「百鬼夜行奇譚」第一夜:【不眠】~Psycho Butterfly~[参]

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Kaya 短編小説連載「百鬼夜行奇譚」第一夜:【不眠】~Psycho Butterfly~
[壱]
[弐]
[参]
[四/最終回]

   ◆   ◆   ◆

深夜二時。

暗闇に伸びた白い腕には、無数の赤い痕が走っていた。
それはひび割れた鏡のように、彼の悲しみと激しさを、美しく忠実に反映していた。
とめどない自己否定と、止まらない自虐。孤独に蝕まれながら、自らの存在を否定し、罰を与えるかのように、あたたかな睡眠を拒絶し続けていた。そうして夜が明けるまで、暗闇の中で何かを追い求めているのだった。

繰り返される苦悩には、終わりがないように思えた。そして苦悩は、蝶の姿となって毎夜彼を翻弄するのであった。

陰鬱な雲がいよいよ月をすっぽりと覆い隠し、闇が徐々にその濃さを増してゆく。
もうすっかり暗闇に慣れた視界の端に、ふと何かが揺れた。
その刹那、生温かい風とともに何かが彼の頬をかすめて飛んだ。小さく悲鳴をあげて肩をすくめ振り向くと、ベッドサイドに置かれた小さなテーブルに、薄い紫色の翅の見たことも無い蝶が止まっていた。今夜の蝶は随分とその輪郭がはっきりとしている。訝しげにゆっくり近づき、そして彼は息をのんだ。

蝶のような翅ではあるが、それは蝶のそれとはまったく形状が異なっていた。その生き物は蜘蛛の巣にかかったヤモリのようにも見えたし、翅の生えた芋虫のようにも見えた。ぬらぬらと艶かしく動く背中から生えた翅は、そのグロテスクな体とは正反対に、ほのかな光をたたえて薄紫色に美しく輝いていた。艶やかな翅が、呼吸するように静かに上下する。暫しその生き物から目を逸らすことが出来なかった。ともすれば身を丸めてしゃがみ込んでいる人間のようにも見える。そういえば頭の部分がやけに大きい。しかも、目鼻のようなものまでついているような気がする。…これは夢か。現か。

どれほどの時間「それ」を見つめていたのだろう。すると突然その蝶のような生き物はにわかに体を震わせ、頭をもたげて、じっと彼を見た。

早朝。
軽い目眩とともに目が覚めた。いつの間にか眠ってしまったのか。蝶のような生き物が止まっていたテーブルには何もおらず、宵闇はゆるやかに明けて、部屋はぼんやりと白いでいた。

あれはなんだったのだろうか。夢にしてはあまりにも生々しかった。しかもあの生き物の顔は…。いや、きっとあれは夢だったに違いない、そう納得しようとした。

そして徐々に明るくなる天井を、いつまでもいつまでも睨んでいた。

文:Kaya / イラスト:中野ヤマト

次回「【不眠】~Psycho Butterfly~」[四]最終回 4月26日(月)公開予定

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Kaya 短編小説連載「百鬼夜行奇譚」
第一夜:【不眠】~Psycho Butterfly~
自室で不眠症に悩む青年。彼は、自らを憎んでいた。眠れぬ夜に、思い描く幻の蝶々。幻の蝶を追ううちに、彼は夢と現実の境界を失い始める。彼の目の前に現れた醜く美しい謎の生き物。夢の狭間で彼が垣間見たものは、夢か、現か、彼の心の闇か。心の闇を蝶々に見立て、不眠症の青年の心象風景を描く。

<Kayaマンスリーライヴ“DIVA”>
5月5日(水)池袋BlackHole
6月6日(日)池袋BlackHole
7月7日(水)池袋RUIDO K3
8月8日(日)新宿RUIDO K4
9月9日(木)高田馬場AREA
10月10日(日)渋谷RUIDO K2
11月11日(木)池袋BlackHole
12月12日(日)未定

◆Kaya オフィシャル・サイト「薔薇中毒」
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