから得をした経験はたくさんありますよ。

――例えば?

藤倉:さっきも言ったように、奨学生でもあったから、いろんなところで演奏をしていたし、地元の新聞に載ったり、学校があった田舎町では結構知られていたんです。まだ英語も完璧じゃなかったので、みんなが親切にしてくれましたね。あとこんな面白いエピソードがあります。イギリスの学校っていうのは生徒会の権限が絶大なんです。彼らはプリフェクト(監督生)と呼ばれていて、学校の風紀を取り締まったり、監督する立場なんです。例えばハリー・ポッターを見るとわかりやすいと思うんですが、ロンとハーマイオニーが、プリフェクトに選ばれるエピソードがありますよね。プリフェクトは生徒の中でも特別待遇だから、普通の生徒が通ってはいけないような近道も通れたり。で、ここからが本題なんですけど、校内で本気で音楽家を目指して、真剣に音楽をやっていたのは僕くらいだったんですね。だから、僕は、学校の敷地を少し出たところにあった、音楽棟の鍵を渡されていたんですよ。

――特別に?

藤倉:そう。好きな時間にピアノの練習をしていいよってことなんですけどね。学校は男女共学なんですが、寮は別々ですし、外出時間は決められているので、彼女が出来ても二人でいられる場所がない。僕はモテなかったので関係なかったんですが(笑)、ラグビー部のキャプテンとかプリフェクトには彼女がいるんですね。で、彼らが僕の音楽棟の鍵を借りに来るんです。

――ははは(笑)。

藤倉:僕自身、現実主義で、その事実を誰かに話して得することは何一つないので秘密厳守で鍵を貸しますよね。そうすると、例えば昼食の時間、本来は5人ずつしか食堂には入れず、下の学年になればなるほど待たされるんです。僕も順番を待ちながら並んでいたら、食堂を監督しているプリフェクトが僕に向かって指を鳴らすんです。「お前は並ばなくていいよ」って優先してくれる。プリフェクトしか歩けない近道も僕は使えましたし。そういうのを彼女がいないプリフェクトが見て、僕が注意を受けていると、鍵を貸したことがある別のプリフェクトが現れて、僕を注意したプリフェクトに何か耳打ちしてるんですよ。すると、「I'm sorry」って通してくれるんです(笑)。

――すごいパワーですね(笑)。

藤倉:勉強がわからなければ教えてもらえましたし、他にもね、寮を抜け出して映画を観に行ったり、結構好き勝手やってたんです。以前、「情熱大陸」に出演したときに、母校の寮を訪ねたら、寮長は知ってたらしいですけどね(笑)。僕自身、音楽に打ち込んでいるのは見ていてわかっていたから、非行に走るようなことはないだろうっていうことで、あえて言わなかったようです。そういう意味で、音楽をやっていたからこそ得をしたことがたくさんあるんです。まぁ、こういう得した話だけではなく、音楽の力というのはすごく感じています。ほとんどの場合は良いことに使われてますが、影響力があるばかりに悪い方向にも使われる。音楽の洗脳力はすごいですよ。一般的にはビジュアルの方が強いと考えがちですけど、音楽のほうがパワフルだと思います。

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