lynch.、挑戦と冒険の詰まった攻撃的な初シングル「MIRRORS」リリース特集

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ニュー・マキシ・シングル 「MIRRORS」 2011.11.9リリース

INTERVIEW

──6月1日にメジャー・デビューしてから5ヵ月。その間、何かしら“メジャー”を実感することってありましたか?

葉月:バンドに対してのスタンスは何も変わってないですね。強いていえば……たまにテレビで自分を見るくらい。あれはビビる(笑)。

玲央:名古屋駅前で信号待ちしてると、目の前の大型ヴィジョンに自分が映ってたりね。あとは関わる人間の数が増えたぶん、より自分たちの意志を伝える作業がシビアになったところはあります。インディーズ時代は言わずとも通じていた部分が、言葉にしないとなかなか伝わらなかったり。ただ、そうすることで今まで通り、自分たちのやりたいことをやりたいようにできているのも事実なので、それはすごく幸せなことだと思います。

──つまり、今回リリースされる「MIRRORS」がメジャー1stシングルという記念すべき1枚にもかかわらず、初回生産限定盤という特殊な形態になったのにも、確固たるバンド自身の意図があるわけですね。

葉月:僕らだけじゃないですけどね。まず、チャート競争から外れたかったんですよ。発売日に出荷したらそれっきりなんで、すぐ店頭から消えますよ。

玲央:チャートの順位って相対評価じゃないですか。でも、僕らが重んじているのは“どれくらいの数の人に、どれくらい伝わったのか?”という絶対評価なんで、チャートに左右されるのは嫌だったんです。それをメーカーの人間に相談したところ、“じゃあ、限定にしちゃう?”と言われて、“なんて理解があるんだ!”と(笑)。

葉月:曲だけならネット上で自由に聴けるようにしてますから、CDというパッケージで、いい音で聴きたければお早目に……ってことです。

──ただ、その発売形態がシングルの方向性に影響を及ぼすなんてことは……。

葉月:それは無いです。発売形態は曲ができた後に決まったことで、とにかく絶対にこのリズムで作りたかったんですよ。理由は激しい音楽はたくさんあっても、誰も今、このビートではやってないから。要するに流行ってない(笑)。それを現代の音で創り上げたら、誰もやっていないものができ上がるだろうっていうのが、明確に見えていたんです。

玲央:だいたい20年近く前の先人たちが創り上げてきた名曲には、よく出てきたリズムなんですけどね。そういった往年のビートを今の音で提示することで、懐かしさと新しさを共存させたかったんです。だからギターのバッキングにしても、セオリー通りのことは一切やってない。でないと、ただの過去の焼き直しになってしまいますから。

葉月:具体的に言うと、ギターはミュートの刻みをやめてもらって、ドラムもツー・バスを減らしてもらいました。最初はもっとバリバリ入ってたんで。

玲央:もともと(ドラムの)晁直はハードコアやミクスチャーの畑でやってた人間なんで、ブラスト・ビートとかも得意な部類なんでしょうね。ミドル・テンポの曲を録るときよりイキイキしてましたよ(笑)。

──結果、激しいバックにメロディックな旋律というギャップが今まで以上に際立った楽曲になって、lynch.というバンドの特異性に改めて驚かされてしまいました。そのバランス感覚が素晴らしい。

玲央:でも、何も狙っているわけではないんですよ。メンバー全員がキャッチーなものと、へヴィなサウンドやラウドなドラム/グルーヴ、その両方が好きで。おのおのが考え、おのおのが音を鳴らすと、ごくごく自然な創作活動の上で生まれてくるんです。それが必然であり、僕らの存在意義でもある。やっぱり“普通”ではありたくないですから。

葉月:そこは歌詞のスタイルにも通じるところで、今回はとことん日本語にこだわったんですよ。出だしの“魔の夢”とか、ここ数年は避けてきた雰囲気のある言葉……いわゆるヴィジュアル系っぽいワードも、躊躇なく使うようになった。

──逆に、あえて避けてきた理由は?

