【D.W.ニコルズ・健太の『だからオリ盤が好き!』】第32回『オリジナル盤と再発盤 ~Boz Scaggs、 Ry Cooder編~』

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もう1枚は、『RY COODER / BOOMER'S STORY』

大好きなライ・クーダーの作品の中でも特別好きな、1972年の3rdアルバム。邦題「流れ者の物語」。次作からはワールドミュージックへの傾倒が顕著に現れていきますが、この3rdは、1st・2ndアルバムからの流れでもある“アメリカンルーツ探求の旅”の一つの到達点といった作品と言えると思います。

カヴァー曲を含めた佳曲群は、極めてシンプルなアレンジの中にもライならではの洗練されたアレンジが散りばめられていて、楽器達の音数の少ない絶妙なアンサンブルも、実によく練られているように思います。また、ライの素晴らしく表情豊かなギターと、決してうまくはないけれど素朴で味わい深いヴォーカルは、名うてのセッション・ミュージシャン達によるシンプルな演奏の中で、際立つようでありながら、ずっと昔からそこにいたように溶け込んでいます。


▲【写真(5)】 最初に買った『Boomer's Story』US再発盤のレーベル。
アメリカ南部の、カラッカラに乾いた土埃の匂いのする『BOOMER’S STORY』。ライ・クーダーの数多くの作品の中でも指折りの、歌心に富み、ギターの表情豊かな、奥深い作品だと思います。

その大名盤、僕が値札の表記を頼りにオリジナル盤だと思い込んで買ったレコードのレーベルがこれです【写真(5)】。REPRISE RECORDSの所謂「タン」と呼ばれる黄土色のような色のレコードレーベル。

このデザイン自体は1970年頃からレコード終焉期まで使われ続けたので、前述のアトランティックレーベル同様、デザインだけでプレス年代の特定はできません。なのでこれも同じようにレコードレーベルのリム部に記されているレコード会社の所在表記でプレス年代を見分けます。


▲【写真(6)】 リプリーズの親会社であるWarner Bros.のロゴ。
僕が最初に買ったこのレーベルには、そのリム表記の最後の「Made in U.S.A.」の前に、アルファベットの「w」をモチーフにしたロゴ・マークが入っています【写真(6)】。これはリプリーズの親会社であるワーナー・ブラザーズ(WARNER Bros.)のロゴ・マークで、1975年頃からリムの所在表記に入るようになりました(さらに年代によって住所の表記が変わります)。したがってこのレコードレーベルは1975年以降のプレス。『BOOMER’S STORY』のオリジナルリリースは1972年なので、僕がオリジナル盤だと思い込んで買ったこのレコードは、実はUS再発盤ということになります。

この再発盤は盤の状態がとても良くて音質も十分良かったのですが、やはり好きな作品であればあるほどオリジナル盤で聴きたいもの。音数が少なく雰囲気が大切な作品なら尚更です。

ということでこれは躍起になってオリジナル盤を探して、割とすぐに手に入れることができました。せっかくなので、少し見比べてみましょう【写真(7)】【写真(8)】。


▲【写真(7) / 左】 USオリジナル盤のジャケット。日焼けや傷みで貫禄が出ている。 / 【写真(8) / 右】 再発盤でもオリジナル盤と仕様は全く変わっていない。

まずジャケットですが、色褪せや日焼けなどによる貫禄の違いはありますが、作りや紙質は同じ。背表紙や品番、レコード会社の所在表記も全く同じです。


▲【写真(9)】 USオリジナル盤のレコードレーベル。
レコードレーベルを見てみると、前述したようにリプリーズのレコードレーベルのデザイン自体は1970年以降変わっていないので、オリジナル盤も同じ「TAN」レーベルです【写真(9)】。しかしそのリム表記が全く違っていて、オリジナル盤では会社の所在表記は無く、「REPRISE RECORDS, A DIVISION OF WARNER BROS. RECORDS INC. Made in U.S.A.」のみで、もちろんワーナーのロゴもありません【写真(10)】。

聴き比べてみると、やはり深み、奥行きが全然違います。単純に言ってしまえば低音、中低音がよりふくよかに出ているということなのかもしれませんが、結果、全体的な印象としては再発盤よりも少し暗めというか、憂いのある表情がより出ているような印象です。でもしっとりすることなくとてもカラっとしていて、埃っぽい空気感もオリジナル盤の方がより出ているように感じるからこれまた不思議なものです。


▲【写真(10)】 オリジナル盤ではリムに所在表記は無くシンプル。
しかし、最初に買った再発盤がとても状態が良いのに比べて、後から急ぎ買い直したオリジナル盤は傷が多目なので、音数の少ない内容だけにちょっと気になってしまいます。早く盤質の良いオリジナル盤を手に入れたいところです。

レコードレーベルの話に少し戻りますが、オリジナル盤【写真(9)】と再発盤【写真(5)】のレーベルを見比べてみるとで色合いや質感が違っています。リプリーズのレコードの場合、'70年代前半のプレスではレーベルの色が少し濃く、質感もツルツルしていることが多いようです。こういった質感の違いは、プレスの年代によって違っている場合ももちろんあるのですが、同じ年代のプレスでもプレス工場によって違うという場合もあるので、なかなか一概にこうとは言えない難しさがあります。そういうところがまたハマってしまう要素の一つでもあるのです。

この2枚の再発盤、発見したときは悔しい気持ちだったのですが、こうしてじっくり振り返ってみると、この“失敗”もまた良い想い出に思えて来て、何だかこの再発盤にも愛着が湧いてしまいました。手放さずに置いておこうと思います。ま、もうそんな失敗をすることもないでしょう。

オリ盤探求の旅はまだまだ続くのであります。


text by 鈴木健太(D.W.ニコルズ)

◆連載『だからオリ盤が好き!』まとめページ
◆鈴木健太 Twitter(D.W.ニコルズ)

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「イイ曲しか作らない」をモットーに、きちんと届く歌を奏で様々な「愛」が溢れる名曲を日々作成中のD.W.ニコルズ。
2005年9月に、わたなべだいすけ(Vo&Ag)、千葉真奈美(Ba&Cho)が中心となり結成。
その後、鈴木健太(Eg&Cho)、岡田梨沙(Drs&Cho)が加わり、2007年3月より現在の4人編成に。
一瞬聞き返してしまいそうな…聞いた事がある様な…バンド名は、「自然を愛する」という理由から、D.W. =だいすけわたなべが命名。(※C.W.ニコル氏公認)

◆D.W.ニコルズ オフィシャルサイト
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