平原綾香、ときめき、焦り、感動、いろいろな“ドキッ!”を詰め込んだアルバム『ドキッ!』特集

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平原綾香

オリジナルアルバム『ドキッ!』2012.2.29リリース

INTERVIEW

──『ドキッ』というタイトルが、アルバムの中身を象徴していますね。

平原綾香(以下、平原):私自身も“ドキッ!”としながら作っていたので、感動もあったし、新しい発見もあったし、そういう“ドキッ!”をぎゅっと詰め込んだアルバムです。それは心がときめく時の“ドキッ!”でもあるし、ちょっとあぶないなっていう“ドキッ!”かもしれないし、それぞれに感じてもらえたらいいなと思います。みなさんがどんな反応をしてくださるか、楽しみです。

──たとえば2曲目の「HUSH HUSH」とか、60年代アメリカのガールズ・ポップのような軽快な曲調で、すごく新鮮でした。

平原:私も歌っていてすごく楽しかったです。意外とこういう曲は歌ってこなかったなーと思うし、自分の中で発見がありました。自分の体の中にはいろんな音楽のストックが入っているけれど、もうみなさんに伝えているつもりで、実はまだ伝えていなかったことがあるんですよね。それと、ちょっと話はそれますけど、私には一つのイメージがついてしまっている気がして…「Jupiter」でデビューしたからかな、バラードを歌うイメージとか、あんまり笑わない、しゃべらない、走らないとか(笑)。そういうふうに見られることが多かったんですよ。今年でデビュー9年目になって、だんだんとそういうイメージはなくなってきたような気がしますけど、やっぱりまだ自分を伝えきれていないという部分も感じますし、だからもっと表現を素直に、自分のやりたいことを明確にして伝えていかなきゃいけないと思っています。「伝える」ということは大変なことだなとあらためて感じたし、伝えていく楽しさと大切さも同時に強く感じたアルバムですね。

──都倉俊一さん作曲の「Where Magic Goes~愛のゆくえ~」、70年代の日本の歌謡曲とアメリカン・ポップスとが溶け合った、独特のムードがある曲ですね。

平原:これは都倉さんが30年前に書いた曲で、都倉さんがおっしゃっていたのは、地震があった時に棚からCDやMDがいっぱい落ちてきて、整理している時に見つけたのがこの作品だったそうなんです。それを「あーやちゃん、歌ってみない?」と提案していただいて。もともとカレン・カーペンターさんのために作っていた曲で、ジャニス・イアンさんが作詞をして、それを今回は松井五郎さんに日本語詞に書き直してもらって、そんな不思議な出会いでした。30年前とは思えないぐらいすごく新鮮な曲で、じわーっと来る曲ですよね。

──小田和正さんとのデュエット「いつも いつも」には、何かエピソードはありますか?

平原:一緒にレコーディングできることだけでうれしくて、自分の声に小田さんがハモってくださるなんて、デビュー当時からずっと夢でした。この曲は、いつも小田さんのコンサートの最後でファンのみなさんと大合唱になる名曲なので、そのような曲を歌わせてもらったこともうれしかったです。小田さんがギターを弾いて二人で歌うという本当にシンプルな形なので、「この曲は歌い上げなくていいからね。部屋の中で静かに歌っているような雰囲気で歌ってみて」ということで、このような歌い方になりました。ヘッドホンをしないで、スピーカーから聴こえる音だけで歌ったんですけど、トニー・ベネットが『デュエット』でそういうふうに歌っている映像を見て衝撃を受けて、私もやってみたいなと思っていたんですよ。そしたら小田さんも「いいね」と言ってくださったので、安心して歌えました。

──ジャズのスタンダード「Night in Tunisia」は、スキャットというか、ヒップホップで言うヒューマン・ビートボックスのようなスタイルで歌っていますね。

平原:ネットで調べて独学でやっているので、正しいやり方なのかはわからないですけど、ボイス・パーカッションと呼ばれる手法と“綾香語”で歌っています。

──“綾香語”ですか?

