寺岡呼人、特集第三弾 新アルバム『LIVES』ロング・インタヴュー 前編

ポスト

インタヴュー前編
インタヴュー後編
著名アーティストからのコメント
プレゼント
寺岡呼人 特集TOP
   
 


──『LIVES』は自分の人生やルーツがはっきり出た作品になりましたね。

寺岡呼人(以下、寺岡):そうですね。意識はしてなかったんですけど。今回は曲作りに変化があって、最初に曲のテーマみたいなものが浮かんだら、それを基に曲を作っていったんです。だからどの曲も歌いたい1フレーズが必ずある。最初、5月か6月にスタッフに8曲ぐらい聴かせて、その全部に歌詞が書いてあった。そしたら“歌詞があるってすごくいいですね”と言われて、そう言えば昔の僕は歌詞が最後の最後までできなかったなって。そういう意味では作り方が健全になってきたのかも。

──たとえば1曲目の「スーパースター」などは?

 

寺岡:30代後半になって、まわりの同世代の友達が課長とか部長になったりして。昔は同じようなギター小僧だったのに。まぁ、20代でもそうだったんですけど、30代になるともっと明確にお互いの道が別れてくる。それで僕はどこかで“自分はやりたいことをやれてる人間”という意識があった。それが最近になって“あっ、そうじゃないな”って。みんな、達成感のある仕事をやってたりして、昔の夢は形を変えて生き甲斐となってる。

──自分と同じじゃないかと。

寺岡:うん。僕だって昔は野球選手になりたかったですから。あと刑事コロンボにも(笑)。そう気づいた時に、まわりの人のことがポン! と歌になったんです。今回、Jen(MR.CHILDRENの鈴木英哉)がドラムを6曲叩いてくれたんですけど、この曲と最後の曲をすごい誉めてくれたんですよ。

──Jenさんはどうして?

寺岡:ミドリカワ書房君をプロデュースした時にドラムを叩いてくれて、その時の感触がすごく良かったんです。それで欲が出て6曲まで増えちゃって(笑)。本当にバンドっぽいグルーヴを入れてくれて、それはとてもデカかったですね。

──そうですね。「大人」はどうでしょう。

寺岡:「大人」は最後の最後に出来た曲。レコーディングをしてる時に友達と食事をして。その時にふと“俺達、大人に見られてるのかな”“でも全然変わってないな”“昔、自分が思ってた大人のイメージってどうだっけ?”とか。自分達の親もね、すべてを知ってるように見えたけど、きっと切磋琢磨してたんだろうなぁって。いろんなことがバッと浮かんですぐにできた曲なんですよ。

──“友よ。俺たちもうすぐ40歳だってよ”という言葉が印象的です。

寺岡:これはゆずの「もうすぐ30才」という曲にインスパイアされたんです、が! もうひとつは忌野清志郎さんの活動30周年ライヴでCHABOさんが“清志郎! 俺達もうすぐ50歳だってよー!!”とシャウトして曲を始めたんです。その言葉に“ちくしょう。時間だけ経ちやがって”という感じを受けて、かっこいいな!と。だから、そのまんまですよ(笑)。

──あぁー。その感覚はいろんな人にも通じますね。時間だけが過ぎていくという。

寺岡:ゆずの歌もチャボさんの言葉もいろんな世代に引っ掛かるように、「大人」も“40歳”と歌いつつも、世代を限定できないような感じにしたかったんです。あんまり渋くしないというのは、全体のテーマでもありましたね。


──渋くないという意味では、遊び心のある「アイデア」「BOYS&GIRLS」も。

寺岡:ある人のパーティの入場曲がウィーザーで、“いいなぁ”と思って「アイデア」ができたんです。興味を持ったものをパッと取り込んですぐに出せる。それってまだ自分がクリエイティブであるかのリトマス試験紙みたいな気がする。だからできた時は嬉しかったですねぇ。「BOYS&GIRLS」のほうは何かゴダイゴでロックしてみたくて(笑)。こういう曲だと軽めの歌詞になりがちなので、逆にちょっと毒を入れてみました。

 

──「アイランド」「born to loose ~生まれながらの負け犬~」「カメレオン」は負け犬ロックというか。

寺岡:はははは。

──しかもローリング・ストーンズとか、すぐルーツがわかる曲に。

寺岡:“徒然道草”という弾き語りツアーをやって。前作の『Butterfly』は弾き語りと今までのものがミックスされていたと思うんです。でも今回はバンドでライヴをやってる姿が見えるアルバムにしたかった。だからこのへんの曲がまずバババッと出てきて。普通だったら避けるような、ベタなローリング・ストーンズやルー・リードっぽいものも、歌いたいテーマがちゃんとあれば気にならない、逆に新鮮かなって。たとえば「born to loose ~」だったら、ジョニー・サンダースとかパンクっぽい音にするよりも、ルー・リードにするほうが面白い。まずテーマがあったからこそ、そうやって遊べたんですよ。

──「アイランド」は?

寺岡:僕的には一番好きな曲。一筆書きっぽい感じというか、リフからすっとできていった曲で、それってアーティスト的にも嬉しいもんなんですよ。で、「born to loose ~生まれながらの負け犬」と「カメレオン」は動物シリーズと呼んでいて(笑)。

──(笑)。「カメレオン」はTHE GROOVERSの藤井一彦さんとの共同編曲ですね。

寺岡:ギター命の曲なんで(笑)。彼に命を吹き込まれましたね。カウベルは彼のアイデア。僕は反対派だったんです(笑)。でも一彦が“いや! ここはこれぐらい行っといたほうがいい!”って(笑)。

──ここまでやるのもいいですよね。「君に出逢えてよかった~many rivers to cross~」は久々のソウル。すごく好きな曲です。

寺岡:最初は“いいか。今回はロック・アルバムで”と思ってたんですけど(笑)。一方ではメロディアスなものも目指していたので、最後に「君に出逢えてよかった~」「大人」を作りました。これも一筆書きっぽかった。だから曲ができた後で“小さな川が山の上で生まれ やがて大きな川になるように”とか、俺、いいこと言うなぁって(笑)。

──ひとりの人間だけじゃない。脈々と遺伝子が受け継がれてくるという。

寺岡:みんながどこかで考えたことがあるような単純なこと。でも歌にしていないこと。聞けば“そう言えばそうだな”と思うこと。そういう歌詞が理屈を考えずにスッとできた時は本当に嬉しい。普通の日本の歌に“君のおばあさんの/そのまたおばあさんは”という歌詞はなかなか乗らないと思うんですよ。そういう意味でもこの曲は、自分の中では完成度が高いんじゃないかなって。

寺岡呼人 インタヴュー 後半へ続く…


この記事をポスト

この記事の関連情報