井上 侑、片寄明人&石井マサユキを迎えてのロング座談会 PART.2
『LOVEBIRD』には2曲のCMソングも収録されているが、今回の座談会は厳選された他7曲についての徹底解説である。一曲一曲がどのようなヴィジョンでどのような流れで仕上げられていったのかがわかり、ますます深く『LOVEBIRD』が楽しめるようになる。あくまでもヴォーカルとピアノが核の“歌もの”でありつつ、ややマニアックなミュージシャンもイメージしながらプロデュースした、片寄明人(Great3、Chocolat & Akito)と石井マサユキ(TICA、gabby&lopez)が井上 侑の本質を炙り出す。
◆「タピオカミルクティー」PV
──曲のセレクションはどなたが?
片寄明人:ぼくら(片寄+石井)でやらせてもらった。
──直感的に選んだ感じですね。
片寄:そうですね。あとはバランスを見ながらっていうのも、多少あったかな。この曲が入るんだったら、こういう曲も入れたいとか。たとえば2曲ほどはリズムを入れずに、ほとんどピアノの弾き語りに近いようなものをとか。「タピオカミルクティー」もそうだけど。ある意味、あれもこれもテンコ盛りって感じで今まで彼女はやってきたと思うんだけども、それよりはもっと“マイナスの発想”というか。ほぼピアノと歌だけの曲もあってもいいんじゃない?とか。けっこうたくさん曲があったんだよねー。
井上 侑:そうでしたね。
──ライヴ会場限定販売手作りシリーズCD『ゆうのたね』『ゆうのはね』では発表していても、全国流通CDにはしてない曲だけでも30曲ぐらいありましたからね。
片寄:あれもやりたいこれもやりたいって、最初は。彼女も気合が入っていたから、そういうパッションはすごくあったんだけど。
井上:(苦笑)
片寄:いかんせん時間と予算との関係もあるし。やりたいことを全部やったあげくに全部薄味になっちゃうっていう結果だけは避けたかったから。少数精鋭じゃないけども、ぼくらが今回担当したのは7曲です。7曲に絞れば納得のいくプロダクションにできるなと思ったので。カセットの46分テープに収まる感じだね。ぼくらが単純に、いい!と思った曲、やりたい!と思った曲、“ぼくらが今考えている音にこの曲が合うと思う”そんな視点で選んで。あと、どうしてもやりたい曲を彼女の提案でいくつか。
井上:基本的に、どの曲も入れたいと思っていたものばかりなんですけれど……必ず入れたいと思っていたのは「タピオカミルクティー」と「たね」になりますかね。あと「会いたい」と「東口で」は、できたばかりの曲だから特に入れたかったですね。
──曲順が決まったのはどの段階でですか?
片寄:最終作業であるマスタリングのときだったね。最後の2曲はちょっとボーナス扱いで、お尻に入れようというのは決まっていたけど。いわゆる曲順っていうのは、いちおう侑ちゃんの方でいくつかアイデアがあって、それを並べてというのは途中段階であったんだけど。
井上:うん。
片寄:実際並べて聴いてみたら、“ちょっと変えてみた方がいいんじゃない?”っていうのが全員の中であって。結果的に最後の最後でこの曲順になったんですよね。
井上:もともと「会いたい」は後ろの方に置いていたんですけど。なんかね、イントロが長いというのもあって重たすぎちゃって、すっきりしなかったんですね。
片寄:それで1曲目に。ぼくは「会いたい」が1曲目ってアイデアは実は持ってなくて、石井くんが出してきたアイデアだったんだけど、それがまた良かったんだよね。マスタリングで聴いたら“あ、なるほどな”と思って。
──「会いたい」は“1曲目で大丈夫か?”と思うほど、聴いててちょっと難しい曲ですね。
石井マサユキ:なんか“白玉のピアノ”で、いい感じのコードの循環の“いい曲”がいきなり来ても、わりとスルーッといっちゃう(笑)。“いい曲だね、いい詞だね”でスルー…って感じだと思うんですね。
──確かに。そしてHPのダイアリーに記されていたように、「会いたい」のイントロはレコーディング当日の朝に思いついたとか。
井上:はい。家を出る前にイントロのフレーズを携帯電話に録音したのに、その携帯電話を自宅に忘れてしまったんです。それで現場監督の携帯を借りて母に電話して、電話口でそれを再生してもらって、そのメロディを自分で歌ってiPodへ録音し直して。ピアノを録音していただいた石井さんに当日「変えたい」と言って聴いてもらったら、「そういうアイデアみたいなものは、多ければ多いほどいい」と(笑)。
石井:ああいうブリッジになるようなパートは、曲のイメージがリッチになるから、なるべく、あればあるだけいいと思ったんですけど。あと、あの曲は……プログレッシヴとまでは言わないですけど、歌い出しの“私のこと~♪”とイントロの差の感じが、ちょっと狂気っぽいというか。自然なんだけど、ちょっとブッ飛んでるなって感じがあるじゃないですか。だからそういうイントロがさらに加わるのは、もっといい感じっていうか、ちょっと(フランク・)ザッパっぽいっていうか(笑)。それが矢野(顕子)さんみたいと言われている所以だと解釈してるし、ぼくは。
片寄:ぼくなんかはね、ちょっとジョニ・ミッチェルみたいなね、雰囲気をイメージしてたんだけど。
石井:そうですね。Aメロから広がっていくあたりは、「アメリア」が入ってる『ヘジラ』とか、「ヘルプ・ミー」が入ってる『コート・アンド・スパーク』とかのアルバムのイメージがありますよね。
──「会いたい」は今回のアルバムで一番集約されていて、一番色々なものが詰まっている曲だと思います。
