【D.W.ニコルズ・健太の『だからオリ盤が好き!』】 第19回 新春特別編 「僕らのアナログレコーディング」
アナログテープは15分のものを1本だけ使いました。1曲ずつ録ってはデジタルに移すということになるわけですが、たとえば4分半の曲の場合、15分のテープでは余裕を持つと2テイクしか録れません。“2回演奏して、どちらもまあまあ良くて、でも、もう1回やったらもっと良い演奏ができるかも…” という場合、もう1テイク録るためには最初の2テイクのどちらかを消さなければならなくなります。2テイクともデジタルに移して保存して、テープを空にしてからまた演奏するという方法もなくはないのですが、デジタルに移すのも少し時間がかかるので、その間に僕らの熱が冷めてしまうかもしれません。だからそういうことはやめて、こういう場合には新たな1テイクのために1テイクを消す、または、無駄にテイクは重ねず、最初の2テイクから選ぶ、という潔い決断をしようということにしたのです。
このシビアなやり方からはいい緊張感が生まれました。何でも残しておけるデジタルでは考えられなかった、1テイク毎の緊張感、テイクを選ぶ責任感。また、実際の話、テイクは重ねれば重ねるほど良いテイクは生まれにくくなるものなので、このやり方が功を奏して本当にフレッシュなテイクを生かすことができたとも思います。
演奏の一部を録り直すパンチ・イン / アウトに関しても、同じようなことが言えると思います。たとえば、“ギターのこのフレーズが上手く弾けてないから弾き直したい”という場合。そこを録り直すということは、元の演奏を消して上書きするということなのです。デジタルの場合は元の演奏を残したまま色々試してみて、気に入ったものをはめ込むということが可能ですが、アナログの場合、そうはいきません。録り直したら前の演奏は残っていないのです。デジタルの場合、そのパンチ・イン / アウトしたい場所を画面上で選択するだけでできてしまいますが、アナログの場合はイン / アウトのところに来たら、手動で録音ボタンを押すのです。タイミングがずれたら元の演奏を余分に消してしまったり、新しい演奏が録り切れなかったりするわけですから、エンジニアさんも言ってしまえば“命がけ”です。
また、今回アナログレコーディングしたベーシックトラックは一発録りをしています。一発録りとは「せーの」でみんなで顔を合わせながら演奏するということです。つまりその場のノリが出ているわけで、そのノリを出すために一発録りをするのです。それを一部分だけあとからひとりで弾き直したところで、キレイに弾けても大抵つまらない“ノれてない”演奏になってしまうのがオチ。しかもアナログの場合、元の演奏は消滅しています。失ったものを嘆いても後の祭りになってしまうのです。
だから今回はそういったちょっとしたミスのようなものはそのまま生かしました。せっかくのアナログでの一発録り。多少しくじっていても、生きた演奏、それを残そうと。その踏ん切りがついたのも、“保険のきかない”アナログレコーディングだったからかもしれません。デジタルでいくらでもやり直しがきくと、ついつい直してしまいたくなるものなのです。
また、カセット世代の人はわかると思いますが、テープというのは再生すると「サー」という音がします(これをヒスノイズといいます)。録音を重ねると、このノイズがどんどん目立ってくるのですが、アナログレコーディングで使うこのテープも例外ではなく、今回のように繰り返し録音していると、どんどんノイズ成分が強くなってきます。しかし、僕たちはあえてそのノイズを生かしました。当然、最後に録った曲が一番ノイズが乗っているということになるので、アルバムの1曲目を最後に録ることで、CDの再生と同時にアナログテープを再生したときのような「サー」という小さな音が聴こえるようにしたのです。これも今回のこだわりのひとつです。
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