さて、ここでアジカン「山田&伊地知」によるMCタイムが。「普段しゃべらない我々二人がなぜかここに立っているわけですが(笑)」という山田に続き、「プリーズ・ウェルカム、INDUSTRIAL SALT!」と、流暢なカタカナ英語で次に登場するINDUSTRIAL SALTを伊地知がご紹介。この女性デュオ、ロンドン出身ながらまず日本でデビューを果たすといいうちょっと変わった経歴の持ち主だが、そのデビューシングル「LOOP&LOOP」がアジカンのカヴァー曲というのも面白い。エレクトロを隠し味とした、ざっくりワイルドなロックサウンドで、音はけっこうハードなのにヴォーカルはキュートという、日本人好みのバランスがなかなかいい。これから要注目である。
さぁ、まだまだライヴは中盤戦。ここでステージに現れたのはDOGS DIE IN HOT CARSで、ニューウェイヴ感覚のダンスビート、ちょっとねじれたオルタナティヴなポップ感覚、確かな演奏力、にじみだすユーモアなど、様々な要素をカラフルにミクスチャーした不思議な存在感あふれるバンドである。とはいえ意外にオールディーズなフォーク&カントリー調の曲や王道ロック・バラードなどもあり、初めて観たのだがまるで飽きることがない。アルバム『PLEASE DESCRIBE YOURSELF』もとても面白いので、ぜひご一聴を。
そして後半へのスパートにばっちり火をつけたのは、今やアジカンの盟友的存在となったストレイテナーだ。3ピースという最小限の単位で最大限のラウド・ロックをぶちかます驚くべきパワーはこの日も絶好調で、ニュー・シングル「THE REMAINS」収録曲をはじめ、独特の映画的ストーリーを持つ歌詞の世界観を、キレまくるバンド・サウンドと泣けるメロディとでがっちりサポート。めちゃくちゃ熱いのにたたずまいは極めてクールというカッコよさは、日本のロック・バンドの中でも唯一無二だろう。ベースの日向はZAZEN BOYS、ドラムのナカヤマシンペイはTHE PREDATORSと、ストレイテナー以外でも活発に活動中で、間違いなくこれからのシーンの「台風の目」になるバンドと言っていい。
ここでアジカン後藤がMCとして登場。すべてのバンドに感謝を述べつつ、これから演奏するASHにエールを送る。後藤いわく「我々の世代のトップランナー」という言葉はお世辞でも何でもなく、1996年のファースト・アルバムのリリース以来、名実共にイギリスのトップ・バンドの位置をキープしているのがASHである。ビートルズ以来伝統のメロディの美しいロックサウンドを基本に、パンキッシュな疾走感と、永遠の少年的純潔性と、骨太な社会的メッセージをも含んだバンドのスケールの大きさは、年とともに色あせるどころかますます研ぎ澄まされてきているのが凄い。ヴォーカルのティムは相変わらずあどけなくカッコよく、ギターのシャーロットがばりばりリードを弾き倒す姿は実に男前。アジカンとの個人的交流から実現した今回のフェス参加で、代表曲「BURN BABY BURN」「KUNG FU」をはじめ、期待に応える堂々たるライヴを展開してくれた。
そして、もはや紹介のいらないASIAN KUNG-FU GENERATIONである。彼らがいなければ「NANO-MUGEN FES.」はなく、これほど多くの個性あふれるバンドが一気に見られる機会もなかったわけで、まずはオーガナイザーとしての尽力に大拍手。しかもトリという重責を担うわけで、正直、平均点以上であれば十分だと思っていたのだが、甘かった。2005年に入ってから怒涛のごとく続けてきたライヴ三昧の日々が確実に奏効し、見違えるほどタフでしなやかにになったロックバンドの姿がそこにあった。特にリズム隊の充実はめざましく、新曲「ブラックアウト」のやや変則ファンキーなリズムや、「君という花」のディスコビートなど、踊れるタイプの曲がぐっとコクを増した。もちろん「リライト」「遥か彼方」「羅針盤」など、疾走感あふれる代表曲の出来も素晴らしく、ほかにシングルでは「LOOP&LOOP」「サイレン」など、いかにもフェスらしい代表曲ばかりの大盤振る舞いだ。
「今日はここに集まってくれてありがとう。楽しいね音楽は。世界にはいろんなことがあるけど……でも、あなたの目から見た世界は変えられる。音楽で、見える世界を変えられたらいいと思います」
2日前に起きてしまったロンドンでの同時多発テロのこと、にも関わらず駆けつけてくれたイギリス勢のバンドたちにあらためて深い感謝を述べつつ、ゴッチが決意表明を静かに語り、観客も熱心に耳を傾けて聞く。
アンコールは「フラッシュバック」「未来の破片」の2曲で、7時間以上に及ぶフェスティバルは大成功のうちに終わったと言っていいだろう。フードエリアなどのアメニティもまずは合格点のレベルだったし、何よりも、どのバンドにも分け隔てなく声援と拍手を送った観客の温かさはとても印象に残った。世界を変えるのはミュージシャンだけではなく、リスナーの役割でもあるのである。アジカンの発したメッセージは、家路についた観衆の心にどれだけの刺激を与えることができただろうか? その親密なコミュニケーションこそが、来年も、その先も、「NANO-MUGEN FES.」が続いてゆく原動力になるはずだ。来年、また会いましょう。
取材・文●宮本英夫
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