長澤知之、あまりにもひっかかるその歌声にアナタはどう反応する!?~『PAPER STAR』特集~
長澤知之、あまりにもひっかかるその歌声にアナタはどう反応する!? | |
シンガー・ソングライター、長澤知之が ミニアルバム『PAPER STAR』をリリースした。 デビュー曲「僕らの輝き」もそうだったけれど、 それにも増して彼の歌声のクセ (もっと言えば“アク”!?)の強さに 磨きがかかっている。 とにかく彼の存在を知ってほしい。 そして一度聴いてほしい、彼の歌声を…!! | |
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長澤知之は、ガラスの天才である。 多くのリスナーはまず、鶴の鳴き声をガラスの中に突っ込んで反響させたようなヴォーカルに圧倒されることだろう。今もこれからも未来永劫ずっと、長澤には独特の声色に対する反響が付いてまわるだろう。それだけ異化作用に長けたオリジナルなハイトーン・ヴォイスで、彼は歌う。 内省の限りをつくした世界を歌う楽曲は、「精神的アンプラグド」と乱暴に位置づけたいほど生身の痛みを響かせる。だからなのか、ここまでの長澤の活動はアコースティックな弾き語りのライヴが多かった。生々しさと痛々しさに音色という光が投射され、心の襞に暖気が宿るような音楽――。 福岡で生活をし、夜の街中を目的も持たずにぶらぶら彷徨いながら、目の前の酩酊世界の果てを見据えて楽曲を生み出す、オルタナティヴ吟遊詩人。夜の宇宙と脳みそが交信し、「ハロー」と「サヨナラ」を繰り返す一人ぼっちの歌が生まれる。 よって長澤知之は独自の高音域を持った、アンプラグド指向のナイト・ウォーカーとして、ここまで生きてきた。ギターと声だけで目の前の世界にNOを解き放つ勇気を、そしてNOの果てから顔を覗かせる決死のYESをイメージさせる表現性を、長澤は抱えてここまで歌ってきた。 しかし、そんなことはどうでもいいし、22歳の長澤知之は歴史を必要としない。 何故ならば、彼は「天才」だからである。 天才とは、ジャンルや癖を凌駕した地点で表現する絶対的なるアーティストのことを指す。長澤はガラスのように危なっかしいし、一人じゃ何もできない壮絶にバランスを欠いたアーティストだが、何しろ彼は「一人称の音楽を歌う天才」なのである。天才だから、アンプラグドでもディストーションまみれのフィードバック・ギターでも何でもいいし、ソロでもバンドでもいいだろうし、白も黒も朝も夜もどうでもいい。孤独な歌詞と、広い荒野に響き渡る希望のメロディー。マイナーコードと、愛を求め狂う歓喜の叫び。彼の音楽は、宇宙に佇む多くのものを内包している。リアルな音楽の持つ可能性を、描写している。 ミニアルバム『PAPER STAR』は、基本的にバンドサウンドに根ざして作られたものである。長澤の極端な脳内世界を、バンドサウンドというカオスとグルーヴで掻き回した刺激の強い作品だ。過剰な孤独は、アナーキーな出逢いに震えながら夜を浮遊する。長澤の痛みがバンドサウンド的ブルースと出逢うことによって、より色濃くアナーキーな心象風景が響いてくる。 『PAPER STAR』の中に“RED”という曲がある。70年代ロックの幻想感と、グランジ・ロックの衝動と諦念が折り重なったような、長澤のリアルを最も色濃く描いた名曲だ。滝のように流れ落ちる不安と、蝋燭の灯火のように揺らぎながら光る希望の両方が、絶対零度の中で残響するギターと長澤の声によって闇の中を狂気じみた軌道で疾駆していく、ここまでの長澤の決定曲。ブルースも感じるが、個人的には90年代中期のグランジ・ロックのような、自己倒錯とメランコリアの狭間で揺れる狂気を激しく感じた。 “RED”は最高のロック・ソングだ。この一曲、そしてこのミニアルバムから、長澤知之のロックは、一人だけのものではなくなる。 多くの孤独と共振する物語として、解き放たれるのだ。 鹿野 淳(MUSICA) |
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