「百鬼夜行奇譚」第三夜:【回顧】~Awilda~[参]

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Kaya 短編小説連載「百鬼夜行奇譚」
第三夜:【回顧】~Awilda~
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   ◆   ◆   ◆

暗く広がる漆黒の闇。高波が高く切り立った岩肌にぶつかり砕け散る。
夜空の闇と海原の闇がひとつにとけあい、ただ砕ける波音だけが辺りを支配していた。

裸足のまま佇むアヴィルダの肩に、夏の夜がじっとりとのしかかる。
フランツを失ってからというもの、アヴィルダはずっと夜の底に佇んでいた。

毎日帰ってくるはずのないフィアンセを待ちわび、流れる雲だけを数えた。そして夜になると、毎晩のように丘を下り、月光が乱反射するラグーンをただ眺めていた。

自らの運命に何の疑問もなく純朴に生きてきたアヴィルダ。そして突然奪われた未来。フランツの死は、彼女の心の奥の“何か”をゆっくりと動かし始めていた。

「またここにいたのか」

振り返ると、アルフレッドが丘を下りながら近づいてきた。闇にまぎれ、表情は伺い知れない。

「お父様……」
「そんなところに長くいたら、体を壊してしまうよ。もう帰ろう」
「えぇ…でもお願い、もう少しだけここにいさせて」
「なぁ君、明日は誕生日だろう?どうだろう、久しぶりにパパと二人で船に乗らないかい?」

アルフレッドの提案に、アヴィルダは震え、声を荒げた。

「船ですって? 厭よ! 乗りたくない!」

しゃがみ込むアヴィルダを優しく抱きしめ、話しかける。

「君の気持ちはわかる。でもこのままじゃ君までダメになってしまう。それではフランツも浮かばれないだろう。ねぇ、君。フランツに会いにいこうじゃないか」
「フランツに…? お父様、彼はもういないのよ! いないの! もう二度と会えないのよ…!」

泣き崩れるアヴルダを強く抱きしめ、続ける。

「わかっているよ。でも、海が好きだった彼のことだ。きっとまだ海にいるんだと思うんだ」
「海に……?」
「そうだ。彼が好きだった薔薇の花束とワインを持って行こう。そして最後にきちんとお挨拶をしようじゃないか。それはとても辛いことだけど…きちん挨拶出来るだろう?」
「……考えさせて」

翌日、黒装束に身を包み、深紅の薔薇の花束を抱きしめ、アヴィルダは船へと乗り込んだ。
そして、それが彼女が踏んだ最後の大地となった。

   ◆   ◆   ◆

文:Kaya / イラスト:中野ヤマト

次回:【回顧】~Awilda~[四] 7月25日公開予定

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KayaNew Single
「Awilda」
2010年7月28日発売
DDCZ-1697 ¥1260(tax in)
1. Awilda
2. Sink
3. Awilda -kayaless ver.-

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◆Kaya オフィシャル・サイト「薔薇中毒」
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