「百鬼夜行奇譚」第四夜:【来世】~Awilda~[参]
Kaya 短編小説連載「百鬼夜行奇譚」
第四夜:【来世】~Awilda~
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◆ ◆ ◆
真っ暗な夜のバルト海を、霧にまぎれて彷徨う幽霊船。
メアリーは元来、自他ともに認める重度のロマンティストではあったが、今回の幽霊船の一件はいつものロマン至上主義とは一線を画していた。その船のことを想うだけで、メアリーの心は激しく猛り、郷愁とも、愛憎ともつかぬような感情が胸を締め付け、体を震わせるのであった。
――そうまるで、何 か に 憑 か れ た か の ように。
「メアリー?」
呼ばれて、ハッと我に返る。雨の午後、3時過ぎのティータイム。目の前にそびえるスコーンとケーキの向こうに、不機嫌そうな恋人の顔がある。
「またぼんやりして! この一週間、ずっとじゃないか。そんなに僕と居るのが退屈かい?」
「ご、ごめんなさい、ヨハン。そんなことはないのよ。」
どうだか、と吐き捨てて、ヨハンは席を立つ。
「待って! 何処へゆくの?」
「もう帰るよ。君ってば、ずっと上の空だし…どうせまた例の幽霊船のことでも考えていたんだろう?」
「ごめんなさい…でも聞いて? 私なりに調べて見たの! バルト海の海賊の歴史。ヨハンも【薔薇の悪夢】は知っているでしょう?」
「あぁ…今から200年くらい前の、一番有名な海賊団だろ? それくらいなら知ってるよ」
「その【薔薇の悪夢】なんだけど、後期に海賊団の船長になった女海賊がいたみたいなの! 名前はアヴィルダ。でもね、“七つの海で最も美しく、最も恐ろしい”という事以外、何もかもが謎に包まれているの。海賊団自体に関する資料は数多く残っているというのに、アヴィルダに関する記述だけが、何処を探してもみつからないのよ」
熱っぽく語るメアリーを、ヨハンが苛つきながら制する。
「どうでもいいよ、そんなこと! 君、ちょっと変だよ。何故そんなにまでもその海賊に夢中になるのさ!どうかしてるよ!」
言止めるメアリーを振り切り、乱暴にドアを開けて外へと飛び出した。いつの間にか激しくなった雨に逃げ惑う雑踏が、彼をぬかるんだ道の真ん中へと押し出した、その瞬間。
「ヨハン!!!!」
一瞬の出来事だった。
激しく降りしきる雨と、跳ねる泥飛沫の中、暴走した馬車。叫び声。
「誰か!! 青年が! 青年が馬車に轢かれたぞー!!」
メアリーは雨に濡れながら、ただ呆然と、その声を聞いた。
◆ ◆ ◆
文:Kaya / イラスト:中野ヤマト
◆ ◆ ◆
KayaNew Single
「Awilda」
2010年7月28日発売
DDCZ-1697 ¥1260(tax in)
1. Awilda
2. Sink
3. Awilda -kayaless ver.-
<Kaya“Awilda”発売記念TOUR ~Voyage Rose~>
8月29日(日)名古屋HOLIDAY
9月9日(木)高田馬場AREA(ワンマン)
◆Kaya オフィシャル・サイト「薔薇中毒」
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