ケミカル・ブラザーズ、ライブ映像へのこだわりとその芸術性【前編】
ケミカル・ブラザーズが発売したCD+DVD『DON'T THINK-LIVE AT FUJI ROCK FESTIVAL-』は2011年のフジロックでヘッドライナーを務めたケミカル・ブラザーズの初めてのライヴ作品だ。美しい映像が話題の映像作品だが、今、ライブをリリースするのはなぜか?
◆ケミカル・ブラザーズ画像
──ケミカル・ブラザーズとは20年近く一緒に活動されていますが、今になって何故ライヴを収録
することになったんですか?
アダム・スミス(今作の監督):以前からライヴを撮影する話はあったんだけど、いつも何かが引っかかって、なかなか踏み切れなかったんだ。何故ならケミカル・ブラザーズのライヴは、実際に会場に行かないと体験できないマジカルなものだからだ。でも今回のツアーの話が来た時に、もしライヴ映像作品を作るんだったら今しかないと思ったんだ。今回のトムとエドが手掛けたセットは、いわゆるアルバムをプロモートするためのものではなかった。究極の“パーティーセット”を、実に自由な発想で作り上げていったんだ。音楽的観点からは、今までで最高のセットだと僕は思っている。殆どのヒット曲を網羅している今回のセットは、単にヒット曲を連発するのではなく、サウンドやエネルギーの容赦ない攻撃とも言える内容だ。また照明、そしてヴィジュアルの連携も過去最高のものに仕上がっている。今回初めて映像と同じくらい照明にもこだわった。今まではツアーが進むにつれ照明のシークエンスが進化して行ったけど、今回は始まりから照明シークエンスもプログラムした。時には照明のシーケンスに合う映像を作った。例えば、スクリーンに映ったダンサーが手を「バン」って振り下ろすと、それに合わせてストロボが点滅し始める。観客が特に気付くポイントではないかも知れないけど、でも身体では絶対感じていると思う。そういった点に物凄くこだわった内容なんだ。間違いなく音楽、映像、そして照明においても今までの概念の枠間を超えていた。だからライヴ映像作品を作るなら今しかないと思ったんだ。それに悲観的かも知れないけど、今後何があるか分からないし。こんなに上手く全ての要素がフィットすることは今後ないかも知れないし、この先何が待っているか分からない世の中だからね。
──皆さん結構最初からノリ気だったんですか?
トム・ローランズ:エドを説得するのには少し時間がかかった。彼が躊躇した理由は良く理解できる。今回の映像作品がライヴに取って替わるものだと僕らのファンに認識して欲しくなかったんだ。照明、音、匂い、汗、それらのヴァイヴ全てはライヴでしか体感できない、その場にいる皆としか共有できない特別なものだからね。でも当初の懸念を打ち消すことができ、次第に今までとは全く違うもの、新しい分野でクリエイティヴなものが作れるかも知れないと思い始めたんだ。アダムは言うまでもなく素晴らしい監督だし、信頼もしているし、誰よりも僕らのコンサートの力学を理解している。彼になら安心して任せられると思ったからこの話に乗ったんだ。
エド・サイモンズ:僕はあまりノリ気ではなかった。既に多くの人がコンピューターの前で1日何時間も過ごしている。それなのにこのような映像作品を見るために更に1時間半もの時間をコンピューターの前で過ごしてもらうことは、少し時代遅れに思えた。でもこの映像は映画館でも楽しんでもらえるから、そういう意味ではライヴと同じように他の人と共有できる。それはいいと思えた。あともう一つ心配していたことがある。年月を重ねるにつれて、僕らのライヴは大きなスクリーンの下で、ただ2人の男が小さなノブを回しているだけだと批判されてきた。過去のフェスとかで収録された映像を見ると、正直その通りだと思えてしまう。だから過去の映像とは全く違うものを僕ら自身が収録するべきだとアダムから説得され、やっと首を縦に振ったんだ。そもそもライヴでカメラがウロチョロしているのがまず嫌いなんだ。その時、その瞬間に流れている音楽、映像、そしてファンの皆を大切にしたい。カメラがウロチョロしているとせっかくの“それぞれの瞬間”が希薄してしまう可能性が十二分にあるからね。
──ケミカル・ブラザーズのライヴを観客の一員として初めて体験してみた気分は?
