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――これまで以上に歌声が自然、かつ巧妙に感じたんですが。
シャキーラ:ありがとう。確かにこれまで以上にヴォーカルには細心の注意を払ったから嬉しいわ。エンジニアの視点からこの曲にはこのマイクを使ったほうがいいとかって、そういうところまでこだわったの。
――あなたの声はすごく独特だし、多数のキャラクターを使い分けていますよね。
シャキーラ:えっ、本当? 私の声にいっぱいキャラクターがあるって……どうもありがとう。でも、それって私が分裂症ってことかしら(笑)。
――いえいえ(笑)。アルバム・タイトルの『フィハシオン・オラル vol.1』(“口の執着”の意)にはどういう気持ちがこもっていますか?
シャキーラ:そのタイトルは、人生における私の現在の状況、段階を示しているの。私だけに限らず、人間なら誰でも口による執着があるわけで、それがもっとも顕著なのが生まれた瞬間でしょ。もっとも原始的で、もっとも本能的で、もっとも動物的な時期。そういう口による執着がもっとも強い時期、段階に私は未だにいると思うの。言葉に執着し、コミュニケーションに執着し、マイクに執着し、キスに執着し、フルーツに執着している。つまり私は口を介して生きているってこと。
――それに関する曲は?
シャキーラ:いいえ、あくまで心情的なもので、特にそれをテーマにした曲はないわ。でもこのアルバム自体が口による表現だから、ピッタリじゃないかしら。
――今回は2枚のアルバムが前後してリリースされますが。
シャキーラ:そう、このアルバムは第1部で、2部のほうは11月にリリースされる。このアルバムはすべてスペイン語で歌われているけれど、あとから出る2枚目は全曲を英語で歌っているの。でも楽曲や内容はまったく違うものなの。
――どうして2枚も発表することに?
シャキーラ:気が付いたら60曲もできていて、そこから選ぶのが大変だったから(笑)。最初は2枚組として発表しようかな、とも考えてみたけれど、量が多すぎて消化不良を起こしてしまいそうだったから、それじゃまずスペイン語のアルバムから出してみようってことになったの。
――英語とスペイン語ではサウンド的に異なっていますか?
シャキーラ:2枚のアルバムは同時期に並行して作られたからどうかしら。でも曲自体が異なっているからね。それぞれの曲がそれぞれの物語を持っている。色んな状況下で私が感じた様々なフィーリングが捉えられている。各曲が独自に呼吸しているって感じかしら。アルバムにはテーマや一貫性というのは感じられないの。だってアルバムの制作にはすごく長い時間がかかるわけで、私の場合、今回は2年でしょ。その2年間には様々なことが起こり、私は色んなふうに考え、感じ、常に変化していると思うの。いま私が“これがいい”と思ったものでも、あとから“やっぱり良くない”と思うことって多いし……。私っていつも気まぐれ屋さんだから(笑)。
――どんなふうに?
シャキーラ:このアルバムの制作に着手した最初の段階では、私は“アコースティック・ギターは絶対入れない”って決めていたわ。私だけじゃなく他のミュージシャンにも、アコースティック・ギターには絶対手を触れないことを誓わせていた。その代わりにシンセをたっぷり導入して、シンセで核を作っていったの。でも、そのうち“もうシンセには我慢がならない!”ってなっちゃった(笑)。
――そういえば、シンセを導入した80年代ニュー・ウェーヴ・サウンドがたっぷり聴こえてきますよね。
シャキーラ:ええ、私って80年代ニュー・ウェーヴの大、大、大ファンだから。キュアーやデペッシュ・モードが大好きで、そういうインダストリアルやニュー・ウェーブ的なサウンドを採り入れてみたかったの。
――かと思えば、ボサノバを採り入れた50年代のシナトラ風トラックもありますね。
シャキーラ:あの曲では35人の大編成オーケストラに参加してもらったわ。私って管楽器の大ファンなの。そのうちいつか映画のサウンドトラック用にオーケストラ・ミュージックを作れたらと思っているくらいよ。
――フレンチポップに影響を受けた曲もありますね。
シャキーラ:以前からフランス語はステキな言葉だと思っていたけれど、最近は特にそう思うの。それにフランスからは多くの素晴らしい音楽が生まれてきたじゃない。私はセルジュ・ゲンスブールの大ファンだし、70年代のフレンチ・ニュー・ウェーヴが大好きなの。
――そしてレゲトン!
シャキーラ:ええ、でも私がやるからにはありきたりのレゲトンにはしたくなかった。「ラ・トルトゥーラ」という曲では、アコーディオンを入れて、アレハンドロ・サンスに参加してもらってデュエットという形にしたわ。それにリミックス・ヴァージョンではシャキーラ&レゲトンで、シャケトン・ミックスって呼んでいる……。いかにも私らしいでしょ(笑)。
取材・文●村上ひさし |
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