葉月:“ヴィジュアル系”っていう言葉に阻まれるのがイヤだったんです。lynch.を知らない人たちに、ヴィジュアル系という先入観だけで聴いてもらえないのが嫌で、ソレっぽい言葉の使い方とかルックスを遠ざけてたんですね。結果、最近は一般のラウド系バンドとも対バンすることが増えてきたけれど、彼らと会話もするうちに……その“あえて遠ざける”っていう行動自体が、すごくくだらないことに思えてきて。もともと自分が持ってる武器なんだったら、素直に使えばいいだろうと。みんなが英語で歌ってる中で自分だけ日本語が得意だったら、逆にラッキーじゃん!ってことに気づいたんです。だから「MIRRORS」は日本語をメインに書いたし、そもそもこのタイトル自体、今までなら使わなかったと思う。

──天邪鬼ですね。ヴィジュアル系の中にいるときは、ココに染まりたくないと他ジャンルに寄るくせに、望み通りそちら側と混じり始めたらソコと同じになってはつまらないと。

葉月:そう。だからホントに真ん中ですね。でも、それでいいと思うんですよ。逆にルックスだけ見れば、“化粧してないからヴィジュアル系じゃない”って言う人もいるだろうし。

玲央:結局、どちらから見ても異端であるってことですね。結成当初から“異端でありたい”という想いは漠然とあったんで、最近それが形として目に映るようになったというだけかなと。もともとジャンル分けがあること自体、僕はくだらないと思う人間なんで。

──おかげで葉月さんが元来持つ艶っぽさやロマンティシズムが色濃く表れたリリックになっていますよね。ちなみにタイトルになっている“鏡”とは、いったい何の象徴なんでしょう?

葉月:人ですね。“キミ”という他人から見れば自分も鏡であると……説明しづらいですけど。もう、書きたい情景、心境を書いただけです。いわば自己完結(笑)。

玲央:そこで“月”だとか冷たいイメージの強い詞に、悠介のアルペジオが上手くリンクして、単に熱いだけじゃないサウンドには仕上がってますね。そのへんの音に関しては悠介もこだわってました。どちらかと言うとゆったりしたフレーズのほうが得意な人間なので、それこそ周りからすると“別にそこまで”と思うくらい。

葉月:同じ現象が歌でも起こるんで、今回はヴォーカルを自分で録らなかったんですよ。今までは自分の前にPCを置いて、完全に一人で籠もって一人でジャッジしてたから、時間がかかりすぎて。その反省から、エンジニアさんとディレクターさんを置いて録ったら、今までの1/10くらいの時間で終わりました。その代わり、自分的には今聴いても“ここ気持ち悪いな”と思う部分もありますけどね。“魔の夢から”の“から”とか、すごい録り直したい!

玲央:え、何がダメなの? リズム?

葉月:いや、口の開き加減。

──まったく気になりませんよ!

葉月:ですよね。そういう細かすぎるニュアンスって、自分しか気にならないところだし。それに人のいる場所で録るということで、最高級のマイクも用意してもらえたんですよ。一人で録ると壊す危険があるから、そんなの使わせてもらえなかったんで、音質は格段に良くなりましたね。

玲央:ギターの話をすると、僕はメインのギターに初めてシングルのピックアップをのせてます。いつもハムバッカーなのが手違いでシングルをのせたものが届いたんですけど、試しに鳴らしてみたら良かったんで、じゃあ、このままいこうと。ハムほど出力が無いから誤魔化しが利かないぶん、シングルだと特に低音弦の輪郭がしっかり出るんですよね。「MIRRORS」はストロークも多いし、歪んだ音でもよりコード感を残したかったので、そういった部分では正解だったかなと。楽器隊に関しては、ツアーとレコーディングを同時進行させるという初めての経験をしたことで自信にも繋がりましたし、このシングル自体が挑戦であり冒険であるという感覚は強いんですよ。

──そもそも表題曲の「MIRRORS」が2曲目に置かれているところからして冒険ですよね。シャウトとクリーン・トーンが交錯しながら爆走する1曲目「THE TRUTH IS INSIDE」は、いわば「MIRRORS」のプロローグ的な位置づけなんでしょうか?

