MAMALAID RAG、待望の3rdフルアルバム『SPRING MIST』&初ベスト同時リリース特集
MAMALAID RAG ママレイド・ラグ待望の3rdフルアルバム『SPRING MIST』 初のベストアルバム『the essential MAMALAID RAG』 2010.4.7同時リリース
創作意欲がポジティブに向かい 溢れるがごとく生み出された みずみずしい14曲と ママラグの20代の歴史を伝える 初ベストが同時リリース
田中拡邦(以下、田中): ソニーさんが、僕がアルバムを出すタイミングに合わせてベスト盤を出すことを提案してくださったので。オリジナルアルバムは、去年の夏ぐらいに予定していたんですけど、僕が全然作れなくて、ずっと待ってもらっていたんです。
田中: オリンピックのような(笑)。ペースが遅いのは、僕が寡作なことが理由ではあるんですけど、とにかくこのバンドは…話すと長いんですけど、メンバーチェンジがいろいろあって。1stアルバムを作り終えた時点で、オリジナルメンバーのドラムの山田くんが脱退を決意していまして。彼なりに気を遣ってくれて、アルバム後のライヴまでは付き合ってくれたんですけど、実質的にはアルバムを作り終えた時点でバンドとしては終わってるんです。1stが出た時点で終わっているという、そこからこのバンドの大変な歴史の1ページが始まるんですけど…(笑)。
田中: 新しいドラムに入ってもらったんですが1年でやめてしまって、また二人になって。はっきり言ってしまえば、1stが出た時点でこのバンドは終わってたんです。それをなんとか存続させてやってきた。で、2006年にベースの江口も辞めて、僕ひとりのプロジェクトになるんです。音楽的にも試行錯誤していたので、1stから2ndまでに4年かかったんです。その後の4年間は、江口が脱退して、僕もレコード会社を離れて今に至るわけです。本当にひとりになって態勢を作り上げていく4年間でしたね。今は落ち着いて、いろんなことがうまく流れ始めて、精神的にも非常に安定している時期です。
田中: こんなに健康的な精神状態は、1stアルバム以前の感じかそれ以上で、毎日が楽しいし、音楽的にも非常に充実しています。アルバムを作り終えたんですけど、もう次にとりかかっているぐらいで。当然次は4年もかからないし、2010年中にも何かしらのアイテムのリリースを予定しているので、非常に充実してますね。
田中: ずっと研究して勉強して、身について…僕はギタリスト出身ということで、エリック・クラプトンと成り立ちが似ている気がするんです。
田中: 彼が「ギターを練習して、歌を勉強して、最後に作曲を勉強した」と言っていて、それで「ティアーズ・イン・ヘヴン」のような曲を作れるところまでたどり着くんですけど、僕もまったくその順番で。ようやく最近、作曲をきちんと学んで身についてきたなと思います。ママレイド・ラグの前にCROSSWALKというバンドをやっていた時は完全にギターバンドで、ハードロックのギターから入って、ママレイド・ラグになってヴォーカルの成長があって、今は作曲においてさらに進歩してるなと感じますね。ようやく。
田中: 僕は“マテリアル”と呼んでるんですけど、細かいメロディのパーツをカセット・テレコや携帯のボイスメモ、デジタルレコーダー、コンピューターのクイックタイムに録音して、ためていくんです。あんまり冴えていない時は、聴いても広がっていかないんですけど、心が開いている時は、そのパーツを聴くだけで1曲ができちゃうんですよ。そんなふうに、マテリアルの数だけ曲ができちゃうみたいな時期が2009年の10月の終わりにあったんですね。今回のアルバムの曲はその時に、16日間で18曲書きました。1日でアレンジと構成を決めて、夜に作詞をして、夜中に仮歌を入れて寝る。それをぶっ通しで1日も休まずやりました。本当に楽しくて、それを人に聴かせるのも楽しいし、寝ながら自分で聴くのも楽しいし。朝4時に寝て午後2時に起きるという生活パターンがその頃にできあがって、今日も2時に起きたので、まだ起きたばっかりなんですけど(笑)。
田中: それには伏線があって…僕は今まで、現代的な作家のような生活が、作曲家にも好ましいんじゃないかと思ってたんですよ。早寝早起きをして、朝ジョギングして、要は村上春樹のような、非常に健康的な生活パターンでこれまでは作っていたんですね。ベスト盤に入っている曲は、ほとんどそうやって作った曲ばかりなんですが、今回はまったく変わって、朝4時に寝て午後2時に起きるというスタイルになって。それはある人が、睡眠時間というのは人それぞれで適した時間があって、一般的には8時間がいいと言われているけれど、たとえばアインシュタインは10時間寝ていて、ナポレオンは3時間寝ていた、ということを言ってたんです。で、僕がある時10時間寝た時に、起きてからすごく調子がよくて、「僕はアインシュタイン・タイプなんだ」と思ったんですよ(笑)。
田中: で、仕事をしていると寝るのが朝4時くらいになるので、そこから10時間というと午後2時になる。それと、ジョン・レノンの最初の奥さんのシンシア・レノンの自叙伝が数年前に出て、それを読んだ時に「ジョンはいつも“2時に起こしてくれ”と私に頼んでいた」という言葉がすごく頭に残っていて、やっぱりそうなんだと(笑)。細野晴臣さんもそういうタイプらしいんですけど、そのスタイルに変えてみると、いろんなサイクルにぴったり来るので、すごく制作しやすくなりました。ただ僕は今、音楽だけではなくて事務所の業務もやっているので、そういう意味では朝11時ぐらいに電話がかかってきたり、午後いちからの仕事があったりするとキツイんですけど(笑)。
田中: すごく関係あると思います。大瀧詠一さんが「男の歌は30から」と言ってますし、それはすごくわかるところがあって。今回、30歳という年でニューアルバムを出せて、しかもベスト盤を出せるというのは、20代の音楽と30代から作り始めた音楽を比べられるという意味で、すごく面白いと思います。ベスト盤を聴くと、やっぱり20代の音楽だなぁと思うところが多々あって…。昔から言われることですけど、20代で勉強して、30代からそれを生かしていくという、音楽においてもそうだなと思いました。僕の20代はずっと実験をしていたなと思うんですよ。そういう20代を経て、今30代になって新しく作ったアルバムは、今までの知識を総動員した形なんですね。ある意味で、ようやく本領を発揮しだしたというか、これからが勝負だなと思うし、これからのためにこれまでがあったという認識でいるので。20代には大変なこともいろいろあったけど、それがあったから今回のアルバムの14曲ができたと思うし、非常に完成度が高いと自分でも思ってます。