石井:そうですね。どの曲もがんばったんですけど、「会いたい」はアレンジ的にかなり成功してるっていうか。非常に難しい楽曲だったんですけど(笑)、“こういうふうにできるんだね”って、ちょっとわかったことがいくつかあって、うれしい曲ですね。
──複雑な曲が1曲目で圧倒感があって逆に良かったです。それで2曲目の「君のシチュー」が若干ポップだから、いいアクセントで。
石井:これはピアノのリフがとにかく、すごくホール&オーツみたいなというか、8分音符でカッカッカッカッカッ!とポップだから。まあ1曲目を多少ほわぁ~んとしたまま聴いちゃったとしても、この2曲目でつかめるだろうと。…実は作業の最後、締め切りの方は何日間か徹夜でってことになりまして、「君のシチュー」の歌詞が“今週中です”“頑張るぞ~”みたいな内容が多かったんで(笑)。作業中は誰も突っ込んでくれないし、わりと悲壮感漂ってやっているから、そんな中でそういう歌詞がガンガン聴こえてきて…笑っちゃいましたね。
──歌の中から侑さんに叱咤激励された感じだったんですね。そして3曲目「タピオカミルクティー」は、ほとんどピアノ弾き語りのみの作りで。
石井:1曲そういうのがあったらいいねっていうのは、わりと本人の希望の中にあったはずです。あと、いい意味で一番ベタな曲なので、あんまり装飾しない方が。たとえばシンセでストリングスみたいなのを足すとか、もっと大げさにしていくと、逆にシラケるというか、うっとうしくなっちゃうから。ただちょっと空間は広げたいっていうかね、ちょっとしたベルとか入れて。
──4曲目の「たね」は、ベースがいい感じで目立っていますね。
石井:うん……実はでも、ベースがなんか音が若干ブーミーになっちゃってて、たぶんちょっとコンプの掛かりすぎでイヤだったんですよ、俺は。だから弾き直したんだけど、家で。だけど片寄くんと侑ちゃんが元の方がいいって言うから(笑)、じゃあいいかって。この曲にしても「会いたい」と同じで、途中から違う感じになっていっちゃう、三部構成みたいな感じで。この曲のサビはコードが4つくらいの循環で。けっこう侑ちゃんって色んなコードを使いたがるんですけど、この曲はいわゆるR&Bやレゲエ的な手法が持ってこれるなと思って。でも全編それで押し通すことはできないんで、それでドラムの大ちゃんに「フィルだけはリンゴ・スターみたいにやってくれ」と言って、昔のビンテージ・ロックの香りのするフィルインにして(笑)。それで全体としての曲のトーンに1本のスジを通してもらった。
──やっぱり、色々なカラーが1曲の中に詰まっていますね。
石井:楽曲の“おかげ”ですね。結局、曲がトリッキー…というか、ツイストが効いているじゃないですか。
──けっこうシンプルじゃあないんですよね。だからマニアックな人間の耳にも引っかかる感じがします。
石井:うん。あと「たね」は、本人は知らないでやってるんだろうけど、地名が終盤で次々と歌い出される手法で……たしかフィッシュマンズの曲で似たようなことをやっていた曲を思い出して。
井上:最近世界を身近に感じることが多くて。海外に行ったことはないんですけどね(笑)。いつか行きたいなぁ、大切な人達を連れて行っちゃいたいなぁ、と思いまして。
──メイン以外のコーラスなど…たとえばその「たね」のコーラスのアイデアは?
井上:もともとのアイデアは私です。『ゆうのたね その2』(ライヴ会場限定販売手作りCD~2009年6月発表)に入れていたので。もともと私、合唱団で歌っていて…合唱、素敵なハーモニーが大好きなんです(笑)。
──いい感じで声が聞こえてきますね。
片寄:次の曲の「Colorcorn」なんかは、石井くんがデモをもらった時点から勝手にデモをバラバラにして、自分のギターを重ねて“こんな感じになりました”っていうのを30分ぐらいで作って。それがすごい良かったから。
井上:うんうん、そうそう。あれ、すごくうれしかったですね(笑)。
石井:「Colorcorn」が自分の文脈の中で、一番すぐに水が一杯になる楽曲だったんでしょうね、ぼくの経験値の中でも。何をしたらいいのか、聴いて2秒でわかった(笑)。すぐ、パッ!と見えたんで。「Colorcorn」は詞も…意味がわかるとかわからないとかじゃなくて、言葉の感じとかが一番好きなんですよね。…侑ちゃんの曲は、どの曲も一人称で独白じゃないですか。だけど、なんかこの曲が一番“ホントっぽい”っていうか。「Colorcorn」がなかったら、なんて言うのかな……何かを目指して、ロジックがあって、そのパターンに対して、自分なりの言葉を当てはめて、曲を作っていくだけの人っていうイメージだったかもしれないですけど。
──確かに。
石井:だから「タピオカミルクティー」だけだったら、そんなに感心しないっていうか。ちょっと勘のいい人が、なんか曲を作ってみたら、これぐらいの歌詞は書くのかもしれない。でも「Colorcorn」は、能力のあるなしでなく、ぼくは“この人が見えた”ような気がして、彼女のことが。もともとの「Colorcorn」を聴いたとき、ヘヴィな感じで、ちょっと出口のない圧迫感みたいなのを感じて、森田童子のことを思い出したし。
──「Colorcorn」の歌い方は、今までと違うんじゃないかと思いましたが。
井上:ライヴでもレコーディングのときでも、私自身はそんなに変えて歌っているつもりはないんですが、ただ、この曲はものすごく反省したときに書いた曲なので、歌う時には、その時の気持ちを思い出して歌うようにしています。
片寄:他人に対する壁ってことなんだよね、このカラーコーンっていうのは、たぶん。
井上:はい。まさにそうですね。大切な人との間にさえ、自分を守る為に壁を作ってしまったという……懺悔(ざんげ)のうたです。
片寄:いつも、誰かを想定して歌詞を書く感じ?
