<SUMMER SONIC 2005>ナイン・インチ・ネイルズ、スピリチュアルで最高の歌声

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トレント・レズナーは、こんな顔をして笑う人だったのか……デビュー作『プリティ・ヘイト・マシーン』のリリースから16年、そして待望の初来日からも5年半になる。長きに渡って内なる闇に閉じこもり、いつしか自分の周囲に壁を築くかのように怒りと音を重ね続けたトレント。しかし最新作『ウィズ・ティース』でドラッグもアルコールもやめ、心身ともスッキリした状態が、これほどの笑顔をもたらすとは。ひたすら感慨深かった。

何しろ彼の笑顔は、観客と確かに繋がったという実感とともに、自然に表情に現れていた。"スターファッカーズ Inc"で、タメの時に会場を埋め尽くした観衆から自然発生的に沸いた、「Don't you」のコール。次に歌に入るタイミングを掴み損ねたトレントは、しかし満面の笑みで静かにそれを聴いたあと、「All right!」と叫んでリズムを建て直し、怒涛の曲後半へと突入していった。なんて、いい笑顔。『ウィズ・ティース』で響いていた、本来の自分の底にあるポップさを解禁し、音を緻密に重ねるのではなくゆるやかな隙を残し、そして全てがフッ切れたかのような歌詞の素のつぶやきが、あの笑顔とともにリアリティとして押し寄せてきた。

暗転したステージに「ピニヨン」が響き渡り、ステージに登場した4人がいきなり「ウィッシュ」に突入するという、この日のライヴ。髪を短く切ったトレントは、マッチョな肉体といい、まるで清原……。長髪時代が長かったためか、時折、両手で髪を払うしぐさも。ご愛嬌だ。

新しいバンド・メンバーたちは、力で押すだけではなく、目でも魅せてくれる演奏でサウンドにダイナミズムを宿している。しかも選曲も、デビュー作からミニ・アルバムまで全てを網羅した、ベスト曲ばかり。それらが今のトレントの「ムード」と共に鳴らされるわけだから、前回の来日公演のときよりもポジティヴな爆発力とともに響いてくる。

面白いことに、ただ轟音で観客を唖然とさせるのではなく、一緒にこの空間を生み出していこうというトレントの意思も、今回はあらゆる面から伝わってきた。たとえば、ステージの背中部分のデジタル風なライト。曲の内容や雰囲気とともに様々に幾何学風イメージや色が変わり、精神的なアクセスをより容易にさせる。また、キーボード1台でスタートした「ハート」も、誰も踏み込めない閉鎖的心象風景として歌われるのではなく、スピリチュアルな輪を投げかけるかのような歌声が、どこまでも優しい。この声、最高じゃないか。

かつて『プリティ・~』で描かれていた孤独と自己嫌悪に、膝を抱えつつ共鳴していた昔の自分を、トレントが今の音で鳴らす「サムシング・アイ・キャン・ネヴァー・ハヴ」や「シン」でふと懐かしく思い出す。ゆえに、彼が現地点での自問自答を素直に歌った「ライト・ウェア・イット・ビロングス」が聴けなかったのだけが心残り。あの曲を彼がどう演奏し歌うのか、次の来日が早くも待ちきれない。

取材・文●妹沢奈美
Photo●SUMMER SONIC / YUKI KUROYANAGI

NINE INCH NAILS
2005/8/13 MARINE STAGE

pinion
wish
sin
march of the pigs
the line begins to blur
something I can never have
the hand that feeds
terrible Lie
burn
closer
with teeth
the frail
the wretched
getting smaller
gave up
suck
hurt
you know what you are?
starfucker inc
head like hole

BARKS夏フェス特集2005
https://www.barks.jp/feature/?id=1000010016
SUMMER SONIC 2005特集
https://www.barks.jp/feature/?id=1000010617
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