トム:とても嬉しかったよ。大満足さ。ライヴの雰囲気や体験がかなり緻密に再現できている。今までたくさん過去のライヴ映像を見てきたけど、ライヴ独特の体験をいまいち再現できていないものばかりだった。ライヴ・コンサートに勝るものはない。だから最初からライヴ・コンサートとは一味違うものになることは分かっていた。ただ少しでもそのフィーリングやあのヴァイヴスを伝えられるとしたら、それはアダムにしか出来ないことだと確信していたから、当初からアダムの思い描く通りの作品にするべきだと思っていた。20年間一緒に活動してきたけど、その関係のドキュメンタリーを制作するのはもちろん一大プロジェクトだ。スクリーニング・ルームで初めて作品を見た時はとても興奮した。押し寄せて来るサウンド、映像、そして照明の波、観客に混じり撮影するハンディカム。全てがとてもエキサイティングだったよ。
エド:今までリハーサルやサウンドチェックの時にもちろん映像を確認してきたけど、本番の時にその映像と音楽がどのように作用しているかは実際に見たことがなかったから、今回観客の立場になって見ることができたのは正直素晴らしかった。僕らのライヴは年月を重ねるにつれ変化してきた。今は以前ほど激しくない。上手く伝わるかどうかわからないけど、今のライヴの方がよりエモーショナルだと思う。映像もまるで映画のようで、実にたくさんの素材が盛り込まれている。今回作品を見ることができて本当に良かったよ。大音量の最高のサウンド、そして美しいヴィジュアルが本当に上手く混ざり合っている。多くのファンの心を動かすに違いないよ。正直、見終わったあと少し疲れていた。でもそれはそれで良いことだと思う。90分間の映像作品がまさに僕をライヴ会場へとタイムスリップさせてくれたんだから。
──皆がなぜ興奮するのかが分かりましたか?
エド:もちろん。トム、アダム、僕、そして(プロデューサー兼ヴィジュアルの共同ディレクターを務める)マーカス・ライヨールの過去19年間にわたるコラボレーション。それがどのように人々に作用してきたのか。それを今回こういう形で確認することができて良かったよ。音楽を聞いている内に圧倒され、自制心を失い流れに身を任せている。僕らのライヴがそのような効果を持っていることを再確認できて嬉しかった。過去に何度か、会場の中で一番熱意のない、無気力な奴が僕の目の前に立ったことがあるんだ(笑)。まるで一番前まできて、「俺ここでなにしているんだろう」って思っているかのようだった。だからいつもとは違う、他のファンのリアクションを見ることができて良かったよ。一番嬉しいことは数多くの素晴らしいヴォーカリストとのコラボレーション、そしてアダムが手掛けてきた、ケミカル・ブラザーズにとって必要不可欠で、本質的な要素であるヴィジュアル・エレメントの記録を残せたこと。これらを映像として永久保存できたことはとても嬉しく思っている。
──あまりテレビとかに出演されないですよね。『DON'T THINK』の制作に踏み切るのにはかなりの覚悟が必要だったのでは?
エド:テレビに出たことはないかな。一度だけ、MTVビデオ・ミュージック・アワードの授賞式に出たことがある。エジンバラ城の前でフレーミング・リップスと「Golden Path」を演奏した時だった。良いライヴにはカメラでは捕らえられない特別なフィーリングがあると思っているから、今まであまりテレビに出たり、ライヴを撮影したりしてこなかった。ライヴのフィーリングを再現することができないことが、僕らにとって最大の障害だったんだ。
トム:僕らは今まで一度もテレビの生放送番組に出演したことはない。これからもないだろう。テレビスタジオで少人数のオーディエンスの前で演奏することほど僕らのライヴとかけ離れていることはない。わざわざ僕らのライヴを見に来てくれたファンのために演奏するべきだと僕らは思っているし、せっかく来たのに目の前をカメラがウロチョロするのは嫌だろう。中にはカメラの動きを第一に考えるバンドもいる。フェスに行くとカメラとか、テレビ中継用の機材を置くためにバンドとオーディエンスの間にかなりのスペースが設けられていることがある。僕らは来てくれたファンを最優先するべきだと思っているから、ファンの楽しみを妨げるようなことはしたくないし、今後もしないだろう。とは言え、ツアーの話が進み、アダムがすごく興奮し始めたから色々考えなければならなかった。僕らにとってフジロック・フェスティバルは本当に特別なフェスなんだ。とてもマジカルな環境で開催され、素晴らしい大自然の中でオーガナイザーの方々もすごく親切で、僕らが成し遂げようとしていたことにとても協力的だったので、フジロックで撮影するべきだと思ったんだ。アダムには絶対的な信頼をおいている。僕らが伝えようと、作り上げようとしているフィーリングを理解してくれているからね。一緒にそのフィーリングを生み出してくれたメンバーでもあるし。セイバーソニック(Sabresonic)で行った僕らの初ライヴ(94年2月)の映像を手掛けたのもアダムだった。以来ライヴの映像は全て彼が担当してきた。ケミカル・ブラザーズの今の姿や映像、PV、そしてジャケットスリーブにまで彼は大きく貢献している。同等の品質のものが出来上がると確信してなければ今回の映像作品は生まれなかったであろう。