平原:みなさんそう言ってくれるんですけど、日本語でも英語でもない、スキャットとも違う感じの“綾香語”です(笑)。ベースの岡田治郎先生は大学時代の恩師で、フュージョン・バンドのPRISMのメンバーでもあって、最近はツアーを一緒に回っていただいているんです。そこで先生とデュオを組んで、ファンクラブのイベントでボイス・パーカッションを披露したのが始まりで、チック・コリアの「スペイン」、クラシックの「くまんばちの飛行」に続く3作目がこの「Night in Tunisia」なんです。

──歌詞にスポットを当てると、1曲目「ナミダオト」が素晴しかったです。“私が歌を歌う理由”についての決意表明のような、力強い言葉にぐっときました。

平原:アルバムの一番最後に書いた歌詞なんですが、自分だけではなくて周りのことや、世界では今何が起きているのか? ということも見ていかなきゃいけないという思いを持って書き始めたんです。去年の地震のあと被災地に行った時に、現地の人のほうが笑顔だったということがすごく印象に残っていて、私が暗い顔をしてちゃ駄目だと思ったし、もっと自分から元気を発信していく存在になりたいと思ったんですよね。自分のことだけでも必死なのに、「みんなの心に寄り添う音楽を」なんて言う資格はあるんだろうか? とか、考えた時期もありましたけど、そういう自分を許しながらそれでも歌っていくことが今は必要かなと思っているので。そういう自分の中の決意表明を、この曲には詰め込みました。

──ほかにも、たとえば最新シングル「NOT A LOVE SONG」はバリバリのモダンなR&Bチューンですし、ジャンルは本当に多彩ですよね。歌う時にはどんなところに気をつけてますか?

平原:いえ、ちっちゃい頃からいろんな曲を聴いてきたので、歌う時にはジャンル分けはしないんですよ。父(サックス奏者の平原まこと)はスタジオ・ミュージシャンでもあるので、たとえば演歌、ポップス、ジャズ、童謡、アニメの歌とかいろいろなものを吹いてきて、「今日はこんな曲をやったよ」って聴かせてもらっていたので。自分でもいろんなジャンルを勉強したいと思っていましたし、それで高校はクラシック科に行って、大学ではジャズ科に行って、どちらもちゃんと体の中に入れてから自分の音を作っていきたいという思いがずっとあって、それは今も変わらないです。少しずつですけど、今それが出せているのかなと思いますね。私の音楽は、ジャンル分けとしては「ポップス」になるのかもしれないですけど、歌う本人の中に何が入っているかで、「ポップス」にも違いが出てくると思うので。これからもいろんなものを勉強して、それが自然に出てきたらいいなと思っています。

──今回はディスク1がオリジナルアルバムで、ディスク2が昨年の<LOVE STORY TOUR>を収録したライヴ盤の2枚組になっています。ライヴのほうの聴きどころはどのあたりでしょう?

平原:ライヴアルバムをいつか出すのが夢だったので、夢がかなってうれしいです。たとえばマライア・キャリーの「I'll Be There」みたいに、『アンプラグド』のライブ音源が世に広まって行くというのはすごくカッコいいと思うし、私もそういうふうに新たな試みをやってみたかったんですよね。聴きどころはたくさんありますけど、「星つむぎの歌」はみなさんがすごく大きな声で歌ってくださっていて、本当に感動します。「JOYFUL, JOYFUL」では思い切りはっちゃけているし、「ノクターン」「Jupiter」「明日」などシングルの曲もいっぱい入ってますし、みなさんに聴いてほしい曲をライヴ盤という形で届けられるのは最高の喜びです。ぜひこちらも聴いていただいて、そしてライヴに来ていただきたいと思います。ディスク1とディスク2の全体を通して、今のベストアルバムを出したような感じがしますね。

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