井上:そうですね。曲によって「誰か」は変わるのですが。自分が感じたこと、感動したことを、そのまま、もしくは広げて曲にすることが多いです。でも想像の方が大きくなることもあって。たとえば「先輩、恋してます」はOLさんを主人公にして、自分がOLになり切って書きました。
片寄:「先輩、恋してます」だっけ? 突っ込み入ってる曲って(笑)。
井上:はい、“どんなんやねん”って。
片寄:あのコード進行で“どんなんやねん”か!って(笑)。あんな雰囲気に“どんなんやねん”って歌詞をぼくだったら付けないけど、この違和感がまたキャッチーになるかもしれないなーとか。こっちも音を作りながら笑っちゃうけど、面白いなーっていうかさ(笑)。
──まさにキャッチー、“つかみオッケー!”でしょう。
片寄:不思議なミクスチャー感があるよね(笑)。
井上:いやぁ……(照笑)。
──「先輩、恋してます」は、「Colorcorn」から雰囲気的にガラッ!と変わってポップな。
石井:一番悩んだかな…。楽曲は面白いし、詞もすごい個性的で。サクサク聴けちゃうためのリフがあった方がいいと思ったんですけど、それがなかなか見つかりにくくて。結局オーソドックスなものになったのですが、そのへんが見つかったときが助かったっていうか(笑)。80年代風の音色のギターリフとか。
──アルバムの中でいいアクセントになっていると思います。次の7曲目「東口で」は…。
片寄:彼女が「ちょっとリズム&ブルースっぽい要素を入れたい」って言った曲ですね。
石井:具体的なイメージでいったら侑ちゃんの楽曲って、少なくとも黒くはないっていうか。リズム&ブルースっていうのは、ワン・リフの持続性や、ビートの持続性が大前提としてありますよね? だから彼女がやっていることは最も遠いといえば遠いと思ってたんですけど。本人曰く黒人音楽に興味があって、やってみたいという話だったんですよね、最初に打ち合わせしたとき。それはなんて言うか……難しい注文ですな、って考えてたんですけど。
──なるほど。
石井:それで楽曲は?ってときに、他にもリズム&ブルースっぽくできる曲が1~2曲あったんだけど、「東口で」はパッ!と聴き…なんと言うんですかね、本人が望んでるアレンジじゃないかもしれないけど、ブラコンと呼ばれてた時代のピーボ・ブライソンや、アニタ・ベイカーみたいな感じにね(注:ピーボ・ブライソンは井上が後述するフェイヴァリット・アニメ『アラジン』の主題歌を、レジーナ・ベルとデュエットしている)。デモはアコピ(ピアノ)の音だったんですけど「エレピ(エレクトリック・ピアノ)に変えたらリズム&ブルースっぽくなるよ」って話をして。
──ピアノだったら違ってきますね。
石井:エルトン・ジョンとか、そんな感じになっちゃいますよね。
──そうですね。エレクトリック・ピアノのアレンジで、別の表情が出てきた感じです。
石井:あと…迷って、結局ぶちこんだんですけど、ちょっとクリストファー・クロス的なアルペジオっていうか、「セイリング」みたいな。わりと片寄くんもあのへんは好きだったんで、若干趣味的なアレですけど(笑)。
──AORな感じで。
石井:最初のぼくのイメージではそういうのはなくて。基本的にこれはビートも打ち込みで、モロにブラコンにしちゃう予定だったんです。けど、レコーディング作業が進んでいって、ベースとドラムとピアノが入って、だいたいアルバム全体の骨格が見えるじゃないですか。そんな中で、“やっぱり「東口で」も生で叩いちゃおうか”って話になって。それで録ってみたらスネアの音とか、けっこういい感じで録れたから。
──そういえばレコーディング・スタジオで歌詞を手直しした、できたての曲というのは、もしかして…。
井上:1曲目の「会いたい」ですね。やっぱり、少しでも良いものを、納得いくものを作りたいという気持ちが強くて。当日の朝まで、歩きながらスタジオに着くまで手直しをしてました。でも今回のレコーディングを経験して、やっぱりそういうのは良くないなあ、ちゃんと事前に仕上げて、当日は準備に費やさないといけないということが、わかりましたけれど(苦笑)。
──でも侑さん、曲と歌が同時に出てくるみたいな感じもしますね。
石井:ちょっと語り部っぽいというか。
片寄:たとえば“今日は天気のいい日にカフェに来てお茶飲んでますよ”っていうのが、この場でピロピロピロ~って歌にして出てくるみたいな雰囲気があるじゃないですか。そういうことできちゃいそうな人だったりするから。ぼく、周りにあまりそういうミュージシャンはいないので、面白いなーっていう感じはしますけどね。
井上:ミュージカルのディズニーとかを、小さい頃からよく見てたんで。
片寄:セリフを歌う、みたいな?
井上:それはあるかもしれないですね。合唱をずっとやってたんですけど…その中ではセリフとかはなかったんですけど。唯一あるとすれば『リトル・マーメイド』とか『アラジン』とか…セリフが歌になっているミュージカルのようなアニメが好きでしたね。
──実際、歌と曲が同時に出てくる感じなのですか?
