西本智実【特別インタビュー】女性指揮者が開く前人未踏の新たなクラシックの扉
▲photo:大木大輔
西本:そうなんでしょうね。だからと言って、いつでも前向きでいられるわけではないですけど。本番前とか、何か作品に取り組み始めたときというのは非常にネガティヴになります。でも、現場に入ったときに、ネガティヴな指揮者って嫌でしょう?(笑)だから、現場に入るまでには自分の中で覚悟を決める。解決する。私の場合、そういうことを自分の中で立証するには、自分自身がネガティヴな作業を通る必要があるわけです。
――モノを作るときは、そうやって内に入り込まないと生み出せないですよね。
西本:特にオペラなんかを譜読みしていますと、最初の段階だと色んなものを解体していく作業なんですよ。歌詞もすべて受け入れて、かなり作品に入って行きますよね。そうするとポロポロ涙が出るんです。作品に泣けてくる。なぜ悲しいかとか、また客観的になって検証をはじめたり。最初は泣きもしなかった場面で、「こういうことか!」と後から気付きがあったりもするんですね。そういう部分は、クリエイティヴな仕事の喜びの一つです。
――クラシックの場合、再演することも多いと思いますが、そういう作品でも関わるたびに違う気持ちになりますか?
▲photo:大木大輔
――クラシックは固まっているイメージがありますけど、むしろ違うんですね。
西本:違いますね。色んな国で、色んな仕事をしていく中で、これから自分にすごく必要だなと思うのは、例えば日本で公演をやるときに、なぜ今この公演をやるかっていうこと。選曲の段階から、なぜこれをやるかっていうのが必要。「だから、この曲をやるんです!」という動機を自分の一つのメニューとして打ち出して行くのがすごく大事。新しい組織(イルミナートフィルハーモニーオーケストラ)もできたことですしね。今までは、「この曲で指揮してくれますか?」と言われてイエスかノーで応えて来ましたが、私がやりたい曲の指揮をするんじゃなくて、「今、この曲をやるべきだと思うんですけどどうですか?」って、お客さんに対しても一緒に対話をしているような、そういう感覚を持ってやる時が来たかなぁと思います。
――なるほど。西本さんが今度プロデュースされる、イルミナートフィルハーモニーオーケストラではそういうことをやって行かれるんですか?
西本:クラシックに興味のあるような方がもうちょっとこっちに踏み込んでくださるように間口を広くしたいんです。そういう人たちに対して、ワークショップ的なことをどんどんやっていくとか、そういうことも考えています。クリエイティヴの喜びがあって、本当の意味では一人では味わえない喜びというのもあるんですよ。異業種の人たちの発想を一つにして、お互いに感化しあって、また新しいアイデアが出てくるかもしれない。未来の可能性というのは、そういうところに詰まっているような気がするんです。イルミナートはオーケストラもありますが、バレエ、オペラ、その他クラシックでないものも入ってきます。とにかく、色んなことをやって行こうと思っています。日本国内だけの活動ではなく海外でもね。「○○のような」とか、そういう前例がないので、うまく説明できないんですけど(笑)。もはや、時代の先を開拓するようなものにしたいと思っているんです。色んな国とも連結していきます。いろんな形を成していくと思いますよ。誰にとっても未来は無限大ですからね。そういうものでありたいと思っています。
――エンターテインメントって言ってしまっていいのか……それだけでもなさそうですね。
▲photo:鍋島德恭
――クラシック音楽を身近に感じられそうですね。
西本:上野での結成記念公演も、野外とはいえ屋根もあるので、もし雨が降っても濡れませんし、子供も入れます。私は三歳のときに始めてクラシックバレエを見て感動したことが今につながっているんですね。今のクラシックコンサートのスタイルでは子供は入れませんから、もし当時もそうだったから、私の人生はどうなっていたか。そういうことを考えると、子供のときからクラシックに触れる機会を持ってほしいと思うんです。できるだけいろんな人たちに、遊びに来る感覚で来てほしいと思います。もう動きはじめているものもありますから。今思っていることは3年後には実現したいです。でも、きっと3年後には、また新しい目標が増えているんでしょうね(笑)。
取材・文●大橋美貴子
<大和証券グループPresents イルミナートフィルハーモニーオーケストラ結成記念コンサート>
11月2日(金) 東京 上野恩賜公園野外ステージ
11月3日(土) 東京 上野恩賜公園野外ステージ
お問合せ:結成記念コンサート事務局 Tel 03-3505-1322 (11:00~16:00 土日除く)
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