──この映画、そしてあなた方の最新作『時空の彼方へ』(Further)が映像を主体とした作品だという事が興味深いですね。面白いですね。
アダム:過去に何度か特別出演したことはあるけど、基本大掛かりな写真撮影とか、演技することに対しては前向きではない。でもヴィジュアル・アイデンティティは、ケミカル・ブラザーズにとって重要な要素であり、彼らのヴィジュアル・アイデンティティはデビュー当時からしっかりしていた。ミシェル・ゴンドリーやスパイク・ジョーンズのような世界有数の監督とコラボレートし、素晴らしいビデオを作ってきた。各作品に適したタレントを見つけ出し、実に上手くコラボレートしてきた。それができるバンドとできないバンドがいるから、それはある意味一つの才能だと思う。ケミカル・ブラザーズは好みがはっきりしているし、作品がどのようなものになるべきか、結構細かい指示を出すけど、それらは決して自意識過剰なものではない。とても簡明で的を得ている。今回作品を作る上で、実はオープニングのシーケンスで結構手こずっていたんだ。そしたら映像を見終わったトムが「気に入ったけど、頭の部分どうするんだ?」って聴いてきたんだ。細かい指示はなかったけど、彼は見ている人を映画の世界へ引き込む何かが欠けていたことを理解していたんだ。ライヴが始まる前は照明が暗かったから、始まる直前の皆の期待感を捕らえた映像がなかったんだ。彼はとても落ち着いたトーンで、「頭の部分、どうするのかは分からないけど、何とかしないとね」と言った。もちろん彼の意見は正しかった。そこで思いついたんだ。トムが指先でライヴデスクを触る行為、それはまるで、これから90分間皆が体験するサイケデリックな巨大ローラーコースターのエンジンをかけるようなものだと。そのシーンを映画のイントロとして使い、見る人の期待感を高めたんだ。
──先程アダムが最新のライヴセットを見た際に、撮影を決めたと言っていましたがファンを喜ばせる完璧な“パーティーセット”を作ることを意識していたんですか?
トム:2011年『時空の彼方へ』のツアーを行った。ライヴでは各トラックに紐づけられた新しいヴィジュアルと共にフルアルバムを最初から最後までプレイした。この時は具体的なプランに基づいてライヴを行った。普通はリリースしたばかりの、プロモートしなければならないアルバムがあるから、ツアーのセットは最新作からの収録曲で殆ど埋まってしまう。でも2011年のツアーに関しては「何でもあり!」の状態だったんだ。セットを決めていた時に、上手く共存できる新しい曲のコンビネーションを発見し、興奮を覚えた。例えば「Swoon」から「Star Guitar」へと、自然に流れ移ることができる。それに映像を見ていると中には結構直ぐ終わってしまう曲もあるのが分かる。「Galvanize」は僕らがリリースしたシングルの中でもかなりヒットした曲だけど、ゴタゴタとした中にある。ライヴは色んなことを試すチャンスでもある。18年、19年前にレコーディングした曲もセットに入れた。例えば「Chemical Beats」や「Leave Home」などの昔の曲と、まだリリースしていない「Superflash」の並びがしっくりきたりもした。色々試し、自然な流れになるようにセットを組み直したんだ。
エド:『時空の彼方へ』をリリースしてから1年後にツアーし始めた。通常はアルバムをプロモートするためにすぐツアーする。でも今回は、もちろん『時空の彼方へ』の曲も数曲入れたけど、基本的には過去のベスト・ライヴヒットを組み込んだセットになった。ライヴ演奏したことのある曲ばかりだったけど、過去のセットに比べて今回は演奏の仕方を変え、トーンが全く違うものに仕上がっていると思う。アダムの言った通り、僕らはもう何十年も活動してきているから、1時間半もつぐらいの良い曲のレパートリーがないとね(笑)。なかったらそろそろ引退するべきだとも思う。
──撮影場所として何故フジロックを選んだですか?