葉月:結果的にはそうなりましたね。もともとは前作のデビュー・アルバム『I BELIEVE IN ME』のレコーディングが終わってから、一番最初にできた曲なんですよ。で、“これ1曲目にしたいな。でもリードじゃないな”と思ったんで、こういう形になりました。曲の狙いが“アルバムの美味しいところをひとまとめにする。かつ最速”なので、『I BELIEVE IN ME』を聴いた上でこのシングルを聴く人には、いい流れになったかなと。いわば「MIRRORS」への導入の役割を担う曲ですね。

──ただ「MIRRORS」と決定的に違うのが全英詞ということで、訳してみると真実の在処を問う、ある意味ディープなものになっていますが。

葉月:英詞なのは、単純に曲が求めてたからなだけですね。内容に関しては、あまりにも目に余る時代になってしまった印象があったんで、ちょっと書いてしまったんですけど、そこに怒りがあるわけでもなく。誰が悪いことをしようが事実を隠蔽しようが、“ああ、そうですか”くらいの感じです。もともとメッセージ的なことを歌うのは好きじゃないんですよ。3曲目の「DEVI」はヒンズー教の女神の名前で、読み方は“デービー”らしいんですけど……。

──そのワードをどこで?

葉月:インターネットで(笑)。男子万歳的な歌なんで、欲望の捌け口的な感じを表せる単語を探したんですよね。それも初のシャッフル・リズムっていうところから、妖艶で危険なイメージを連想したっていう単純なところだと思うし。“今までlynch.がやってなかったことをやろう”という発想から出てきた、ホントに“外し”の曲なんで、初めてlynch.に触れる人に、この曲を最初に聴かれるとちょっと困ります(笑)。

玲央:前作の流れを汲みつつ全英詞の「THE TRUTH IS INSIDE」、日本語詞をメインにした「MIRRORS」と来て、3曲目はどちらにも寄らず外したほうが逆に面白いだろうと考えたんです。ただ、シャッフルで色気重視のミドル・テンポだと普通すぎるから、若干テンポも上げて極悪な低音のままでやったほうが僕ららしいだろうと。狙いは“軽快なのに重厚”。そこですね。

──セオリー通りにいかないところが、やはりlynch.ですよね。

玲央:セオリー通りに行かないのが、たぶん僕らにとってはセオリーなんですよ。とはいえ、やっぱりシャッフルは想像以上に難しかったです。ベースの明徳も“「MIRRORS」に比べたら大丈夫”とか言ってたくせに、いざやってみたら一番終わらなくて。最後には“シャッフルなめてました”と(笑)。

葉月:僕はシャッフル自体は全然平気だったんですけど、サビのロング・トーンに苦戦しました。言葉が詰まってないのは得意じゃないんですよ。でも、今、ツアーに向けてのリハをしてると、どの曲も大変です。速いし、歌のキーも高いから、しんどい。

玲央:テンポが速くなるほど全員の呼吸、タイム感をバチッと綺麗にキメるのが難しくなるし、シャッフルの「DEVI」を含めて3曲ともリズムに関してはシビアな1枚なんで。実際ライヴでやるのは、骨が折れると思いますよ。

──そのツアーが11月12日に始まる全国7大都市ワンマンなわけですが、“THE TRUTH IN A MIRROR”というタイトルに込めた想いって、何かあります?

葉月:そこはあります。バンドとファンは常に鏡同士。その中で互いを映し合いながら、ツアーを重ねていく中で、何か一つの真実を見つけたい……と。

玲央:前回のツアーを通じて、よりオーディエンスとの信頼関係も深まっただろうから、次はもっと自由にやっても互いが望む景色が作れると思うんですよ。24公演回った夏のツアーから数を絞って会場を大きくしたぶん、マナーを守った上で安全に暴れやすいだろうし。

葉月:照明を筆頭に、より“魅せる”ステージにはなるでしょうね。僕らにとってCDはライヴのための資料みたいな感覚なんで、まずは店頭から無くなる前に「MIRRORS」を探していただいて。あとはオーディエンスの壊れっぷりに期待してます。

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