青い血流が迸るX JAPANが生み出した「愛」のちから

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8月22日、鈴鹿サーキットで行なわれたX JAPANにとって6年ぶりとなるFILM GIG<X JAPAN FILM GIG ~鈴鹿の夜~>に、YOSHIKIとTOSHIがサプライズ出演。7月27日に頚椎の手術を行なったYOSHIKIは、術後初めて公の場に姿を現した。

◆青い血流が迸るX JAPANが生み出した「愛」のちから ~写真編~

日中は殺人的な暑さのサーキットも、開演時刻の20時ともなると秋の訪れを感じさせるような涼しい風が吹き始めた。オープニングに会場に流れ始めたのは、2009年5月の東京ドーム公演で披露された新曲「Jade」。コンサートでしかまだ披露されていなかったこの曲の、スタジオ録音音源が初披露となった。YOSHIKIがLAから指示を出し、LAのYOSHIKIのスタジオと日本のスタジオをインターネット回線でつなぎ録音作業を行なったという新録「Jade」。コンサートの時は産まれたてだった楽曲はYOSHIKIの手によって大事に大事に育てられ、まるで1本の映画を魔法で音楽に変えてしまったかのような、壮大なストーリーをはらんだ大曲となった。さすがX JAPAN…と、オーディエンスの心のひだを激しく震わせる。静かに聴き入る観客が拍手を終えるころ、まるで夜空を区切ってスクリーンに変えたかのような大型ビジョン3台と地上に置かれた2台のビジョンカーで構成されたステージでフィルムコンサートがスタートした。

「“X”って“無限の可能性”って意味なんだよ。YOSHIKIがつけたんだ…。」

オープニングの映像は97年のLAST LIVEだった。TOSHIの言葉が静かにサーキットに響く。スクリーンにはそれぞれのメンバーがそれぞれの想いを胸に秘め、静かな微笑みをたたえていた。「編集しながら泣いてしまった」とYOSHIKIも後に語ったが、ここから10年後、X JAPANは奇跡の再結成を果たすことになる。これが本当にどれだけ奇跡的なことだったか、その軌跡がこのFILM GIGの映像にしっかりと刻まれていた。

2008年3月の東京ドーム復活公演での「Rusty Nail」で、いよいよフィルムコンサートの1曲目がスタートとなった。そのまま2008年5月4日の<hide memorial summit>の映像に流れ、2009年5月30日の台湾公演から「WEEK END」「Silent Jealousy」が、「Tears」では1月16日の香港公演~2008年末の赤坂BLITZ~5月3日の東京ドーム公演~5月30日の台湾公演と次々と映像が切り替わる。復活してから世界に向かっていく感じを見せたかった、というYOSHIKIの構想で編集された映像は、こうして見ているとまるでX JAPANと一緒に世界旅行をしているかのような想いが募る。

「Tears」のしっとり切ないメロディーが夜空に溶け込むと、思わずぐっと涙がこみあげてきそうになる。X JAPANがくれたたくさんの思い出のアルバムを1枚1枚たどっているようだ。その後も各公演の映像で、「紅」「Without You」「I.V.」では台湾公演でのウェディングドレス姿のYOSHIKIが、そして「X」が流れるとサーキットもX JUMPで大きく揺れた。

台湾公演での「X」、台湾コールが響く中、それにかぶさるようになぜか「鈴鹿コール」が聞こえてくる。ゆっくりステージに現れたのはTOSHIだ。「今日はお前たちのエネルギーを感じたぜー!もう1発一緒にやろうぜー!」という掛け声を合図にラスト「ENDLESS RAIN」がスタートした。

「ENDLESS RAIN」の合唱が響く中、もう一度ラストライヴの映像にもどりFILM GIGの終わりを感じていると、上空に一際まぶしい光を放つ星がひとつ。サーキットに近づくとともにプロペラ音が聞こえてくる。ヘリだ。どんどん高度をさげながらサーキットに近づき上空をくるりと旋回すると、そのままサーキットの敷地に着陸していく。ビジョンは突然切り替わり、ヘリの映像が中継される。息を飲み見守る観客。ヘリの扉が開き、期待で空気がピンと張り詰める中、ヘリから出てきたのはもちろんYOSHIKIだ。会場は大熱狂に包まれた。

YOSHIKIはゆっくりとスポーツカーの助手席に乗り込み、ビジョンには「ENDLESS RAIN」と交互にYOSHIKIを乗せたスポーツカーがステージに向かう様子が映し出される。ステージの前に現れたYOSHIKIは車を降り、ゆっくりとステージに上がる階段を登る。途中バランスを崩し、よろけた場面に一瞬ヒヤっとさせたものの、ステージに上がりマイクを持つと、ひとこと「来ちゃいました。」といつものはにかんだ笑顔を見せた。

YOSHIKIの体調をずっと心配していたファンたちの興奮はもうおさまらない。「YOSHIKIコール」が鳴り止まない中、首にはコルセット、左手にはサポーターを巻いた、少し痛々しい様子のYOSHIKIは、ゆっくりと話を始めた。

