【ライブレポート】lynch.、熱気がドッと押し寄せ言葉を失うほどに凄まじい手拍子と拳の一体感を引き起こした7大都市ツアーの最終日

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年明け早々行われたMERRYとの2マン・ツアー、そして3月の初Zepp Tokyoワンマンで華々しく幕開けたlynch.の2012年は、言うなればまさしくライヴ三昧の一年であった。6月の2ndアルバム『INFERIORITY COMPLEX』リリースに伴って27箇所28本に及ぶライヴハウス・ツアー<THE FATAL EXPERIENCE>を敢行し、通常のツアーでは訪れる機会の少ない土地を重点的に全国津々浦々まで進撃。さらに10月の2ndシングル「LIGHTNING」発売を挟んでは、全国7大都市を回るツアー<THE FATAL EXPERIENCE#2-SEIZE THE MOMENT->とFCツアーを並行して行ったのに加え、合間には各種イベントにも積極的に参加と、2012年のlynch.にとって“ライヴは日常”であったと言って過言ではない。リーダー玲央(G)の語るところによると、それは2011年のメジャー・デビューに伴うメディア露出/活動規模の拡大に奢らず、ライヴバンドとしての己の地歩を固めるためのものであったという。

◆lynch.、7大都市ツアー最終日~拡大画像~

結果、7大都市ツアーの最終日となった12月7日・恵比寿リキッドルームでも、ファイナルにありがちな気負いはもちろん、胸迫る感慨も湿っぽい感傷も無く、あくまでも1本のライヴとして完成度の高い、かつ切れ味の鋭いステージを展開。しかし、それがかえってlynch.の強靭なバンド力をストレートに浮き立たせる結果となり、メジャー2年目を迎えた彼らの著しい進化を証明したのだから恐れ入る。

メジャー1stシングル「MIRRORS」でスタートすると、序盤からファストなパワー・チューンを間断なく繰り出し、有無を言わさぬ音圧とガッチリ噛み合ったアンサンブルで、オーディエンスをグイグイと牽引。2曲目「MOMENT」では晁直により恐ろしく正確に弾き出される2ビートに葉月のタフな咆哮、そして明滅するストロボの織り成す恍惚世界に熱情を煽られて、「I BELIEVE IN ME」「59.」とお馴染みの曲で振り上がる拳の壮観な景色が視界を圧倒する。その様を目にして葉月は“いーんじゃない? サイコー!”と早くもニヤリ。己の限界を探り当てようとするかのような爆走は、ヒートアップやまぬフロアに彼が水を撒いた5曲目「THE BLASTED BACKBONE」までノンストップで続いた。

フィジカルの強さを全面に押し出すことにより、中盤、lynch.のもう一つの持ち味である妖艶さを浮き彫りにしたのも見事。とりわけ葉月がエロティックにキレた動きで衆目の目を釘付けにする「melt」から、アンニュイな空気感を悠介のタッピング・ソロが暁に色づける「THE MORNING GLOW」への流れは出色だった。隙間なく攻め切る中にふと訪れた緩みが実に心地よく、“世界は美しい”というラスト・フレーズを申し分ない実感を備えて胸に届けてくれる。そしてウィスパーを交えて久方ぶりに贈られた「the whirl」の幻想世界が、眩い白光を背にした面々の強固なプレイにより、大いなるカオスを生む様を目撃できたのも嬉しい驚き。結成初期から演奏され続けてきた楽曲も、バンドの進化に伴って着実に生まれ変わっているのだ。

最新曲からインディーズ時代のナンバーまで、こうして新旧取り混ぜた楽曲群が年代の落差を感じさせず、テンポよく組み込まれていたことも本ツアーの大きな見所。例えば、明徳のスラップ・ベースが炸裂する最新アルバム収録曲「NEW PSYCHO PARALYZE」から、長年ライヴ1曲目の定番であった「I'm sick,b'cuz luv u.」へと切り替わった瞬間の歓声は凄まじく、たった今ライヴがスタートしたかのような沸騰ぶり。“雨降らせるぞ!”という葉月の煽りに応えるようにフロアからは湿った熱気がドッと押し寄せ、それまで定位置を守っていたフロント陣は一気に左右にスイッチし、言葉を失うほどに凄まじい手拍子と拳の一体感を「ALL THIS I'LL GIVE YOU」で引き起こす。しかも、付点8分のディレイを筆頭にクリーンなギター・フレーズが、激情の裏に儚い美しさを敷いて、憂いある表情を垣間見せるのだからたまらない。

