「百鬼夜行奇譚」第四夜:【来世】~Awilda~[四/最終話]
Kaya 短編小説連載「百鬼夜行奇譚」
第四夜:【来世】~Awilda~
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◆ ◆ ◆
長く潮風に晒されたメアリーの肌は、完全に感覚を失っていた。
とっぷりと日も暮れて、完全なる闇の中、ただ聞こえるのは激しく打ちつける波の音だけ。
愛しい人を失くし、ただ息をしているだけの廃人のような生活。次第に、ただひとつの想いが彼女を動かし始めて居た。
「海に、行かなくちゃ……」
どうしてなのか、自分でもわからない。けれど、確かに誰かに呼ばれているような、どうしてもそこに行かねばならないような気がして、そしてまた自分の居場所は海であるように思えた。
波音が支配する暗闇の中。絶望の淵で、海辺に立つメアリーの美しい横顔は、まさにアヴィルダのそれだった。
波音の合間に、メアリーは確かに呼ぶ声を聞いた。
—おいで— —おいで— —おいで—
「アヴィルダ…なの? そこにいるの…?」
—おいで— —おいで— —おいで—
闇の中、静かに手を伸ばした。
次の瞬間。
荒ぶる高波が激しく彼女を捕え、深い深い永久の静寂に沈めていった。
果てしなく続く、暗い海の彼方で、微かに船音と笑い声が聞こえた気がした。
バルト海を臨む丘の上、忘れ去られようにひっそりと、美しい古城が立っていた。
初夏の風が海の薫りを古城の窓まで運び、窓際に咲いた薔薇が小さく揺れる。
時に置き去りにされた丘の上。城は、いつまでも、海風に吹かれていた。
― 完 ―
文:Kaya / イラスト:中野ヤマト
◆ ◆ ◆
KayaNew Single
「Awilda」
2010年7月28日発売
DDCZ-1697 ¥1260(tax in)
1. Awilda
2. Sink
3. Awilda -kayaless ver.-
<Kaya“Awilda”発売記念TOUR ~Voyage Rose~>
9月9日(木)高田馬場AREA(ワンマン)
◆Kaya オフィシャル・サイト「薔薇中毒」
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