「首の手術をしたんですけど、そのときに…」

声が震え、YOSHIKIは言葉を詰まらせた。その様子に観客も泣き叫ぶかのように、YOSHIKIの名前を呼び続ける。「一人じゃ喋れないや。」と再びTOSHIをステージ呼び、再び手術のあとの体調について語り始めた。

「手術のときにみなさんからもらったメッセージを読んですごく心強かったというか…」

再び詰まらせた言葉をYOSHIKIは、そのまま言葉を続けた。

「別に手術くらいこわくなかったけど(笑)」と嘯くYOSHIKI。ファンの心持を鑑み、事の重大さをはぐらかすように冗談を交え、いつもの穏やかな口調を装う。「今、リハビリを毎日やってます。今回ロスから来たのは実はそんなに無謀なことではなくて、少し身体を動かした方が回復が早いというので、みんなに会いたかったから来ちゃいました。TOSHIにも会いたかったしね。」とTOSHIに笑顔を向けるとTOSHIも「うん。僕も会いたかったよ。」と会場を和ませた。

TOSHIも体調に気遣い「LAから来るのはやめといた方がいいんじゃないの?」とYOSHIKIに話したが、「いや、どうしても(みんなに)会いに行く!」とYOSHIKIが今回のサプライズ出演の決行に至る経緯を語った。

手術は成功したものの、術部の炎症が6週間程度は続くという。術前より状態が悪く手のしびれが強く出ている状況だが、炎症が治まれば症状も軽減していくとのことだ。「身体を動かした方が回復は早いと言われていて、病院や自宅に引きこもる生活より、今回鈴鹿に来たことで劇的に回復した気がする」と23日のレース観戦時にYOSHIKIは語った。「みんなの顔を見たら感極まっちゃって、ジーンときちゃって。TOSHIが居なかったらたぶん何も喋れなかった。」と吐露するYOSHIKI。TOSHIはそんなYOSHIKIの心中を察して、YOSHIKIが言葉がつまるたび、すかさずフォローをしていた。

今回、秘密裏に決定していた2009年内の大阪公演と10月のフランス公演が、どちらも延期されることも発表となった。「X JAPANには今までいろんなトラブルがあって、今回はその中でもとても大きなハードルとなったけど、今までもみんなで乗り越えてきたし、これからもみんなでX JAPANらしくまっすぐに歩んでいきたいと思っています。今日もかっこいいコンサートの映像を見てもらったけど、これからもメンバー全員が完璧な状態でかっこいいコンサートをしていきたいと思っています。これからもよろしく頼むぞ!」と、TOSHIはファンへの契りを言葉に表わした。

「本当にみんな我慢強く待ってくれてどうもありがとう。首が曲げられないのでお辞儀ができないけど、頭のなかでお辞儀しています。」と冗談を含ませながらも、張り裂けんばかりのファンへの感謝は、会場のみんなにひしひしと伝わったはずだ。

「コンサートは延期になってしまったけど、今も活動を止めてるわけじゃありません。こないだレコーディングもしたし、新曲もできました。一日も早くアルバムをリリースしたいし、一日も早くツアーも再開したいのでこれからリハビリ一生懸命がんばりますし、みんなに夢を与えるようなバンドになりたいと思います。今日は本当にありがとうございました。」

幾度となくX JAPANに降りかかってきた試練。「X を解散したときと、HIDEがいなくなったときの痛みに比べたら100分の1です。こんなの耐えられます。」とのYOSHIKIのセリフは、取材陣から「今回のハードルの高さはどれくらいだと思うか」という問いに答えたものだった。

「今はX JAPANという戻る場所があるからそこに向かって頑張っていける。もしX JAPANが無いときにこういうことがあったら、もう生きる希望を無くしてたと思う。でも今は行かなきゃいけない場所があるから。何もない暗闇をただ彷徨ってた時期もある。今は光が見えてるんだから、ただそこに向かって歩いていけばいいだけです。」と笑顔で語るYOSHIKIのその表情にも口調にも、一切の迷いは無い。

YOSHIKIが命をかけて攻め、守り続けているものが、X JAPANというモンスター。X JAPANの鼓動はYOSHIKIであり、モンスターの四肢は頑強なメンバーで形作られている。だがそのモンスターに流れている青い血は、世界中のX JAPANを愛するオーディエンスが流す血流だ。

強靭な精神力、常識を逸脱する酷使された肉体。そして、それに反比例するかの繊細で傷つきやすいデリケートな魂。痛みを知り、絶望を知り、希望を知り、夢を知り、愛を知る。進むべき先はひとつ。X JAPANを包む巨大な愛の存在は、YOSHIKIを真っ直ぐに真っ直ぐに突き進ませる。

絶対にあきらめないという、シンプルな強さ。それが、青い血流がほとばしるX JAPANが生み出した「愛」のちからなのである。
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