小林武史、初のソロ・ワーク集『WORKS I』リリース記念超ロングインタビュー特集

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小林武史 初のソロ・ワーク集『WORKS I』リリース大特集

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キーボーディストとプロデューサーの間にあるもの

ピアノをメインに音楽をつくる自分の世界を向き合いたくなった

──まずは『WORKS I』のお話からうかがいます。Mr.Childrenをはじめとするプロデュース・ワークでポップ・マエストロとしての小林さんは国民的レベルと言っても過言ではないほど知れ渡っているんですけど、このアルバムを通して音楽家・小林武史のすごくプライベートな部屋に招かれたような気分になりました。そこにはある種の孤独感のようなもの、そこからくる旋律の美しさを感じたりもして。いま、このタイミングでソロ・ワーク集をリリースしようと思った経緯から訊かせていただけたら、と思います。

「大きな軸がふたつあるんですね。ひとつは、去年Mr.Children15周年の『HOME』ツアーに初めてプレイヤーとして参加して、そこでキーボーディスト、ピアニストとしての自分のスタンスをかなり確認できたということがあって。僕はいま、音楽以外でも非常に忙しい生活をしているんですけど、その上においてもキーボーディストである自分を維持していきたいということを強く思ったんです。」

──それがひとつ。

「はい。もうひとつは、純粋にピアノをほぼメインに音楽を作る自分の世界と向き合いたくなったというか。小さい頃からクラシックを練習することとは別に、アップライトピアノに向かいながらピアノという楽器に対して興味をもって。それこそ遊びながら即興演奏をすることからはじまったんですけど。それが僕の音楽的原風景なんですよね。」

──確かに、僕も聴いていて「原風景」という言葉が思い浮かびました。

「それが、さっきおっしゃっていた孤独というものにつながるのかもしれないんだけど(笑)。まあ、悪くない孤独というものがあるんですよね。」

──そうですよね。

「そのなかで紡ぎだしていく何か──旋律なり、ハーモニーなりがあって。それを探していくことが僕にとって重要な行為だと思っているんですね。プロデューサーとしての小林武史もそれをやったほうがいいってすごく思っているんですよ、やっぱり。だからまわりからずっと『やれ、やれ』って自分自身に言われてきたんですけど、なかなかそのほかにやることが多くてできなかった。でも、ついに『いいかげん、その機会を自分に課せ、おまえ』という声が聞こえてきまして(笑)。だから、『WORKS I』って明らかに『II』があることを匂わせているんですけど、本当にライフワークのようにやっていこうという決意のもとに、このアルバムをリリースしようと思っているんですよ。それで、まずはいままで個人名義で映画やテレビに提供してきた曲をまとめてみなさんにお贈りしようということで。」

──これまでどこかで蓄積されていた音楽家、プレイヤーとしての思いがMr.Childrenの<HOME>ツアーを通して徐々にあふれていったということなんでしょうね。

「そうなんですよね。やっぱり<HOME>ツアーは大きかった。僕はキーボーディストとしてあれだけの本数(全28公演)を廻るということをほとんどやってない人間なので。基本的にはレコーディング・スタジオにいる人間で、良い曲を作っていくために機能して、別にピアニストとして存在しているわけではない。もちろん弾くこともあるけども、良い曲を作っていくためには、それが生ピアノであろうが、シンセであろうが、なんでもいいわけですよ。でも、ツアーのメンバーとしてライヴに臨むとなると、確実にキーボーディストとして一週間のうちの2日間を集中するわけじゃないですか。その集中する感じがすごく自分のなかでおもしろかったし、いいバイブレーションになったんですよね。」

──やはりライヴという肉体的な喜びってすごく大きな作用があるんでしょうね。

「そうですね。そういう意味でいったら、Mr.Childrenのライヴがいちばんおもしろいですよ。Mr.Childrenというバンドにデビューの頃からプロデューサーとして関わってきて、アレンジ的にはある種、僕がイニシアチブを取ってやってきたものをもう1回バンド・メンバーの一員として演奏する作業だったので。もっとも肉体感があるんですよね。」

──なるほど。あともうひとつ思ったのは、これまで小林さんは、プロデューサーという立場で、良質なポップスを制作し、アシストしていくという使命感を優先させてきたのかなと思うんです。

「そういうイメージはあるかもしれないですけど、でもね、僕個人はどんなプロデュース・ワークでもけっこう好きにやっているんですよ。当たり前だけど、好きにやるってものすごく重要なことだから。だって、Mr.Childrenのライヴでも、僕がいちばん好き勝手にやる人間ですからね(笑)。」

──あはははは。

「暴れん坊ですよ(笑)。毎日、毎日やることをガンガンに変えていきますから。それが桜井(和寿)も新鮮だったと思うし。仕掛けていくから、僕が。だから、桜井とかからも『どれだけ自由なんですか?』ってよく言われるんですよ(笑)。」

──じゃあ、使命感というよりは、好奇心が先行しているといってもいいのかもしれないですね。

「使命感というのがあるとすれば、プロデュースをする相手が持っているものをいかに活かすかということですよね。僕は分析するのが得意なんです。これはこうで、この先をどういうふうに考えて、こういう可能性もあって、自分はここでどうすればいいかということをAパターン、Bパターンと出して、なぜAがいいかというところまで全部言えたりするんです。」

──すごい。

「だからプロデューサーとして重宝されるんだと思うんです(笑)。」

──小林さんの話を聞いていると、優れた戦略家としての面と幼少のころから変わらない音楽少年として面が同居しているんだなって思います。この『WORKS I』は音楽少年の面が強く押し出されているというか。

「少年かどうかはわからないけど、最近思うのは歳をとるのも悪くないなということで。邪念みたいなものがどんどんとれていくんですよね。その結果、より音楽と純粋に向き合いながら曲を作っていけるような感覚を覚えてるところはありますね。」

──やはり、ひとりでピアノに向う感覚はイノセントな衝動を呼び起こすような特別なものがありますか?

「それは、あると思いますね。精神的には、リラックスしていて、緊張するような感じがあって。要するに覚醒している状態なんだと思うんですけど。ものすごく冷静に目を開くという状態になれる。その感覚がおもしろいんですよ。」

──おのずと深層心理と対話するような状態になりますよね。

「そうなんですよね。さらに僕は自分がつくった曲を演奏するということも大きいですよね。例えばクラシック奏者だったらベートーベンのピアノソナタをどう弾くかというところに命をかけるんだけど、僕の場合はコンポーザーとして自分の作った曲を演奏するという感覚があるので、演奏者としての命とかプライドをかけるというよりも、そのメロディを鳴らしていることに自分の身体がどう反応するかという、ちょっと突き放して楽しめるところがあるんですよ。」

──それはまた、常にプロデューサーであり、コンポーザーであり、プレイヤーでもあるという小林さんならではの感覚かもしれませんね。

「そうかもしれないですね。ソロ・ワークを続けることがいろいろな面でいい影響を及ぼすと思うし、この個人的な楽しみを今後も大事に続けていきたいと思ってます。」

 
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