井上:同時とまではいかないかな。厳密に言えば、歌詞とメロディーを、一緒に作っていくことが多いです。昔はいい気持ちでピアノを弾いていて歌詞を乗っけることもありましたが、最近はあんまりないかな。やっぱり、曲を書く時、一番はじめに思いがあると早いですね。けれども、その思いを、曲を作り出す時点で自分の言葉で表せていないことの方が多いので、『この思い、なんていったらいいの、違う、こうじゃない……』って悩みながら、言葉を紡いで、紡ぎながらメロディーがついて……という感じです。なので、一曲になった時、初めて私なりの答えに辿り着くことが出来る。
──今回のアルバムの歌詞は、“ラヴソング”が多い感じがしますね。恋愛に限ってないのかもしれませんが。
井上:そうですね……アルバム・タイトルの『LOVEBIRD』って……英語でボタンインコのことなんですが、他にも“熱々のカップル”とか“おしどり夫婦”という意味もあって。今回のアルバムを選曲して、録音したあとに、どの曲にも誰かを想う気持ちが書かれていることに気が付いて。相手は家族だったり友達だったり、大切な人だったり、地球外生命体だったり様々なんですけれど。そういう意味では、全てラヴソングですね。
──曲や歌詞が深くなったと思います。作るにあたっての意識が変わってきたような。
井上:18歳のときから作詞と作曲を始めて、ファーストの『さようなら』(2007年)の頃の曲でも、自分のことや自分のまわりのことを正直に詞に書いて歌っていたんですけど、オブラートに包んだ状態の自分を歌っていたような気がします。でもだんだん皮が一枚一枚はがれていくような……自分そのままを出せるようになってきたことだけは、確かだと思います。
──ちなみに今回、歌唱指導的なことは一切なかったのですか?
片寄:いや……。
井上:ありましたね。
片寄:あった。……彼女の詞ってシリアスなものとちょっとユニークなものの2パターンがあるから。特にシリアスなものは、思っているより意外と湿った、ある意味演歌的とも言える世界の歌詞だったりもするから、それがあまりいやらしく聴こえてほしくないなというのは、すごく考えてた。それはぼくらの作るサウンドとのマッチングもあるだろうし……とにかく、やたらと感情を込めて歌った方が良く出るときと、逆にいやらしくなっちゃうときっていうのが、曲とかメロディとかリズムによってあって。“ここは思いっ切り行っていいよ”ってところは思いっ切り感情を込めて歌ってもらった気がするけど。あえて、ちょっと冷静に距離を置いて歌った方がいいときっていうのもあって。そのメリハリが、彼女の中では、あまりはっきりしてないような印象がぼくの中ではあったんで。そこは色々言わせてもらって。感情の起伏みたいな部分を、作らせてもらったかなぁ。
──あえて感情を抑えてもらったような曲は、たとえばどれですか?
片寄:「東口で」とかそうかなぁ。あとは「会いたい」とか。わりとラヴソング系だね。
──確かに、その2曲は“グオオー!”という感じで感情が込められそうな歌ですね。
片寄:そう。ただその“グオオー!”って具合をいい感じに表現するために、引くところは引いて、感情を込めるところは込めるっていう流れを作らせてもらった気がするな。
──逆に感情を込めまくってもらったような曲は?
片寄:いや、たいていそういうアドバイスを忠実に、真に受けちゃうタイプだから。「冷静に」って言ったらホントに冷静なテイクになっちゃって“何も面白くねぇな~”(笑)っていうのもよくあったんで。
井上:極端なんですよね(笑)。
片寄:そうそう。だから色んなパターンで自由に歌ったテイクを録ってね……。でも最終的には、けっこう込めたものを使ったかなあ。そのテイクの組み合わせ方で、ぼくが自然な流れを作っていったような形になっていると思いますね。
片寄と石井によるプロデュースは井上の解剖でもあった。井上の曲に対する2人の見方もあまりにも興味深いし、誤解を恐れずに言えば2人と同じく井上も奇才ということである。と同時に、歌に対する井上のアティテュードはあまりにもまっすぐだ。そんなキャラを次回はさらに浮き彫りにする。
文:行川和彦 Kazuhiko Namekawa
<弾き語りライブ2011~BIRDCALL~>
6月11日(土)@神奈川・川崎ラ・チッタデッラ
6月12日(日)@神奈川・MrMax藤沢
6月17日(金)@神奈川・川崎アゼリア地下街
6月18日(土)@神奈川・たまプラーザ・テラス
6月19日(日)@埼玉・イオン与野
6月25日(土)@東京・亀戸サンストリート
6月26日(日)@神奈川・アピタ長津田
7月1日(金)@東京・立川AREAREAスタジオ
7月3日(日)@神奈川・ミューザ川崎ゲートプラザ前
7月9日(土)@静岡・イオン浜松市野
7月10日(日)@愛知・アスナル金山
7月16日(土)@神奈川・平塚OSC湘南シティ
7月17日(日)@埼玉・上尾ショーサンプラザ
7月18日(祝)@栃木・イオン小山
7月23日(土)@千葉・イオン八千代緑が丘
7月24日(日)@神奈川・相模大野ステーションプラザ
7月30日(土)@神奈川・文教堂厚木R412店
7月31日(日)@山梨・ラザウォーク甲斐双葉
8月19日(日)@神奈川・川崎アゼリア地下街
8月25日(木)@埼玉・ららぽーと新三郷
8月28日(日)@千葉・ららぽーと柏の葉 and more!
<YU INOUE ONE NIGHT SPECIAL LOVEPOTION>
8月7日(日)@渋谷gee-ge.
