絢香、完全復活を果たした絢香の魅力を再確認

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絢香 Special Issue 完全復活を果たした絢香の魅力を再確認

絢香 この類い稀な“歌”と“人間”の魅力

ライヴレポート<LIVE TOUR 2012“The beginning”~はじまりのとき~>@横浜アリーナ 2012.8.8

4月27日、日本武道館からスタートした、絢香の4年振りとなるツアー<LIVE TOUR 2012“The beginning”~はじまりのとき~>が、8月8日、横浜アリーナの公演でファイナルを迎えた。

このツアーは、今年2月にアルバム『The beginning』で音楽活動を再開させた彼女が、全国のファンと「ただいま!」「おかえり!」と挨拶を交わすようなツアー。そのラストを飾る横浜アリーナは、各地で得た温かい声援までもが歌にこもったような、パワフルかつハートフルなスペシャルナイトとなった。

開演時間を少し過ぎた頃、ザワつく場内にシンセが奏でる音がフワァーっと響きはじめた。音が次第に大きくなるのに合わせ、少しずつ照明が暗くなり、静まりかえる客席。絢香のイニシャル“A”をかたどったモニュメントが光り輝き、天井に向かって上昇していく。まるで月が夕暮れどきの空に昇って行くような光景。荘厳な雰囲気のなか絢香が登場すると、ひときわ大きな拍手がステージに向けられた。オープニングは「The beginning」。曲の頭はピアノと絢香の声だけだ。乾いた大地を潤すようなオーガニックで瑞々しい歌声が、横浜アリーナに充満し、オーディエンスを一気に日常から絢香ワールドへと連れていった。1曲目では近寄りがたいオーラで、観ている人が鳥肌が立つほどの神々しさを見せたかと思えば、2曲目の「笑顔のキャンバス」では一気に親しみやすい絢香の素顔がのぞく。「今日は最高の時間にしたいと思ってるから最後までよろしく!」と、満面の笑みが眩しい。

改めましての最初のMCの第一声は「ただいまー!」。場内も一斉に「おかえりー!」と応じる。まるで長らく会えなかった地元の友達に久しぶりに会ったときのように、ブランクを感じることなく近況を報告しあっているような距離感。

「みんなに会えて最高に嬉しい気持ちと、ありがとうという気持ちを歌に込めて、一人一人に届けるから!」

「夢を味方に」では場内全員の手拍子に合わせて絢香が唄う。1曲1曲、客席の後ろにいる人までもしっかりと見つめながら、言葉をかみしめるように届けようとしているのが伝わる。

2回目のMCでは、客席から飛ぶ、「絢香~!」というかけ声に、「はぁい」と何度も返事をする場面が印象的だった。来てくれたみんなが愛おしくて仕方ないのが、返事をする絢香の声にこもる。2年もの間、ファンと離れていた時間は、距離ができるどころか、絢香とファンとの絆をより強くしたのだということもしっかりと感じられた。今回のツアーは4年振り。「各地でみんなに会えるのが嬉しくてあっという間だった」と、各地の思い出を楽しそうに振り返る。絢香にとって「改めてライヴっていいなぁって感じたツアーでした」という。

7曲目「繋がる心」では、イントロに乗せ、「座ったままでいいから手拍子なんてしてみませんか?」と呼びかける絢香。この曲では客席の手拍子がパーカッションとなり、場内全員参加で一曲を作り上げた。昔から、こういうピースフルな空間を生み出すのは絢香の得意技だ。会場いっぱいに笑顔が広がり、リズムを奏で、一緒に唄う。

しかし、この曲が終わり、絢香がステージから消えると、場内の空気がガラリと変わる。フォークロアなフィドルの扇情的な音色にアコーディオンが重なる。そこにニ胡までも加わり、混沌としたインタールードを奏でる。再び現れた絢香は、オープニングの白と黒の衣装から雰囲気を変えて、大人っぽい赤の衣装でドラマティックに登場し「HIKARI」を歌い上げた。「空よお願い」は、もう会うことができない大切な人を思う歌。唄い終わったあとのMCで、絢香が曲ができたいきさつを聞かせてくれたが、この曲はとあるレストランでもらった手紙を元に作ったそう。改めてレコーディングしたのだが、デモ音源を録った時の空気感を越えることができなくて、アルバム『The beginning』には、デモをそのまま収録したという。「音楽って生モノ。その場の空気はその時だけのもので再現できない」と、この日も、この日にしか聴くことができない、「空よお願い」をアルバムでもそうだったようにピアノと歌でシンプルに聞かせてくれた。茜色のライティングが、まるで夕焼けの空の下で聞いているようなノスタルジックな雰囲気だった。

10曲目には「みなさんが強く願う未来をイメージしながら聞いてください」と「ツヨク想う」が披露された。NEWS ZEROのテーマソングとして書いた新曲だ。ここからライヴはどんどんディープに熱く加速する。ツアーのサポートメンバーと共にレコーディングしてアルバムに収録した楽曲「THIS IS THE TIME」は、ツアーを経て、よりグルーヴが増し、衣装チェンジをして唄ったAdelleのカバー曲「Rolling in the Deep」では、絢香の歌唱力、表現力がより際立った。感動的だったのは14曲目の「おかえり」。「おかえり I'm home」というサビを唄う場内の大合唱が、本当にファンのみんなが絢香の帰りを待っていたんだなと、目頭が熱くなった。

本編は「はじまりのとき」で静かに幕を下ろした。1曲目「The begining」もはじまりの歌であり、ラストもはじまりの歌。絢香の音楽活動は、ここからまた始まって行くのだという決意も感じさせるような流れ。ステージを降りた絢香を追いかけるように、アンコールをせがむ拍手が……と思いきや、オーディエンスは拍手の代わりに「おかえり」のサビを誰からともなく唄いはじめた。
「おかえり 絢香 帰る場所 愛をありがとう」

最初はちょっとズレていた合唱も、どんどん一つになっていく。なんて温かいアンコール。そこにビッグスマイルで登場した絢香が自分の声を重ねた。

「みんなにはいっぱいいっぱいパワーをもらってしまいました。返し足りないから、もうちょっと唄っていい? お休み中、みんなと私を繋いでくれた曲です」と「みんな空の下」を唄う。ライヴで唄ったところを想像して作ったという「キミへ」で、ライヴは幕を閉じた。

活動休止以前にも絢香のライヴは何度か観た。彼女は音楽の持つパワーを信じ、音楽で伝えるということをずっと続けて来たシンガーソングライターだが、休んでいた期間を経て、その思いや伝える力がさらに強くなっていることが感じられた。彼女が空のことを唄えば、屋内にも空が見えるような表現力。声ひとつだけで、場内の雰囲気までも支配し、ガラリと変えてしまう、そんな神々しさは、彼女が魂の底から唄っているからに他ならない。2年のブランクがあったからこそ、きっと彼女は、自分が歌を唄う意味や、音楽への愛を再確認出来たに違いない。そんな水面下の彼女の心理までもが浮き彫りになったようなステージだった。

ここからまたはじまる、彼女の音楽ヒストリーは、どんな物語が描かれるのだろう。

取材・文●大橋美貴子
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