以下後編に続く
ケミカル・ブラザーズ『DON'T THINK-LIVE AT FUJI ROCK FESTIVAL-』
2012年3月21日 日本先行発売
リミテッド・エディション DVDサイズ・豪華ハードカヴァー仕様/ 初回生産限定
TOCP-71323 4,200( tax in )DVD+CD+36Pフォトブック
スタンダード・エディション CDサイズ・ジュエルケース仕様
TOCP-71324 3,980( tax in ) DVD+CD+8Pブックレット
※日本盤のみ
・ケミカル・ブラザーズ最新ロゴ・ステッカー封入
・解説付
※輸入盤のみ
3/26発売予定 Blu-Ray+CD、10インチ・サイズの豪華写真集付限定盤
LIVE DVD
1.INTRO (TOMORROW NEVER KNOWS)
2.ANOTHER WORLD
3.DO IT AGAIN
4.GET YOURSELF HIGH
5.HORSE POWER
6.CHEMICAL BEATS
7.SWOON
8.STAR GUITAR
9.THREE LITTLE BIRDIES DOWN BEATS
10.HEY BOY HEY GIRL
11.DON'T THINK
12.OUT OF CONTROL
13.SETTING SUN
14.IT DOESN'T MATTER
15.SATURATE
16.BELIEVE
17.ESCAPE VELOCITY / THE GOLDEN PATH
18.SUPERFLASH
19.LEAVE HOME / GALVANIZE
20.BLOCK ROCKIN' BEATS
LIVE CD
1.ANOTHER WORLD
DO IT AGAIN
GET YOURSELF HIGH
2.HORSE POWER
CHEMICAL BEATS
3.SWOON
STAR GUITAR
4.THREE LITTLE BIRDIES DOWN BEATS
HEYBOY HEY GIRL
5.DON'T THINK
OUTOF CONTROL
SETTING SUN
6.SATURATE
7.BELIEVE
8.ESCAPE VELOCITY
THEGOLDEN PATH
9.SUPERFLASH
10.LEAVE HOME
GALVANIZE
11. BLOCK ROCKIN' BEATS
◆ケミカル・ブラザーズ・オフィシャルサイト
◆ケミカル・ブラザーズ画像
──ケミカル・ブラザーズとは20年近く一緒に活動されていますが、今になって何故ライヴを収録
することになったんですか?
アダム・スミス(今作の監督):以前からライヴを撮影する話はあったんだけど、いつも何かが引っかかって、なかなか踏み切れなかったんだ。何故ならケミカル・ブラザーズのライヴは、実際に会場に行かないと体験できないマジカルなものだからだ。でも今回のツアーの話が来た時に、もしライヴ映像作品を作るんだったら今しかないと思ったんだ。今回のトムとエドが手掛けたセットは、いわゆるアルバムをプロモートするためのものではなかった。究極の“パーティーセット”を、実に自由な発想で作り上げていったんだ。音楽的観点からは、今までで最高のセットだと僕は思っている。殆どのヒット曲を網羅している今回のセットは、単にヒット曲を連発するのではなく、サウンドやエネルギーの容赦ない攻撃とも言える内容だ。また照明、そしてヴィジュアルの連携も過去最高のものに仕上がっている。今回初めて映像と同じくらい照明にもこだわった。今まではツアーが進むにつれ照明のシークエンスが進化して行ったけど、今回は始まりから照明シークエンスもプログラムした。時には照明のシーケンスに合う映像を作った。例えば、スクリーンに映ったダンサーが手を「バン」って振り下ろすと、それに合わせてストロボが点滅し始める。観客が特に気付くポイントではないかも知れないけど、でも身体では絶対感じていると思う。そういった点に物凄くこだわった内容なんだ。間違いなく音楽、映像、そして照明においても今までの概念の枠間を超えていた。だからライヴ映像作品を作るなら今しかないと思ったんだ。それに悲観的かも知れないけど、今後何があるか分からないし。こんなに上手く全ての要素がフィットすることは今後ないかも知れないし、この先何が待っているか分からない世の中だからね。
──皆さん結構最初からノリ気だったんですか?
