1:OCEAN
ヴォーカルの“そっと渡す”ニュアンス、“心情を故意に荒げない”というギター・ソロが印象的なB'zの正調バラッド。ピアノ、アコースティック・ギター、ストリングスが束になるように連なるイントロは、8小節後にピアノ1本になり、ヴォーカルが出るのを待つ。構成は、実にオーソドックスであるが、その几帳面すぎる普通さの中に、重要な事柄があるという“目立たない大切なこと”を歌った曲であり、普遍性ゆえに時代が共鳴した楽曲だ。 |
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2:今夜月の見える丘に
澄んだ夜の空気と気持ちを同化させようとするB'zの切ない系シングル。ギター・ソロが出てくる前にワンポーズあるのは、ある種のためらいなのかと思ってしまうが、単なる偶然なのか? 稲葉浩志は、そのワンポーズを「USAのサザンロック的だ」と解したが、TAK松本はどうしてそれが出てきたのか、思い出せないらしい。楽曲に無我になって集中していた証だろう。 |
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3:愛のバクダン
TAKの、フレットにほとんど指を当てない、いわゆる“空(から)のカッティング”が印象的な、バンド・ビギナーの息吹を再現したフレッシュな楽曲。リリースの前年である'04年、TAKも稲葉もソロ活動をきっちりとやったゆえ、再会の小さな初々しさが反映されたのでもある。 |
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4:ultra soul
音響系のスペイシーなトラックにTAKのゴチック・ギターを加えた新しい風味のB'z楽曲。神経パルスの過剰放電(=緊張)をやわらげ、運動連鎖を確かなものにする高度なアスリート曲だと思う。“ほんとうだらけ あれもこれも”というリリック一節は、価値観が多様化した現代にあっては、まさに真実であり、ほんとうだらけの中で、聴き手は自分の本当を創るべきというメッセージを持つ楽曲。 |
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5:HOME
ルーミーなエコーを伴って鳴るアコーディオンの音と、稲葉のヴォーカル“さあ見つけるんだ”と行動を促すメッセージ、そこに一遍の優しさが加わると「HOME」のようなものができる。イントロの、そのアコーディオンの部分は稲葉の言葉を借りれば“パリの地下鉄”をイメージしたものらしい。LIVE-GYMでは、「僕達のホーム!」と大合唱するオーディエンスの声が、いまだ僕の耳の奥で鳴っている。 |
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6:いつかのメリークリスマス~「恋するハニカミ!」バージョン~
今作中、唯一の新録音ナンバー。オリジナル音源('92年12月リリースのミニアルバム『FRIENDS』に収録)のイントロにあったエンジェル・ヴォイス(オルゴール音)はなく、替わりにベルの音とアコースティック・ギターがヴォーカルを下支えする。ヴォーカル・パートはエコー成分が少なく、多重コーラスが歌の背景を作っている。ドラムスも入ってはいない。つまり、より静粛で温かいバージョンになったのである。 |
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7:熱き鼓動の果て
稲葉がいきなり歌い出し、アコースティック・ギターのストロークが続く、珍しい展開の楽曲。ドラムスのフィルで突入する本編に、何となく懐かしさが漂っているのが興味深い。TAKによれば、そのフィルに続くパートは、日本のGS(グループ・サウンズ)的な感触を出したかったらしい。 |
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8:野性のENERGY
打ちのめされることが普通になって、限りない日常が続いている日々。そこに、一発逆転の未来が訪れることを、キャリアを積んだ分獲得した優しさで表現した楽曲。セカンド・ライン(ニューオーリンズ発祥のリズム・パターン)をさり気なく導入し、野太さと野性を合体させているようでもある。稲葉によれば、リリックのヒントになったのはシェーン・ガラース(Ds)との会話だったという。 |
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9:IT'S SHOWTIME!!
軽いナチュラルトーン?アルペジオのエレクトリック・ギターがすぐ次に出てくる線の太いギターを導き、プログラミングされたリズム・トラックが鳴る。そのクールなパートとサビのバッキングで鳴る8連符のハードエッジ・ギターの対比が、とてもB'zらしい。いい意味で緊張する現場をたくさん自分に与えてあげましょう!というのがテーマになっていると思われる楽曲。平熱の自分の殻を破るために、特別な場所に出ていきましょう! と。 |
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10:juice
粘るエンディングのようなイントロが、砂煙の中で力をチャージする重戦車のイメージを喚起させる。柔術の国、ニッポンから生まれた圧巻の“アクション・ロック”楽曲だと思う。スーパー・スネアショットを含むブライアン・ティッシーのドラミングは比類なきもので、TAKをして「単純な8分のバッキング・ギターが、あれほど気持ちよく綺麗にハマるのは滅多にない」と言わしめた。 |
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11:May
イントロから登場するピアノが、サビ前でギター・カッティングと絡むところがなかなかにセクシー。言葉を詰め込まない稲葉のヴォーカルも、自分にとっての“切なさ表現”を探しているよう。稲葉にとっては、こうしたミディアムでハネる楽曲において“歌詞を置いていくように”歌うことは難しかったと、当時の取材で語っている。 |
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12:ギリギリchop
最速のシャッフルとも言える楽曲。ギリギリの状態で覚醒する“さらに上に行ける”感覚をB'zは欲しがっていたのかもしれない。あらかじめ設定する限界値などないことを知らせる曲だ。この曲のギター・プレイのため、ロサンジェルスのホテルにて朝8時から爆音で練習をしていたTAK松本。稲葉はその音を聴いて鳥肌が立ったという。 |
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13:RING
オリエンタルなメロディ・ラインを持ち、ワビサビ系を凌駕する“灼ける熱”を封入した楽曲。稲葉の溜まり気味のヴォーカルとTAKの和的な装飾ギターが、ゆっくりと融合していく。半音で進行していくメロディ展開もTAKにしては珍しいもので、歌う方の稲葉も「May」に匹敵するほど難しかったらしい。歌詞のテーマは“儚い距離感”であり、それは歌詞にある“鈴の音”に象徴されている。 |
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14:BANZAI
2回目のサビの途中で演奏が終わるようにスロウになると、ワルツ的なTAKのギター・ソロが登場。ギターが何十本も鳴っているように聴こえるこのパートは、どこかの国の入城のテーマ曲か国歌のような荘厳さだ。B'zの至上のスキルは、言ってみれば、マシーン・ライクな感触をいったんは聴き手に与えながら、実は競走馬やチータが身体のどこにも負荷をかけずに疾走するような雄々しい生命感触と底知れぬメカニズムを提示するのだ。 |
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15:ARIGATO
いきなりのピッキング・ハーモニクス、そしてアナログ的シンセとユニゾンするエレクトリック・ギター、アコースティック・ギターのバッキングが絡まり、ハネたエイトのミディアム(テンポ)・ナンバー。B'zにおける狂おしくブルージーな楽曲の典型だと言えるだろう。リリックを練りながら歌った稲葉の痕跡を聴き取っていただきたい。 |
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16:GOLD
クレッシェンドするオーケストラに包まれ、感情と筋肉をアイシングするようなバラッド。かけがえのない一日を噛みしめ、明くる日のためにその日を癒すナンバーでもある。稲葉は、歌詞内一人称を“私”として、男性にも女性にもとれるように設定し、シンプルな定理が性別を飛び越えていくことをメッセージしているフシもある。 |