スリップノットのワールドワイドなデビュー作となった『スリップノット』発売から今年で10年。――時が経つのってホントに早いなと改めて思わされるけど、発売当時、欧米シーンはまさにヘヴィ・ロック/ニュー・メタル/ミクスチャー・ロック一色に染まり、彼らはその新参入バンドのひとつ、ぐらいに捉えられていた。
その頃は今ほどインターネットが普及しておらず、音源ダウンロードなんてそんなシステムはなかったし、それどころかMySpaceなどのお手軽便利な試聴サイトすらなく、情報&音源入手などはもっぱらレコード会社に頼らざるを得なかった。
そんなある日に届けられた、『スリップノット』の資料と音源。音源を聴く前に資料にあったグループ写真を見てまず、「ウワッ!?」となった。どんなタイプのロックを演るバンドが出てきても、どんな風貌のロック・バンドが現れてももはや動じもしなければ驚きもしない時代となっていたけど、さすがに9人全員がお揃いの赤ジャンプスーツに身を包み、各自奇々怪々の異なるマスクを被った猟奇的なビジュアルにはしばし目を奪われた。で、間髪入れずに音源を聴いた途端、その怒りに満ちあふれ、9人が一緒くたになって襲いかかり、たたみかけてくる、ビシッと整合感極めたサウンドにいとも簡単にヤラれてしまった。それからさほど時間がかからずに彼らは欧米を席巻し、それが日本にも飛び火し、一気に世界各国で混乱と喧騒を引き起こしたのだった。
ヘヴィ・ロック/ニュー・メタル/ミクスチャー・ロックなる言葉で呼ばれたサウンドは、要は90年代後半から2000年代初頭期のメタルであり、それをKORNともリンプ・ビズキットともデフトーンズともシステム・オヴ・ア・ダウンともまったく異なるアプローチで表現・主張しつつ、今現在のメタル隆盛へと導いたのが、彼らだった。新世代メタルと称され、キルスウィッチ・エンゲイジ、ブレット・フォー・マイ・ヴァレンタイン、アヴェンジド・セヴンフォールドらがその旗頭的存在と言われることが多いけど、実はその先鞭をつけたのは、紛れもなく彼らだった。
『スリップノット』発売以降、作品が重ねられるたびに日本に限らず、アメリカやヨーロッパでも何度も彼らに会い、話を聞き、ライヴも観戦してきた。その都度その都度、新たな発見をし、学ぶことも多く、ライヴ中に感極まったことも何度かあった。仕事柄、直接アーティストに接触する機会は多い。だけど、そうした経験をさせてくれたバンドは非常に稀で、そうは滅多にはお目にかかれない。そういう意味でも彼らは、自分をしょっちゅう突き動かしてくれたバンドだと思う。
その音楽性も特殊で突飛な面すらあるけど、彼らのバンドとしてのあり方や形態もとても特異で、ほかのバンドには絶対見受けられない、感じられないところがある。それはズバリ、9人が一枚岩になったときに発せられる、すべてを吹き飛ばしてしまう強大なパワーと勢いだ。我々がそれを体感、実感できるのはライヴなわけだけど、あの“強大感”はかなりのものでハンパじゃない。あの“強大感”を浴びた瞬間、相当エキサイトさせられるし、正直一度味わうと後生忘れられないのでは? と思わせてしまうだけの“覚醒性”も宿す。そう、彼らは実に恐ろしいバンドなのだ。
新作『オール・ホープ・イズ・ゴーン』で彼らを知った人もいるだろうし、スリップノット歴は前作『VOL.3:(ザ・サブリミナル・ヴァーシズ』(2004年)からという人もいるだろう。そういう意味でも、まだまだ『スリップノット』を未聴の人っているハズだ。ぜひ、『スリップノット』を聴いてほしい。なぜならこの作品が彼らの最初の“世界的咆哮”であり、“すべての始まりのひとつ”なのだから。
有島博志/GrindHouse