「百鬼夜行奇譚」第ニ夜：【鬼櫻】桜花[参]

Kaya 短編小説連載「百鬼夜行奇譚」
第ニ夜：【鬼櫻】桜花[参]
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突然視界の端にぼんやりとした白いものが見えた気がした。仄暗い裏道である。街灯などあったかなと思い足を止める。漆黒の闇の中、満開の桜が灯をともしたようにぼんやりと佇んでいた。夢のような光景に目を疑いながら、引き寄せられるように近づくと、木陰に立ち、桜を見上げる女性に気づいた。

彼女だ！　呼吸も忘れ、駆け寄る。だがそれはまったくの別人であった。

「あ…こんばんは」
口をついて出た気の抜けた挨拶に、女性は静かに微笑んだ。

よく見れば、なんとも美しい女性であった。綺麗に着こなした和服が、夜桜とマッチして、まるで一幅の絵のように見える。

「こんな時季に、満開なんて…不思議ですね」
声をかけて、ぎくりとした。
女は、裸足だった。そして抜けるような白い面に微笑を浮かべている。
ざわと、背中に冷たいものが走る。全身の肌が逆立ち、心臓が速く脈打つ音が自分でも聞こえるようだ。

逃げろ！　本能が、叫んでいる。けれど足はまるで根が張ったように、大地から動かない。

一言も、ものをいわず、女は近づいてきた。そして耳元で、囁いた。

「待っているのよ、桜の木の下で。とても寂しがっていたわ……」

瞳のない黒いばかりの女の目玉がパチリ、と瞬きした――。

文：Kaya　／　イラスト：中野ヤマト

次回「【鬼櫻】桜花[四]最終回」　5月31日（月）公開予定

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＜Kayaマンスリーライヴ“DIVA”＞
6月6日(日)池袋BlackHole
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