トム・ローランズ:エドを説得するのには少し時間がかかった。彼が躊躇した理由は良く理解できる。今回の映像作品がライヴに取って替わるものだと僕らのファンに認識して欲しくなかったんだ。照明、音、匂い、汗、それらのヴァイヴ全てはライヴでしか体感できない、その場にいる皆としか共有できない特別なものだからね。でも当初の懸念を打ち消すことができ、次第に今までとは全く違うもの、新しい分野でクリエイティヴなものが作れるかも知れないと思い始めたんだ。アダムは言うまでもなく素晴らしい監督だし、信頼もしているし、誰よりも僕らのコンサートの力学を理解している。彼になら安心して任せられると思ったからこの話に乗ったんだ。
エド・サイモンズ:僕はあまりノリ気ではなかった。既に多くの人がコンピューターの前で1日何時間も過ごしている。それなのにこのような映像作品を見るために更に1時間半もの時間をコンピューターの前で過ごしてもらうことは、少し時代遅れに思えた。でもこの映像は映画館でも楽しんでもらえるから、そういう意味ではライヴと同じように他の人と共有できる。それはいいと思えた。あともう一つ心配していたことがある。年月を重ねるにつれて、僕らのライヴは大きなスクリーンの下で、ただ2人の男が小さなノブを回しているだけだと批判されてきた。過去のフェスとかで収録された映像を見ると、正直その通りだと思えてしまう。だから過去の映像とは全く違うものを僕ら自身が収録するべきだとアダムから説得され、やっと首を縦に振ったんだ。そもそもライヴでカメラがウロチョロしているのがまず嫌いなんだ。その時、その瞬間に流れている音楽、映像、そしてファンの皆を大切にしたい。カメラがウロチョロしているとせっかくの“それぞれの瞬間”が希薄してしまう可能性が十二分にあるからね。
──ケミカル・ブラザーズのライヴを観客の一員として初めて体験してみた気分は?
トム:とても嬉しかったよ。大満足さ。ライヴの雰囲気や体験がかなり緻密に再現できている。今までたくさん過去のライヴ映像を見てきたけど、ライヴ独特の体験をいまいち再現できていないものばかりだった。ライヴ・コンサートに勝るものはない。だから最初からライヴ・コンサートとは一味違うものになることは分かっていた。ただ少しでもそのフィーリングやあのヴァイヴスを伝えられるとしたら、それはアダムにしか出来ないことだと確信していたから、当初からアダムの思い描く通りの作品にするべきだと思っていた。20年間一緒に活動してきたけど、その関係のドキュメンタリーを制作するのはもちろん一大プロジェクトだ。スクリーニング・ルームで初めて作品を見た時はとても興奮した。押し寄せて来るサウンド、映像、そして照明の波、観客に混じり撮影するハンディカム。全てがとてもエキサイティングだったよ。
エド:今までリハーサルやサウンドチェックの時にもちろん映像を確認してきたけど、本番の時にその映像と音楽がどのように作用しているかは実際に見たことがなかったから、今回観客の立場になって見ることができたのは正直素晴らしかった。僕らのライヴは年月を重ねるにつれ変化してきた。今は以前ほど激しくない。上手く伝わるかどうかわからないけど、今のライヴの方がよりエモーショナルだと思う。映像もまるで映画のようで、実にたくさんの素材が盛り込まれている。今回作品を見ることができて本当に良かったよ。大音量の最高のサウンド、そして美しいヴィジュアルが本当に上手く混ざり合っている。多くのファンの心を動かすに違いないよ。正直、見終わったあと少し疲れていた。でもそれはそれで良いことだと思う。90分間の映像作品がまさに僕をライヴ会場へとタイムスリップさせてくれたんだから。
──皆がなぜ興奮するのかが分かりましたか?
エド:もちろん。トム、アダム、僕、そして(プロデューサー兼ヴィジュアルの共同ディレクターを務める)マーカス・ライヨールの過去19年間にわたるコラボレーション。それがどのように人々に作用してきたのか。それを今回こういう形で確認することができて良かったよ。音楽を聞いている内に圧倒され、自制心を失い流れに身を任せている。僕らのライヴがそのような効果を持っていることを再確認できて嬉しかった。過去に何度か、会場の中で一番熱意のない、無気力な奴が僕の目の前に立ったことがあるんだ(笑)。まるで一番前まできて、「俺ここでなにしているんだろう」って思っているかのようだった。だからいつもとは違う、他のファンのリアクションを見ることができて良かったよ。一番嬉しいことは数多くの素晴らしいヴォーカリストとのコラボレーション、そしてアダムが手掛けてきた、ケミカル・ブラザーズにとって必要不可欠で、本質的な要素であるヴィジュアル・エレメントの記録を残せたこと。これらを映像として永久保存できたことはとても嬉しく思っている。
──あまりテレビとかに出演されないですよね。『DON'T THINK』の制作に踏み切るのにはかなりの覚悟が必要だったのでは?
