DIR EN GREY薫 vs QUEENADREENAケイティ 対談

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全世界的な活躍を見せるDIR EN GREYのリーダーでありギタリストの薫がシンパシーを感じている、ガールズ・ゴシック・ポップ・ロックのオリジネーター、QUEENADREENAのボーカル・ケイティとの対談が実現した。

3月1日に開催された<BRITISH ANTHEMS>に出演するために来日したQUEENADREENA。もちろん薫本人もSTUDIO COASTに駆けつけ、ライブを楽しんだという。そんなライブの熱気も冷めやらぬ、翌2日都内某所にて対談は行われた。

一つ一つの言葉を搾り出すように話すケイティに、薫は熱い視線を向けながら今まで一(いち)ファンとして、同じアーティストとして持っていた疑問をぶつけ、対談は静かな熱気を帯びながら進行。楽曲制作の方法論などに違いはあれど、精神的な部分での共通点を見出した彼ら。今後、いつかは同じステージに立つことを約束しつつ、対談は終了した。

対談内容は、前日に行われたライブの感想から、お互いのバンドの印象、ケイティのバックグラウンド、曲作りまで、かなり深い部分と話は進んでいった。


3月2日午後、都内某所。来日公演はデイジー・チェインソー時代以来ということになるクイーンアドリーナのケイティ・ジェーン・ガーサイド(vo)と、今年に入ってからずっと地下活動の続いているDIR EN GREYの薫(g)による対談が、急遽、実現することになった。薫はちょうどこの前日、東京・新木場STUDIO COASTで開催された<BRITISH ANTHEMS>でクイーンアドリーナの“ライヴ初体験”を済ませたばかり。話は当然そこから始まったのだが、その数十秒後、薫自身をはじめとするその場に居合わせた全員が、ケイティの独特の雰囲気とあまりに哲学的過ぎる発言に唖然とさせられることになった。

――まずは薫さん、昨日のライヴの感想から聞かせてください。

薫:まず何より、クイーンアドリーナのライヴをここ日本で観られる日が来るとは考えていなかったんで、そのこと自体が衝撃でしたね。楽しませてもらいました。

ケイティ:私自身、まるで銃で撃たれたような感覚だったわ。ショウのときはいつも、自分自身の影を追い駆けるような気持ちになるものだけど、昨日は結局、最後までそれをつかまえられなかった気がする。波に乗り切れないまま、そこに手が届かなかったというか。

薫:……。

――イベントということもあって、短時間のステージでしたからね。

薫:うん。それに加えて……なんか妙な言い方になるけど“音響が良すぎる”ところに少し違和感をおぼえましたね。自分たちでも過去にあの会場では何度もライヴをやってきてるんですけど、昨日はなんだか、自分が想定していたクイーンアドリーナの音に比べて、必要以上に迫力があったというか。

ケイティ:音が良すぎる。つまりクリーンすぎると言うことでもあるわけよね? そうなんじゃないかな、とは私も感じてた(笑)。でも仕方ないわ。今回は自分たちのエンジニアやクルーも連れて来ていないし、昨日はまさに、すべてが神の手に委ねられているという感じだったから。

薫:むしろ俺は、最新の機材が揃っていないような会場で観てみたかったですね。たとえばヨーロッパとかには、古い教会を改装したみたいなライヴ会場とかが結構あるじゃないですか。そんな雰囲気のある場所で観てみたいな、と。

ケイティ:私も小さなところが好き。まわりの壁がちゃんと自分の目で見えるような場所だと安心できるというのもあるし、会場全体を確実に自分の発するもので埋め尽くすことができるっていう自覚を持てるような場所でできるのが、自分にとっての理想でもある。あまりに大きな会場だと、呼吸すらしにくくなってしまうというか。小さくて、みんなの心臓の鼓動まで聴こえてくるような場所が私は好き。

――DIR EN GREYは、近年では欧米でも積極的な活動を展開しているんですが、日本のバンドについては何かご存知ですか?

