日本発インストゥルメンタル・バンドの世界的活躍

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最近の音楽トレンドを少しでも知っている人は、K-POPの侵略と勢いの止まらないAKB48の人気を指摘するだろう。ところが、もっと視野を広げてよく観察すると、インディーズ系を含めたインストゥルメンタル・バンドから面白いトレンドが生まれていることに気がつく。toe、MONO、nisennenmondai、mouse on the keys、lite、ROVO、world's end girlfriends、SPECIAL OTHERS、No.9、regaらは宣伝や従来のメディアのサポートに頼ることなく、主に口コミのみで根強いファン層を築いてきた。

これらのバンドは、同じ、もしくは似たようなシーンで活動しているために、重なる部分もあるが、それぞれに独自のファンベースと個性を作り上げてきた。個々のアーティストが独創的である一方で、彼らの間にはいずれのバンドもインストゥルメンタル・ミュージックを演奏しているという共通点が存在する。その大半は複雑な性質のもので、1種類の楽器に頼らずにメロディックなテーマを反映している。ギター(「パイプライン」、「アパシェ」)やサックス(「ショットガン」、「テキーラ」)をフィーチャーしたクラシックなインストゥルメンタル・ヒット曲がその良い例だ。これらのアーティストのほとんどがインディーズ・レーベルに所属しているが、中にはtoe(Machupicchu Industrias)、world's end girlfriend(Virgin Babylon records)、nisennenmondai(bejin records)、MONO(Human Highway Records)など自主レーベルで活動しているアーティストもいる。

日本の大手マネージメント会社に属するバンドは1組も存在せず、完全な自主マネージメントに徹しているバンドもいる。彼らはメインストリームのメディアで取り上げられることが少ないにも関わらず、口コミやインターネットで好調に活動の幅を広げ、しばし世界的な注目を集めている。例えば、nisennenmondaiは最近ヨーロッパ6カ国でフェスティバルを中心とした10公演のツアーを行なったばかりだ。2004年から海外活動を行なっている彼女達は、これまでにデンマークの<ロスキレ>フェスティバルをはじめとする主要な音楽フェスティバルに出演、既に12カ国以上を訪れている。

同様に、海外で精力的な活動を行なっているMONOは現在までに300回以上の海外公演を行ない、アメリカでは7枚のアルバムをリリースしている。彼らはインストゥルメンタル・サウンドを展開することから、アンビエントからヘヴィメタルまでの多様なアーティストと同じステージに立ってきた。インストゥメンタル・ミュージックを演奏することは、歌詞が日本語の場合に起こりえる言葉の問題を乗り越えるのを可能にすると考える者もいる。

何よりも、これらのアーティストが目指しているのは、ポップ・スターになることではなく面白い音楽を作ることなのだ。例えば、1996年から音楽活動を続けているROVOはヒット作品を一度も出していない。彼らの様に“ヒット”を持たないアーティストでも人々はライブで観ることを切望する。実際、ROVOはフジロックに4回の出演を果たしている。

こういったインストゥルメンタル・ミュージックは、最近になって突然生まれたわけではない。日本には、MUTE BEATやAUDIO ACTIVEといったインストゥルメンタル・ミュージックで海外でのファン層を築いたバンドの前例がある。もちろん、圧倒的な人気を誇るYMOの音楽もインストゥルメンタルが中心だ。彼らはパイオニア的な存在として長年に渡りファンを魅了してきた。また、彼らのような国内アーティストだけでなく、様々な海外アーティストからの影響も明らかで、MOGWAI、CAN、BATTLESがその代表例といえる。その他にも、ポストロック、アンビエント、サイケデリック、ダブ、エレクトロニック、ジャム・バンド、プログレロックの影響が顕著だ。

海外のトレンドセッターらは、日本発バンドの海外での知名度を築くのに重要な役割を果たしてきた。例えば、ジョン・ゾーンは数々の日本人バンドを自身のレーベルTzadikからリリースしており、ソニック・ユースは共演してきた日本人バンドをインタビューで絶賛している。また、非常に親日的なスペインの<ソナー・フェスティバル>は、これまでに数多くの日本人アーティストを招聘。同フェスがヨーロッパ初公演となったアーティストも多数存在する。

インストゥルメンタル・バンドが、チャート上位を独占する現在のアイドル旋風に打ち勝つには長い時間がかかるかもしれない。しかし、いずれ人気が落ち目になり引退を迎えたアイドルたちを横目に、これらのバンドの多くは、今後10年間は確実に日本と世界中の熱狂的な音楽ファンに向けて演奏活動を続けていく持久性を備えているのである。

キース・カフーン(Hotwire)

◆【連載】キース・カフーンの「Cahoon's Comment」チャンネル
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