【インタビュー】ピアノロックバンド・アカシアオルケスタ、「ギターサウンドに敵意むき出しで、血気盛んだった頃の尖った感じが蘇った。」
関西を中心に活動しているピアノロックバンド・アカシアオルケスタ。
◆アカシアオルケスタ 『ヒョウリイッタイ』 画像、ミュージックビデオ
インディーズ時代、初アルバム『テアタリシダイ』(2007年10月リリース)の制作から始まった彼らの活動。バンドとしてのアイデンティティーであるギターレスのピアノロックは、当時としても珍しく、今でもまだ珍しい。
だが、そのアイデンティティは、他にない個性としてアカシアオルケスタをアカシアオルケスタたらしめる。
2作目のアルバム『カゴノトリ』を2008年10月にリリース、2010年には現・オーマガトキに移籍、メジャー1st『タイクツシノギ』(10年12月リリ-ス)、2nd『メカシドキ』(11年11月リリース)と、アカシアオルケスタにしかできない音作りを聴かせてくれた。
そして3月20日、ファン待望の3rd『ヒョウリイッタイ』の登場だ。これこそまさに彼らのアイデンティティーであるピアノロックの面白さ、力強さ、可能性の大きさを詰め込んだ1枚になった。
北川:今回は原点回帰というか、もう一度ピアノロックという僕らの原点に立ち帰ってアルバム作りをしようと取り組んだ音。
そういうのは北川慶祐(Dr)。確かに1曲目の「グンモニ」から、その雰囲気は伝わってくる。「グンモニ」には歌詞がない。
藤原 岬(Vo)は、インタビューのたびにこんなことを言っている。「私はボーカリストとして、歌をひとつの楽器として捉えている。だから、全体の音に導かれるように、歌い方も変化してくる。」と。
まさに言葉通り。藤原 岬のボーカルは、アカシアオルケスタを構成する「音」のひとつになり切っている。その象徴が、この1曲目なのだ。
北川:スタジオでワイワイと音楽をやっている素のアカシア、生のアカシアを感じ取ってもらえる曲。
岬:言葉がなくてもテンションは伝わると実感できた曲。
そして、アルバム『ヒョウリイッタイ』は怒涛のように、アカシアオルケスタの世界を展開する。北川の言う「原点回帰」を、メンバー全員がはっきりと意識している。
西村広文(Key):ピアノバンドをやってきて、なにか普通な感じになっていたけど、今回のアルバムでは自分を今一度掘り起こした感がある。例えばギターサウンドに対してもっと敵意むき出しで、血気盛んだった頃の尖った感じが蘇った。
佐野 優(Ba):僕らは、唯一。音楽シーンにピアノバンドで、こんなことできるんだぞという挑戦状を叩きつけて、気付けの一発という感じの作品を残せたという実感がある。自分たちの軌跡を全て封じ込めた、最高傑作と思えるものができた。
2曲目の「スーパースター」からは、「グンモニ」でアカシアオルケスタが強く指し示す方向性、「ボーカルも楽器」ということが、ますます鮮明になる。なにしろ、藤原 岬の歌声は、曲ごとに別人が歌っているかと思うほどに変幻自在でありながら、説得力は消えない。一つ一つの曲のボーカルが、音の中で違和感なくしっくりと接着剤のようになって曲を作り上げている。それが、ラスト12曲目まで続くのだ。
西村:うまい人はいっぱいいる、音程がいいとか声量があるとか。でもそういうことじゃない。曲に色や表情を与える歌い方、表現は、藤原 岬ならでは。
このアルバム作りへの布石があったという。
北川:前作を作り終わった時に、藤原がもう一度サウンド面を見つめ直そう、ピアノロックに立ち帰ろう、原点回帰するために個々の演奏能力、バンドとしての表現力をもっと高めたいと言ってきた。だから、このアルバムを出すまでに多少時間がかかった。でも、非常にいい機会だった。ここが俺らの肝なんや、ど真ん中やと見つめ直せたし、挑戦することもできたと思う。
その中で、藤原 岬のヴォーカルだけでなく、個々の演奏能力、表現力は「飛躍的に変幻自在」になっている。
メンバーひとりひとり、一押しの曲は違うようだが、筆者の一押し曲を言えば、8曲目の「日々草々」。この音の構成は聞いたこともない様なワクワク感。キーボードは打楽器だったと気づかせてもくれる。幅の広いベースラインが醸し出す不安感の中で、ボーカルの安定感が逆に、更に不安を煽りながら、「ハイライト」になだれ込んでいく。
西村:ベースなんて、このアルバム聴いたら『こいつはベースという楽器をわかっているのか?』と思われかねない。ベーシストとしての評価が下がるんじゃないかって(笑) 身を切ってベースの概念をぶち壊してる。
それはピアノとて同様。
北川:ピアノの王道を踏まえた上で、『ピアノでこんなん演ったったぞ』みたいなプレイや、『ピアノやからこうやったんだぞ』みたいな、西村の“表裏一体”の音楽に対するアプローチが光った。
“表裏一体”。それこそが今回のアルバムタイトル。『ヒョウリイッタイ』の意味を藤原 岬は、こんな言葉で説明する。
岬:すべては紙一重。表も裏もどちらかだけでは成立しないもの。光と影があってひとつのものが出来上がるという、あり方。
藤原 岬の紡ぎ出す言葉。これはすでに哲学の領域である。今回は触れないが、アカシアオルケスタの詞、これは大学の卒論テーマにしても良いくらいのもの。大学生諸君、機会があったら、誰かトライしてくれ!
text by 加藤普
photo by HIDEKI Namai
◆インタビュー チャンネル
◆アカシアオルケスタ オフィシャルサイト