ケイティ:いいえ。まったくの無知と言っていいと思う。というか私自身、普段からあまり人と接触するような生活をしていないのね。一人で山にこもって、自分の心のなかの声を聴くような生活をしてる。だから正直、あんまりいろんな音楽を聴く機会もないの。だけど、さきほどあなたのバンドのCDやDVDもいただいたし、これからは少しは聴いてみるべきなんだろうなと思っていたところ(笑)。

薫:俺自身もクイーンアドリーナの作品はすごく好きでずっと聴いてきましたけど、日本にはあなた方に影響を受けた人たちがたくさんいると思うんですよ。あなた方の音楽をルーツとするようなバンドもいれば、インスピレーションをもらっているバンドも。

ケイティ:そんなふうに言われると……私としては、むしろショックだわ。本来ならそういうことを言われたら「嬉しいわ」とか答えるべきなんでしょうけど、私はむしろ怖くなってしまう。そういう状況に慣れていないから(笑)、本当になんて言っていいのかわからなくなってしまうの。

薫:ケイティ自身は過去、どんな人たちに憧れて、どんな人たちからインスピレーションを受けて音楽を始めようとしたんです?

ケイティ:私は子供の頃、船上生活者だったのね。だから友達もいなくて、いつも一人で過ごしてた。そんななかで、歌というのは私にとっての親友であり、自分の心の拠り所だったの。自分で自分のために子守り歌を歌う……。ずっと、そんな感じだったと思う。その頃は、世界がとても広いもので、無限と言ってもいいほどに広がっているものなんだってことを知らずにいた。でも、そんな頃から、歌というのが私にとってものすごく大切なものだったことは確かよ。当然、私自身も誰かの影響を受けてきているはずだとは思う。でも、“この人”って自覚的に言えるような対象が誰なのかは、今もまだわからないわ。


ケイティの発する雰囲気と言葉の異様さに呆気にとられつつも、徐々に円滑さを増してきた両者のトーク・セッション。いよいよ話題は音楽的な核心へと迫ってきた。そして結果的には、先頃発売されたばかりのクイーンアドリーナの新作、『ライド・ア・コック・ホース』に関する秘話はもちろん、“次”の話まで飛び出してきた。

薫:ところで、普段はどんなふうに曲作りしているんです? 特にクリスピン(・グレイ/g)とのコラボレートがどんなふうに進んでいるのかが気になりますね。

ケイティ:私が1人で曲を作るときというのは……ちょっと変わってるんだけど、自然に何かが聴こえてくるの。たとえばTVのホワイト・ノイズ(何も映っていないときのガーッという雑音)を聴いていると、単なる雑音ではあるはずなのに、そこに何か一定のパターンみたいなものが聴こえてくる。それをとらえてカタチにするのが私の曲作り。クリスピンと一緒にやるときも、そういった意味では同じ。でも、やっぱりずっと一緒にやってきてるせいか、どんどん時間がかからなくなってきてる。やり方もとてもシンプルで、すべてが鉄道のレールを敷いていくように進んでいく。そこでの私の役割は、自分の居るべき場所、自分をどこに置くべきかを考えること。それがときには難しくもあるんだけれど、作業自体はすごく楽しめてる。あなたたちの場合はどう?

薫:アタマのなかに浮かんできた漠然としたものをそのまま演奏するときもあれば、特定のイメージに向かってカタチにしていくこともある。それはそのときどきで違うんで、すごく説明しにくいところではあるんだけど。ただ、大概のバンドは全員で「さあ作ろう」という感じで作業に取り組むものなのかもしれないし、自分たちもそうすることはあるんだけども、そこで勢いにまかせて一気に曲ができてしまうということは、ほとんどないですね。むしろ個々で煮詰めたり、お互いのアイディアのやりとりをしていく過程というのが自分たちには重要で。

ケイティ:すごくわかる。そういった方法論が有効に機能しているからこそ、あなたのバンドはうまくいってるんじゃない? ミュージシャンにとってはエゴも大事だけれど、ときには敢えて自分を脇に追いやることも必要。私は、常に音楽そのものが自分に何をすべきかを教えてくれるものだと思ってるの。そこで、もしもその音楽にとって自分が邪魔だと感じたならば、私は一歩下がればいい。そういうことを考えながら作ってるわ。

――なるほど。ところで最新作の『ライド・ア・コック・ホース』は、クイーンアドリーナの曲作りの秘密を解き明かしてくれるような作品でもありますよね?

