Metis、「強くいなければ…」と心を偽っていた
Metisが3月2日、シングル「人間失格」を発売した。2008年に、がんで死去した実母への感謝をつづった「母賛歌」を代表に、温かく包み込むようなメッセージソングを歌ってきたが、新曲では大きく方向転換。「自分の仮面を外し、ありのままの自分でいたい」と制作した7分28秒の大作は、「夢を忘れていませんか?」「道をはずれていませんか?」「大切な人涙してませんか?」とたたみかけ、聴き手の心を揺さぶっている。
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幼いころ両親が離婚し母子家庭だったMetis。母の仕事の関係で人に預けられることが多く、精神的に不安定なことが多かったという。周囲に心配をかけまいと恐怖心を笑顔で隠したが膨らむ孤独感。中学時代には自分の居場所がないと自殺を考えたこともあった。
閉ざした心を砕いたのは病床の母の姿だった。当時16歳のMetisは、母の手術に立ち会わず、友だちと遊ぶことを選んだ。母を見舞ったのは術後2週間後。全身管だらけで会話もままならない姿に絶句した。母の病気を受け入れられなかった自らの弱さに気付いたMetisは「自分が強くならなければ。母を支えていこう」と決意。好きな歌で励ますことが出来たらと歌手を志した。
母を元気づけたい…と続けてきた歌。母の死後は「誰のために歌えばいいのか、何のために歌うのか分からなくなった」と声を震わせた。濁りのない母へのラブソングは聴き手の心を動かし、「聴くと元気になる」「励まされる」と多くの人から支持をされるようになった。しかしMetisは、「曲を聴くと励まされると言う言葉に動かされ走り続ける間に、再び仮面をかぶってしまっていた。『いつも元気ね』と言われると弱音を吐けなくて。幼少時代『良い子でいなくては』と笑顔を作っていたのと同じく、『強くいなければ…』と心を偽っていた。でも私も泣きたかったり、叫びたいときもある。その息苦しさを形にしようと思ったのが『人間失格』です」と心の内を明かした。
音楽は心の鏡と話すMetis。<泣きたければ 泣けばいい 叫びたければ 叫べばいい>と歌う歌詞は、自身へ向けた言葉でもある。「生きていれば悩むことも迷うことも過ちもある。弱い自分を受け入れ、泥にまみれても生きていこうと伝えたい。生きることは素晴らしいと伝えたい。多くの人の魂に触れ、誰かの明日を支えたい」と声を詰まらせながら語った。
自らの心を解き放ちたいと願った新曲について、親交がある女子フィギュアスケートの鈴木明子選手は「この歌を聞いたとき、心の奥深くをえぐられたような衝撃を受けた。スケートに悩んでいたときで、自分の弱さを突きつけられたような気がしたが、同時に光を照らしてもらえた気がする。人は自分自身の弱さと向き合えたとき、強くなれるのだと感じた。魂の叫びのようなこの歌を心の耳で聞いて感じてほしい」とコメント。競馬の藤田伸二騎手は「曲を聴いたとき!走馬灯の様に過去を思い出しました。生きていると色々とあります。けど、生きているからこそというものもあると思います。『人間失格』という歌は泣けるし勇気が出てくる。男泣き!」と話している。
取材・文・写真:西村綾乃
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