OPEN18:30 START 19:00
ADV 2,500YEN DOOR 3,000YEN(+one drink)
7月2日(土)@東京大学・柏の葉キャンパス・メディアホール
「芸術と技術の出会いによる新領域の創成」
7月31日(日)@山梨・根津記念館
「夕涼みコンサート」
9月3日(土)@愛媛・伊予市
「夕焼けプラットホームコンサート」
◆井上侑オフィシャルサイト
◆「タピオカミルクティー」PV
──曲のセレクションはどなたが?
片寄明人:ぼくら(片寄+石井)でやらせてもらった。
──直感的に選んだ感じですね。
片寄:そうですね。あとはバランスを見ながらっていうのも、多少あったかな。この曲が入るんだったら、こういう曲も入れたいとか。たとえば2曲ほどはリズムを入れずに、ほとんどピアノの弾き語りに近いようなものをとか。「タピオカミルクティー」もそうだけど。ある意味、あれもこれもテンコ盛りって感じで今まで彼女はやってきたと思うんだけども、それよりはもっと“マイナスの発想”というか。ほぼピアノと歌だけの曲もあってもいいんじゃない?とか。けっこうたくさん曲があったんだよねー。
井上 侑:そうでしたね。
──ライヴ会場限定販売手作りシリーズCD『ゆうのたね』『ゆうのはね』では発表していても、全国流通CDにはしてない曲だけでも30曲ぐらいありましたからね。
片寄:あれもやりたいこれもやりたいって、最初は。彼女も気合が入っていたから、そういうパッションはすごくあったんだけど。
井上:(苦笑)
片寄:いかんせん時間と予算との関係もあるし。やりたいことを全部やったあげくに全部薄味になっちゃうっていう結果だけは避けたかったから。少数精鋭じゃないけども、ぼくらが今回担当したのは7曲です。7曲に絞れば納得のいくプロダクションにできるなと思ったので。カセットの46分テープに収まる感じだね。ぼくらが単純に、いい!と思った曲、やりたい!と思った曲、“ぼくらが今考えている音にこの曲が合うと思う”そんな視点で選んで。あと、どうしてもやりたい曲を彼女の提案でいくつか。
井上:基本的に、どの曲も入れたいと思っていたものばかりなんですけれど……必ず入れたいと思っていたのは「タピオカミルクティー」と「たね」になりますかね。あと「会いたい」と「東口で」は、できたばかりの曲だから特に入れたかったですね。
──曲順が決まったのはどの段階でですか?
片寄:最終作業であるマスタリングのときだったね。最後の2曲はちょっとボーナス扱いで、お尻に入れようというのは決まっていたけど。いわゆる曲順っていうのは、いちおう侑ちゃんの方でいくつかアイデアがあって、それを並べてというのは途中段階であったんだけど。
井上:うん。
片寄:実際並べて聴いてみたら、“ちょっと変えてみた方がいいんじゃない?”っていうのが全員の中であって。結果的に最後の最後でこの曲順になったんですよね。
井上:もともと「会いたい」は後ろの方に置いていたんですけど。なんかね、イントロが長いというのもあって重たすぎちゃって、すっきりしなかったんですね。
片寄:それで1曲目に。ぼくは「会いたい」が1曲目ってアイデアは実は持ってなくて、石井くんが出してきたアイデアだったんだけど、それがまた良かったんだよね。マスタリングで聴いたら“あ、なるほどな”と思って。
──「会いたい」は“1曲目で大丈夫か?”と思うほど、聴いててちょっと難しい曲ですね。
石井マサユキ:なんか“白玉のピアノ”で、いい感じのコードの循環の“いい曲”がいきなり来ても、わりとスルーッといっちゃう(笑)。“いい曲だね、いい詞だね”でスルー…って感じだと思うんですね。
──確かに。そしてHPのダイアリーに記されていたように、「会いたい」のイントロはレコーディング当日の朝に思いついたとか。
井上:はい。家を出る前にイントロのフレーズを携帯電話に録音したのに、その携帯電話を自宅に忘れてしまったんです。それで現場監督の携帯を借りて母に電話して、電話口でそれを再生してもらって、そのメロディを自分で歌ってiPodへ録音し直して。ピアノを録音していただいた石井さんに当日「変えたい」と言って聴いてもらったら、「そういうアイデアみたいなものは、多ければ多いほどいい」と(笑)。
石井:ああいうブリッジになるようなパートは、曲のイメージがリッチになるから、なるべく、あればあるだけいいと思ったんですけど。あと、あの曲は……プログレッシヴとまでは言わないですけど、歌い出しの“私のこと~♪”とイントロの差の感じが、ちょっと狂気っぽいというか。自然なんだけど、ちょっとブッ飛んでるなって感じがあるじゃないですか。だからそういうイントロがさらに加わるのは、もっといい感じっていうか、ちょっと(フランク・)ザッパっぽいっていうか(笑)。それが矢野(顕子)さんみたいと言われている所以だと解釈してるし、ぼくは。
片寄:ぼくなんかはね、ちょっとジョニ・ミッチェルみたいなね、雰囲気をイメージしてたんだけど。
石井:そうですね。Aメロから広がっていくあたりは、「アメリア」が入ってる『ヘジラ』とか、「ヘルプ・ミー」が入ってる『コート・アンド・スパーク』とかのアルバムのイメージがありますよね。
──「会いたい」は今回のアルバムで一番集約されていて、一番色々なものが詰まっている曲だと思います。
石井:そうですね。どの曲もがんばったんですけど、「会いたい」はアレンジ的にかなり成功してるっていうか。非常に難しい楽曲だったんですけど(笑)、“こういうふうにできるんだね”って、ちょっとわかったことがいくつかあって、うれしい曲ですね。