ケイティ:ええ、そういう言い方もできると思う。

薫:この音源は、基本的にはデモなんですよね? 自分たちには、デモ音源をCDとして出すということをしたことがないんで、それ自体が驚きでもあるんですけど。

ケイティ:実はここに収められてる楽曲たちというのは、1stアルバムの『タクシダーミー』をレコーディングしてた当時からあったもの。そもそも4トラックで録られたものだから、本当にデモとしか言いようがないわね(笑)。当時は「これは使えない」ということでお蔵入りになっていたのね。ところが最近になって、そのテープをたまたまクリスピンが見つけて、改めて聴いてみたら、案外アルバムとして成立するようなまとまりのあるものに感じられて……。どうして当時、駄目だと思ったのかが自分でもわからないわ(笑)。でも実際、今は素晴らしいと思えたから、それから9年を経て、こうして出すことにしたというわけ。DIR EN GREYの曲作りとは真逆なくらいシンプルなプロセスで作られたものだから、ミスも多いしヴォーカルも悲惨よ(笑)。ただ、もちろん録り直すことも可能ではあったけど……。

薫:録り直していたら、出したいと思えるようなものにはならなかったんじゃないか。そんな気がしますね。

ケイティ:私もそう思うわ(笑)。やっぱりそこには、当時、初めてあの曲に対峙した瞬間ならではの衝動とかエネルギーのようなものが封じ込められているから。

――DIR EN GREYにも、実はお蔵入り音源がたくさんあったりするんですか?

薫:いや、そんなにはないですね。曲として成立した状態のものが何曲も残ってるということはない。むしろ自分たちの場合、“これは駄目だ”と思うと、途中で断念して破棄してしまうんで(笑)。でも、今みたいな話を聞くと、クイーンアドリーナの次のアルバムが楽しみですね。1人のファンとして楽しみにしてますよ。

――これまでの三作のオリジナル・アルバムについて、過去には“三部作”という定義付けもされていました。それが完結した後の新作ということになるわけですからね。

ケイティ:三部作と言ったことに、実はそんな深い意味はなくて。正直に言うとね、バンド自体がもうあの時点で終わると思ってたの。だから単純に、自分たちの歴史の始まりと、中盤と、終わり。そんなふうに勝手に解釈してた(笑)。でも実際にはこうして続いていて、新たな道を歩もうとしてる。実際、次のアルバムのための曲作りも進んでるの。私自身の今の気持ちとしては、次のアルバムこそがクイーンアドリーナの正式な1枚目という感じかな。

薫:素晴らしいですね。これだけ長くやってきて、今、そういう気持ちでアルバムが作れるというのは。

ケイティ:アーティストってそういうものだと思う。あなたも実は同じように感じてるんじゃないかしら? やっぱり大切なのは今。今までのことはあくまでも歴史。その歴史のほうにとらわれていたら、同じことばかり繰り返してしまうことになる。私の場合は、クリスピンとの化学反応みたいなものがやっとここで確立された気がしていて、これでもっと前に進めるんだという気持ちがようやく強まってきた。今まではそういう確信がなかったけど、それがあるからこそ、今はこれが新しい始まりなんだって思えるの。

薫:DIR EN GREYの場合も10年やってきて、いろいろありましたよ。メンバー間の状態があまり良くない時期もあった。ものを作ることに前向きになっていることもあれば、何も作りたくないのに作らなければならないこともあった。でも、早く作りたいと思えてるときは、いいものができるものなんですよね。

――薫さん自身も、今は新作を“早く作りたい”んですよね?

薫:もちろん。

――さて、残念ながらそろそろ時間なんですが……いつか、どこかの国でステージを共にする機会があったらいいですよね。そこが日本なのか、イギリスなのかはともかく。

薫:いいですね。

ケイティ:素敵だわ。是非!

取材・文/増田勇一

MySpaceの対談企画ページ「Artist on Artist」では対談の模様をダイジェスト映像で同じく4月4日より公開。映像メディアに露出することの少ない彼らの貴重な対談映像が見られる。
http://www.myspace.com/artistonartistjp

●DIR EN GREY OFFICIAL SITE
http://www.direngrey.co.jp
●OFFICIAL MySpace
http://www.myspace.com/direngrey
●インペリアルレコード
http://www.imperialrecords.jp/intl/
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