エド:テレビに出たことはないかな。一度だけ、MTVビデオ・ミュージック・アワードの授賞式に出たことがある。エジンバラ城の前でフレーミング・リップスと「Golden Path」を演奏した時だった。良いライヴにはカメラでは捕らえられない特別なフィーリングがあると思っているから、今まであまりテレビに出たり、ライヴを撮影したりしてこなかった。ライヴのフィーリングを再現することができないことが、僕らにとって最大の障害だったんだ。
トム:僕らは今まで一度もテレビの生放送番組に出演したことはない。これからもないだろう。テレビスタジオで少人数のオーディエンスの前で演奏することほど僕らのライヴとかけ離れていることはない。わざわざ僕らのライヴを見に来てくれたファンのために演奏するべきだと僕らは思っているし、せっかく来たのに目の前をカメラがウロチョロするのは嫌だろう。中にはカメラの動きを第一に考えるバンドもいる。フェスに行くとカメラとか、テレビ中継用の機材を置くためにバンドとオーディエンスの間にかなりのスペースが設けられていることがある。僕らは来てくれたファンを最優先するべきだと思っているから、ファンの楽しみを妨げるようなことはしたくないし、今後もしないだろう。とは言え、ツアーの話が進み、アダムがすごく興奮し始めたから色々考えなければならなかった。僕らにとってフジロック・フェスティバルは本当に特別なフェスなんだ。とてもマジカルな環境で開催され、素晴らしい大自然の中でオーガナイザーの方々もすごく親切で、僕らが成し遂げようとしていたことにとても協力的だったので、フジロックで撮影するべきだと思ったんだ。アダムには絶対的な信頼をおいている。僕らが伝えようと、作り上げようとしているフィーリングを理解してくれているからね。一緒にそのフィーリングを生み出してくれたメンバーでもあるし。セイバーソニック(Sabresonic)で行った僕らの初ライヴ(94年2月)の映像を手掛けたのもアダムだった。以来ライヴの映像は全て彼が担当してきた。ケミカル・ブラザーズの今の姿や映像、PV、そしてジャケットスリーブにまで彼は大きく貢献している。同等の品質のものが出来上がると確信してなければ今回の映像作品は生まれなかったであろう。
──この映画、そしてあなた方の最新作『時空の彼方へ』(Further)が映像を主体とした作品だという事が興味深いですね。面白いですね。
アダム:過去に何度か特別出演したことはあるけど、基本大掛かりな写真撮影とか、演技することに対しては前向きではない。でもヴィジュアル・アイデンティティは、ケミカル・ブラザーズにとって重要な要素であり、彼らのヴィジュアル・アイデンティティはデビュー当時からしっかりしていた。ミシェル・ゴンドリーやスパイク・ジョーンズのような世界有数の監督とコラボレートし、素晴らしいビデオを作ってきた。各作品に適したタレントを見つけ出し、実に上手くコラボレートしてきた。それができるバンドとできないバンドがいるから、それはある意味一つの才能だと思う。ケミカル・ブラザーズは好みがはっきりしているし、作品がどのようなものになるべきか、結構細かい指示を出すけど、それらは決して自意識過剰なものではない。とても簡明で的を得ている。今回作品を作る上で、実はオープニングのシーケンスで結構手こずっていたんだ。そしたら映像を見終わったトムが「気に入ったけど、頭の部分どうするんだ?」って聴いてきたんだ。細かい指示はなかったけど、彼は見ている人を映画の世界へ引き込む何かが欠けていたことを理解していたんだ。ライヴが始まる前は照明が暗かったから、始まる直前の皆の期待感を捕らえた映像がなかったんだ。彼はとても落ち着いたトーンで、「頭の部分、どうするのかは分からないけど、何とかしないとね」と言った。もちろん彼の意見は正しかった。そこで思いついたんだ。トムが指先でライヴデスクを触る行為、それはまるで、これから90分間皆が体験するサイケデリックな巨大ローラーコースターのエンジンをかけるようなものだと。そのシーンを映画のイントロとして使い、見る人の期待感を高めたんだ。
──先程アダムが最新のライヴセットを見た際に、撮影を決めたと言っていましたがファンを喜ばせる完璧な“パーティーセット”を作ることを意識していたんですか?