──複雑な曲が1曲目で圧倒感があって逆に良かったです。それで2曲目の「君のシチュー」が若干ポップだから、いいアクセントで。
石井:これはピアノのリフがとにかく、すごくホール&オーツみたいなというか、8分音符でカッカッカッカッカッ!とポップだから。まあ1曲目を多少ほわぁ~んとしたまま聴いちゃったとしても、この2曲目でつかめるだろうと。…実は作業の最後、締め切りの方は何日間か徹夜でってことになりまして、「君のシチュー」の歌詞が“今週中です”“頑張るぞ~”みたいな内容が多かったんで(笑)。作業中は誰も突っ込んでくれないし、わりと悲壮感漂ってやっているから、そんな中でそういう歌詞がガンガン聴こえてきて…笑っちゃいましたね。
──歌の中から侑さんに叱咤激励された感じだったんですね。そして3曲目「タピオカミルクティー」は、ほとんどピアノ弾き語りのみの作りで。
石井:1曲そういうのがあったらいいねっていうのは、わりと本人の希望の中にあったはずです。あと、いい意味で一番ベタな曲なので、あんまり装飾しない方が。たとえばシンセでストリングスみたいなのを足すとか、もっと大げさにしていくと、逆にシラケるというか、うっとうしくなっちゃうから。ただちょっと空間は広げたいっていうかね、ちょっとしたベルとか入れて。
──4曲目の「たね」は、ベースがいい感じで目立っていますね。
石井:うん……実はでも、ベースがなんか音が若干ブーミーになっちゃってて、たぶんちょっとコンプの掛かりすぎでイヤだったんですよ、俺は。だから弾き直したんだけど、家で。だけど片寄くんと侑ちゃんが元の方がいいって言うから(笑)、じゃあいいかって。この曲にしても「会いたい」と同じで、途中から違う感じになっていっちゃう、三部構成みたいな感じで。この曲のサビはコードが4つくらいの循環で。けっこう侑ちゃんって色んなコードを使いたがるんですけど、この曲はいわゆるR&Bやレゲエ的な手法が持ってこれるなと思って。でも全編それで押し通すことはできないんで、それでドラムの大ちゃんに「フィルだけはリンゴ・スターみたいにやってくれ」と言って、昔のビンテージ・ロックの香りのするフィルインにして(笑)。それで全体としての曲のトーンに1本のスジを通してもらった。
──やっぱり、色々なカラーが1曲の中に詰まっていますね。
石井:楽曲の“おかげ”ですね。結局、曲がトリッキー…というか、ツイストが効いているじゃないですか。
──けっこうシンプルじゃあないんですよね。だからマニアックな人間の耳にも引っかかる感じがします。
石井:うん。あと「たね」は、本人は知らないでやってるんだろうけど、地名が終盤で次々と歌い出される手法で……たしかフィッシュマンズの曲で似たようなことをやっていた曲を思い出して。
井上:最近世界を身近に感じることが多くて。海外に行ったことはないんですけどね(笑)。いつか行きたいなぁ、大切な人達を連れて行っちゃいたいなぁ、と思いまして。
──メイン以外のコーラスなど…たとえばその「たね」のコーラスのアイデアは?
井上:もともとのアイデアは私です。『ゆうのたね その2』(ライヴ会場限定販売手作りCD~2009年6月発表)に入れていたので。もともと私、合唱団で歌っていて…合唱、素敵なハーモニーが大好きなんです(笑)。
──いい感じで声が聞こえてきますね。
片寄:次の曲の「Colorcorn」なんかは、石井くんがデモをもらった時点から勝手にデモをバラバラにして、自分のギターを重ねて“こんな感じになりました”っていうのを30分ぐらいで作って。それがすごい良かったから。
井上:うんうん、そうそう。あれ、すごくうれしかったですね(笑)。
石井:「Colorcorn」が自分の文脈の中で、一番すぐに水が一杯になる楽曲だったんでしょうね、ぼくの経験値の中でも。何をしたらいいのか、聴いて2秒でわかった(笑)。すぐ、パッ!と見えたんで。「Colorcorn」は詞も…意味がわかるとかわからないとかじゃなくて、言葉の感じとかが一番好きなんですよね。…侑ちゃんの曲は、どの曲も一人称で独白じゃないですか。だけど、なんかこの曲が一番“ホントっぽい”っていうか。「Colorcorn」がなかったら、なんて言うのかな……何かを目指して、ロジックがあって、そのパターンに対して、自分なりの言葉を当てはめて、曲を作っていくだけの人っていうイメージだったかもしれないですけど。
──確かに。
石井:だから「タピオカミルクティー」だけだったら、そんなに感心しないっていうか。ちょっと勘のいい人が、なんか曲を作ってみたら、これぐらいの歌詞は書くのかもしれない。でも「Colorcorn」は、能力のあるなしでなく、ぼくは“この人が見えた”ような気がして、彼女のことが。もともとの「Colorcorn」を聴いたとき、ヘヴィな感じで、ちょっと出口のない圧迫感みたいなのを感じて、森田童子のことを思い出したし。
──「Colorcorn」の歌い方は、今までと違うんじゃないかと思いましたが。
井上:ライヴでもレコーディングのときでも、私自身はそんなに変えて歌っているつもりはないんですが、ただ、この曲はものすごく反省したときに書いた曲なので、歌う時には、その時の気持ちを思い出して歌うようにしています。
片寄:他人に対する壁ってことなんだよね、このカラーコーンっていうのは、たぶん。
井上:はい。まさにそうですね。大切な人との間にさえ、自分を守る為に壁を作ってしまったという……懺悔(ざんげ)のうたです。
片寄:いつも、誰かを想定して歌詞を書く感じ?