爆音なのに切なく、高速なのにキャッチー。通常ならば共存しえない二者を彼らが兼ね備えてしまえるのは、高い演奏力だけでなく、良い意味でのリスナー目線を失わないからなのだろう。本編の最後には葉月いわく“今までになく深いメッセージ性を籠めた”という最新シングル「LIGHTNING」をドロップ。“今、この瞬間を悔いなく生きろ”というシンプルなメッセージが、耳馴染みのよいメロディに乗ってオーディエンスの心を揺さぶり、一斉に頭上にあがる拳に葉月は満面の笑顔を浮かべる。曲と歌詞、その両面でフロアとの絆を繋いだことは、アンコールでの“変な気負いなくやれてるのは、みんなのおかげ”という彼の気取りないMCからも明白だった。

そして、感動よりも柔らかな温かさをもって客席を包んだ「A GLEAM IN EYE」から始まったアンコールは、相変わらずアグレッシヴにトバしながらもファン人気の高い曲を押さえた心ニクいラインナップに。シャウト一辺倒の「TIAMAT」から、“ツアーファイナルでこんなに可愛い女の子や男の子がいっぱいいたら、何かしたくなっちゃいますね。やらしてもらっていいですか!?”と葉月が扇情的に前置いて雪崩れこんだのは、もちろん「pulse_」。これナシにライヴを終えられないド定番曲で沸く“ヤリタイヤリタイ!”の大合唱を浴びて玲央はステージから降り、明徳も思い切り客席へと身を乗り出して、「ADORE」の感動的な大合唱へと熱を繋げてゆく。そこで歌われた“そう ここから起こる現実がすべて”というフレーズが、「LIGHTNING」のメッセージとも、“SEIZE THE MOMENT”というツアー・タイトルとも絶妙なリンクを果たしてハッとさせられる。今、この瞬間を見つめる――そして生きる。そんな“LIVE”の本懐を極めたステージに、胸揺さぶられないはずがないのだ。

“ブッ壊すぜ! 今日がリキッドルーム最後の日だ!”と威勢よく始まったダブル・アンコールの「discord number」では、明徳がフロアにダイブし、その間は葉月がベースを弾くというレア・シーンも。さらに、ブレイクでは悠介の“まだまだこんなもんじゃないだろう!?”という叫びに応えて、なんと晁直までダイブ! 普段、飄々たる風情の彼がカマしたlynch.史上初の出来事に玲央は笑顔で拍手を贈り、葉月は“歴史が変わった!”と感嘆してみせる。ひたすらに熱く、激しく、そして歓喜に満ちあふれた2時間。しかし、それはファイナルだからの“特別”ではなかった。今の彼らは、ただ“いつものライヴ”をするだけでオーディエンスを熱狂の渦に叩き込み、吐き出される歌とかき鳴らされるサウンドの嵐で身も心も満たすことのできる、まさに怪物なのだ。

アンコールのMCでは2月20日のニュー・シングルリリースと、3月2日のZepp Diver City Tokyoワンマン<THE FATAL EXPERIENCE#3>も発表。前者については“今まで、こういう曲がシングルになることはなかったんじゃないかって曲”、後者については“9ヶ月やってきたツアーの完結を、ぜひ見届けに来てほしい”と語ってくれたので、楽しみに待ちたい。

“さらに狂暴なアルバムと恐ろしいツアーを回るんで、来年もよろしく!”

その葉月の言葉は2013年、間違いなく現実のものになるはずだ。

取材・文●清水素子

◆lynch. オフィシャルサイト
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