トム:2011年『時空の彼方へ』のツアーを行った。ライヴでは各トラックに紐づけられた新しいヴィジュアルと共にフルアルバムを最初から最後までプレイした。この時は具体的なプランに基づいてライヴを行った。普通はリリースしたばかりの、プロモートしなければならないアルバムがあるから、ツアーのセットは最新作からの収録曲で殆ど埋まってしまう。でも2011年のツアーに関しては「何でもあり!」の状態だったんだ。セットを決めていた時に、上手く共存できる新しい曲のコンビネーションを発見し、興奮を覚えた。例えば「Swoon」から「Star Guitar」へと、自然に流れ移ることができる。それに映像を見ていると中には結構直ぐ終わってしまう曲もあるのが分かる。「Galvanize」は僕らがリリースしたシングルの中でもかなりヒットした曲だけど、ゴタゴタとした中にある。ライヴは色んなことを試すチャンスでもある。18年、19年前にレコーディングした曲もセットに入れた。例えば「Chemical Beats」や「Leave Home」などの昔の曲と、まだリリースしていない「Superflash」の並びがしっくりきたりもした。色々試し、自然な流れになるようにセットを組み直したんだ。
エド:『時空の彼方へ』をリリースしてから1年後にツアーし始めた。通常はアルバムをプロモートするためにすぐツアーする。でも今回は、もちろん『時空の彼方へ』の曲も数曲入れたけど、基本的には過去のベスト・ライヴヒットを組み込んだセットになった。ライヴ演奏したことのある曲ばかりだったけど、過去のセットに比べて今回は演奏の仕方を変え、トーンが全く違うものに仕上がっていると思う。アダムの言った通り、僕らはもう何十年も活動してきているから、1時間半もつぐらいの良い曲のレパートリーがないとね(笑)。なかったらそろそろ引退するべきだとも思う。
──撮影場所として何故フジロックを選んだですか?
以下後編に続く
ケミカル・ブラザーズ『DON'T THINK-LIVE AT FUJI ROCK FESTIVAL-』
2012年3月21日 日本先行発売
リミテッド・エディション DVDサイズ・豪華ハードカヴァー仕様/ 初回生産限定
TOCP-71323 4,200( tax in )DVD+CD+36Pフォトブック
スタンダード・エディション CDサイズ・ジュエルケース仕様
TOCP-71324 3,980( tax in ) DVD+CD+8Pブックレット
※日本盤のみ
・ケミカル・ブラザーズ最新ロゴ・ステッカー封入
・解説付
※輸入盤のみ
3/26発売予定 Blu-Ray+CD、10インチ・サイズの豪華写真集付限定盤
LIVE DVD
1.INTRO (TOMORROW NEVER KNOWS)
2.ANOTHER WORLD
3.DO IT AGAIN
4.GET YOURSELF HIGH
5.HORSE POWER
6.CHEMICAL BEATS
7.SWOON
8.STAR GUITAR
9.THREE LITTLE BIRDIES DOWN BEATS
10.HEY BOY HEY GIRL
11.DON'T THINK
12.OUT OF CONTROL
13.SETTING SUN
14.IT DOESN'T MATTER
15.SATURATE
16.BELIEVE
17.ESCAPE VELOCITY / THE GOLDEN PATH
18.SUPERFLASH
19.LEAVE HOME / GALVANIZE
20.BLOCK ROCKIN' BEATS
LIVE CD
1.ANOTHER WORLD
DO IT AGAIN
GET YOURSELF HIGH
2.HORSE POWER
CHEMICAL BEATS
3.SWOON
STAR GUITAR
4.THREE LITTLE BIRDIES DOWN BEATS
HEYBOY HEY GIRL
5.DON'T THINK
OUTOF CONTROL
SETTING SUN
6.SATURATE
7.BELIEVE
8.ESCAPE VELOCITY
THEGOLDEN PATH
9.SUPERFLASH
10.LEAVE HOME
GALVANIZE
11. BLOCK ROCKIN' BEATS
◆ケミカル・ブラザーズ・オフィシャルサイト
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