井上:そうですね。曲によって「誰か」は変わるのですが。自分が感じたこと、感動したことを、そのまま、もしくは広げて曲にすることが多いです。でも想像の方が大きくなることもあって。たとえば「先輩、恋してます」はOLさんを主人公にして、自分がOLになり切って書きました。
片寄:「先輩、恋してます」だっけ? 突っ込み入ってる曲って(笑)。
井上:はい、“どんなんやねん”って。
片寄:あのコード進行で“どんなんやねん”か!って(笑)。あんな雰囲気に“どんなんやねん”って歌詞をぼくだったら付けないけど、この違和感がまたキャッチーになるかもしれないなーとか。こっちも音を作りながら笑っちゃうけど、面白いなーっていうかさ(笑)。
──まさにキャッチー、“つかみオッケー!”でしょう。
片寄:不思議なミクスチャー感があるよね(笑)。
井上:いやぁ……(照笑)。
──「先輩、恋してます」は、「Colorcorn」から雰囲気的にガラッ!と変わってポップな。
石井:一番悩んだかな…。楽曲は面白いし、詞もすごい個性的で。サクサク聴けちゃうためのリフがあった方がいいと思ったんですけど、それがなかなか見つかりにくくて。結局オーソドックスなものになったのですが、そのへんが見つかったときが助かったっていうか(笑)。80年代風の音色のギターリフとか。
──アルバムの中でいいアクセントになっていると思います。次の7曲目「東口で」は…。
片寄:彼女が「ちょっとリズム&ブルースっぽい要素を入れたい」って言った曲ですね。
石井:具体的なイメージでいったら侑ちゃんの楽曲って、少なくとも黒くはないっていうか。リズム&ブルースっていうのは、ワン・リフの持続性や、ビートの持続性が大前提としてありますよね? だから彼女がやっていることは最も遠いといえば遠いと思ってたんですけど。本人曰く黒人音楽に興味があって、やってみたいという話だったんですよね、最初に打ち合わせしたとき。それはなんて言うか……難しい注文ですな、って考えてたんですけど。
──なるほど。
石井:それで楽曲は?ってときに、他にもリズム&ブルースっぽくできる曲が1~2曲あったんだけど、「東口で」はパッ!と聴き…なんと言うんですかね、本人が望んでるアレンジじゃないかもしれないけど、ブラコンと呼ばれてた時代のピーボ・ブライソンや、アニタ・ベイカーみたいな感じにね(注:ピーボ・ブライソンは井上が後述するフェイヴァリット・アニメ『アラジン』の主題歌を、レジーナ・ベルとデュエットしている)。デモはアコピ(ピアノ)の音だったんですけど「エレピ(エレクトリック・ピアノ)に変えたらリズム&ブルースっぽくなるよ」って話をして。
──ピアノだったら違ってきますね。
石井:エルトン・ジョンとか、そんな感じになっちゃいますよね。
──そうですね。エレクトリック・ピアノのアレンジで、別の表情が出てきた感じです。
石井:あと…迷って、結局ぶちこんだんですけど、ちょっとクリストファー・クロス的なアルペジオっていうか、「セイリング」みたいな。わりと片寄くんもあのへんは好きだったんで、若干趣味的なアレですけど(笑)。
──AORな感じで。
石井:最初のぼくのイメージではそういうのはなくて。基本的にこれはビートも打ち込みで、モロにブラコンにしちゃう予定だったんです。けど、レコーディング作業が進んでいって、ベースとドラムとピアノが入って、だいたいアルバム全体の骨格が見えるじゃないですか。そんな中で、“やっぱり「東口で」も生で叩いちゃおうか”って話になって。それで録ってみたらスネアの音とか、けっこういい感じで録れたから。
──そういえばレコーディング・スタジオで歌詞を手直しした、できたての曲というのは、もしかして…。
井上:1曲目の「会いたい」ですね。やっぱり、少しでも良いものを、納得いくものを作りたいという気持ちが強くて。当日の朝まで、歩きながらスタジオに着くまで手直しをしてました。でも今回のレコーディングを経験して、やっぱりそういうのは良くないなあ、ちゃんと事前に仕上げて、当日は準備に費やさないといけないということが、わかりましたけれど(苦笑)。
──でも侑さん、曲と歌が同時に出てくるみたいな感じもしますね。
石井:ちょっと語り部っぽいというか。
片寄:たとえば“今日は天気のいい日にカフェに来てお茶飲んでますよ”っていうのが、この場でピロピロピロ~って歌にして出てくるみたいな雰囲気があるじゃないですか。そういうことできちゃいそうな人だったりするから。ぼく、周りにあまりそういうミュージシャンはいないので、面白いなーっていう感じはしますけどね。
井上:ミュージカルのディズニーとかを、小さい頃からよく見てたんで。
片寄:セリフを歌う、みたいな?
井上:それはあるかもしれないですね。合唱をずっとやってたんですけど…その中ではセリフとかはなかったんですけど。唯一あるとすれば『リトル・マーメイド』とか『アラジン』とか…セリフが歌になっているミュージカルのようなアニメが好きでしたね。
──実際、歌と曲が同時に出てくる感じなのですか?
