女性ジャズ・ヴォーカリスト特集 マーラ・ウォルドロン

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『オールウェイズ・ゼア』
COCB-53581 \2,625(tax in) 2006年11月22日発売

【収録曲】  ♪試聴できます
01. ウィスパーズ・イン・ザ・ウィンド ♪
02. ビコーズ・オブ・ユー ♪
03. オールウェイズ・ゼア ♪
04. トゥー・グッド・フォア・ワーズ
05. アイ・ドゥ・リメンバー・ユー
06. エリー ♪
07. プリーズ・セイ・ユー・ドゥ
08. ピープル・メーク・ザ・ワールド・ゴー・ラウンド ♪
09. キャント・ストップ・シンキング・アバウト・ユー
10. ライト・マイ・ファイア
11. ワイ(ウェン・アイ・セイ・グッバイ)
12. プラウド・ライオン
13. メイビー・イッツ・ノット・ソウ

 

しっとりとした中にもモダンなエッセンスを感じさせ、渋いだけでない躍動的な要素を併せ持つ彼女のヴォーカルは、オールドスタイルなジャズではなく、現代のR&Bのベクトルにより近いかもしれない。しかし「Too Good For Words」で聞かせるスキャットのスウィング感はジャズでなければならない要素の一つ。そのように、的確なテクニックと深いジャズへの愛情が感じられる曲が収められている。そして楽曲自体のクオリティの高さも特筆すべき点だ。メロディラインとハーモニーの豊かさは、現代のポップスを聴き慣れた耳には逆に刺激的。音楽の深さを感じさせてくれるのだ。


 

マーラはこれまでに日本で2枚のアルバムを発表している。父との共演盤『HE’S MY FATHER』と、ソロ・デビュー作『LULLABYE』だ。どちらも父がジャズ・ピアニストゆえのジャズ・ヴォーカル・アルバムという内容だったが、ニューアルバム『ALWAYS THERE』はR&Bフレイヴァーが漂う力作で、王道のジャズ・ヴォーカルものとは一味違った作品となった。これは、現在のマーラの自ら志向する音楽性が表出した初めてのアルバムだといえる。殆どが本人のオリジナル曲で、ヴォーカルはもちろんピアノやキーボードの類は全てマーラ。バックを務めるのは2002年から活動を共にしているマーラのレギュラー・ユニットで、ジャコ・パストリアスやウイントン・マルサリス等と共演歴を持つツワモノぞろいだ。アーティスト「マーラ・ウォルドロン」にとって本作はある意味イメチェンであり、彼女自身の新しいキャリアの出発点であるといっても過言ではない。今後の更なる活動を期待しつつ本作を送り出したい。 TEXT by 馬場雅之(タワーレコード)


  

●まずはスタンダードナンバーから
ジャズには堅苦しいイメージを持っている人も多いけれど、そんなに難しいものばかりではない。とくに、スタンダードといわれるナンバーなら、誰もが必ず耳にしたことがあるはず。ポップでなじみやすいメロディの名曲がそろっているから、ジャズの入門としても最適だ。スタンダードは、数多くのアーティストが時代を問わず取り上げているナンバーだから、同じ曲でも色々なバージョンがある。たとえば『枯葉』の邦題でおなじみの『Autumn Leaves』はナット・キング・コールやサラ・ヴォーンのヴォーカルも有名だし、その他インストも含め数え切れないほどの作品がある。メロディも歌詞もロマンティックな『Stardust』も、ビング・クロスビーからコニー・フランシス、エラ・フィッツジェラルドと大御所たちもこぞって取り上げた名曲。またバート・ハワード作の『Fly Me to the Moon』は1954年にワルツ曲として世に送り出されたナンバーだが、60年代にボサノバのリズムを取り入れて大ヒットした。演る人によって解釈が違えば味わいも違い、時代ごとにアレンジも違う。名曲の色々なバージョンを聴き比べてみるのもおすすめだ。

●伝説のピアニスト、マル・ウォルドロン
50年代半ばにチャールズ・ミンガスのバンドで活躍したマル・ウォルドロン。ビリー・ホリデイの伴奏者だったことでも有名なピアニストだ。彼がビリー・ホリデイのバックを務めたのは、57年から59年。40~50年代に人気、キャリアともに頂点に立っていたビリーの生涯最後の3年間をともに過ごしたことで、ビリーからは多大な影響を受けていたようだ。大物プレイヤーの伴奏者としての活動が主で、シンプルで控えめ、それほど主張が強くないと思われるマル・ウォルドロンのピアノだが、そのプレイは常に情感にあふれていて、聴く人の心をつかんで離さない不思議な魅力がある。そんなマル・ウォルドロンの代表作『レフト・アローン』は、ビリーの没後に捧げられたトリビュートアルバム。タイトル曲では、まるでビリーが乗り移ったかのように感情的で枯れた味わいのジャッキー・マクリーンのサックスを絶妙にサポートし、自らも哀愁のピアノソロを披露。この上なく悲しくせつなく、胸に訴えかける名演になっていて、ビリーへの強い想いが感じられる。彼は惜しくも2002年に亡くなったが、現在は彼の遺志を継いだ愛娘のマーラが、ヴォーカリスト、ピアニストとして活動中だ。

 
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