井上:同時とまではいかないかな。厳密に言えば、歌詞とメロディーを、一緒に作っていくことが多いです。昔はいい気持ちでピアノを弾いていて歌詞を乗っけることもありましたが、最近はあんまりないかな。やっぱり、曲を書く時、一番はじめに思いがあると早いですね。けれども、その思いを、曲を作り出す時点で自分の言葉で表せていないことの方が多いので、『この思い、なんていったらいいの、違う、こうじゃない……』って悩みながら、言葉を紡いで、紡ぎながらメロディーがついて……という感じです。なので、一曲になった時、初めて私なりの答えに辿り着くことが出来る。
──今回のアルバムの歌詞は、“ラヴソング”が多い感じがしますね。恋愛に限ってないのかもしれませんが。
井上:そうですね……アルバム・タイトルの『LOVEBIRD』って……英語でボタンインコのことなんですが、他にも“熱々のカップル”とか“おしどり夫婦”という意味もあって。今回のアルバムを選曲して、録音したあとに、どの曲にも誰かを想う気持ちが書かれていることに気が付いて。相手は家族だったり友達だったり、大切な人だったり、地球外生命体だったり様々なんですけれど。そういう意味では、全てラヴソングですね。
──曲や歌詞が深くなったと思います。作るにあたっての意識が変わってきたような。
井上:18歳のときから作詞と作曲を始めて、ファーストの『さようなら』(2007年)の頃の曲でも、自分のことや自分のまわりのことを正直に詞に書いて歌っていたんですけど、オブラートに包んだ状態の自分を歌っていたような気がします。でもだんだん皮が一枚一枚はがれていくような……自分そのままを出せるようになってきたことだけは、確かだと思います。
──ちなみに今回、歌唱指導的なことは一切なかったのですか?
片寄:いや……。
井上:ありましたね。
片寄:あった。……彼女の詞ってシリアスなものとちょっとユニークなものの2パターンがあるから。特にシリアスなものは、思っているより意外と湿った、ある意味演歌的とも言える世界の歌詞だったりもするから、それがあまりいやらしく聴こえてほしくないなというのは、すごく考えてた。それはぼくらの作るサウンドとのマッチングもあるだろうし……とにかく、やたらと感情を込めて歌った方が良く出るときと、逆にいやらしくなっちゃうときっていうのが、曲とかメロディとかリズムによってあって。“ここは思いっ切り行っていいよ”ってところは思いっ切り感情を込めて歌ってもらった気がするけど。あえて、ちょっと冷静に距離を置いて歌った方がいいときっていうのもあって。そのメリハリが、彼女の中では、あまりはっきりしてないような印象がぼくの中ではあったんで。そこは色々言わせてもらって。感情の起伏みたいな部分を、作らせてもらったかなぁ。
──あえて感情を抑えてもらったような曲は、たとえばどれですか?
片寄:「東口で」とかそうかなぁ。あとは「会いたい」とか。わりとラヴソング系だね。
──確かに、その2曲は“グオオー!”という感じで感情が込められそうな歌ですね。
片寄:そう。ただその“グオオー!”って具合をいい感じに表現するために、引くところは引いて、感情を込めるところは込めるっていう流れを作らせてもらった気がするな。
──逆に感情を込めまくってもらったような曲は?
片寄:いや、たいていそういうアドバイスを忠実に、真に受けちゃうタイプだから。「冷静に」って言ったらホントに冷静なテイクになっちゃって“何も面白くねぇな~”(笑)っていうのもよくあったんで。
井上:極端なんですよね(笑)。
片寄:そうそう。だから色んなパターンで自由に歌ったテイクを録ってね……。でも最終的には、けっこう込めたものを使ったかなあ。そのテイクの組み合わせ方で、ぼくが自然な流れを作っていったような形になっていると思いますね。
片寄と石井によるプロデュースは井上の解剖でもあった。井上の曲に対する2人の見方もあまりにも興味深いし、誤解を恐れずに言えば2人と同じく井上も奇才ということである。と同時に、歌に対する井上のアティテュードはあまりにもまっすぐだ。そんなキャラを次回はさらに浮き彫りにする。
文:行川和彦 Kazuhiko Namekawa
<弾き語りライブ2011~BIRDCALL~>
6月11日(土)@神奈川・川崎ラ・チッタデッラ
6月12日(日)@神奈川・MrMax藤沢
6月17日(金)@神奈川・川崎アゼリア地下街
6月18日(土)@神奈川・たまプラーザ・テラス
6月19日(日)@埼玉・イオン与野
6月25日(土)@東京・亀戸サンストリート
6月26日(日)@神奈川・アピタ長津田
7月1日(金)@東京・立川AREAREAスタジオ
7月3日(日)@神奈川・ミューザ川崎ゲートプラザ前
7月9日(土)@静岡・イオン浜松市野
7月10日(日)@愛知・アスナル金山
7月16日(土)@神奈川・平塚OSC湘南シティ
7月17日(日)@埼玉・上尾ショーサンプラザ
7月18日(祝)@栃木・イオン小山
7月23日(土)@千葉・イオン八千代緑が丘
7月24日(日)@神奈川・相模大野ステーションプラザ
7月30日(土)@神奈川・文教堂厚木R412店
7月31日(日)@山梨・ラザウォーク甲斐双葉
8月19日(日)@神奈川・川崎アゼリア地下街
8月25日(木)@埼玉・ららぽーと新三郷
8月28日(日)@千葉・ららぽーと柏の葉 and more!
<YU INOUE ONE NIGHT SPECIAL LOVEPOTION>
8月7日(日)@渋谷gee-ge.
OPEN18:30 START 19:00
ADV 2,500YEN DOOR 3,000YEN(+one drink)
7月2日(土)@東京大学・柏の葉キャンパス・メディアホール
「芸術と技術の出会いによる新領域の創成」
7月31日(日)@山梨・根津記念館
「夕涼みコンサート」
9月3日(土)@愛媛・伊予市
「夕焼けプラットホームコンサート」
◆井上侑オフィシャルサイト