例えば、BangalterとDe Homem Christoは決して写真などで顔を公表しない。4年前にDaft Punkがデビューアルバム『Homework』をリリースした時も、彼らはマスクで顔を隠すか、もしくは自分たちの画像をデジタル処理によって歪ませている。そして、ニューアルバム『Discovery』のスリーヴ写真でもまた、ロボットのかぶりものを着けた姿しか披露していない。さらに『Discovery』をメディアに向けて送るかわりに、2人はなんとメディアのほうから自分たちのもとに来させたのである。あらかじめ日時を決めて。こう言うと、まるで支配狂のように聞こえるかもしれないが、Daft Punkの意図するところは決してそうではない。このフランス人デュオにとっては、すべては自由のためなのだ。
15年前、BangalterとDe Homem Christoは、Darlin’という名のインディーズのロックグループとして活動を始めた。その後、あるジャーナリストから“daft punk”(き○がいパンク)と呼ばれたことがきっかけで、彼らはこのプロジェクトに終止符を打つ。しかし、この表現が妙に気に入った2人は名前を変え、ほどなくして耳に残りやすいヴォーカルフックと、ノリのいいキャッチーなリズムから成る怒涛のダンスミュージックで、世界を制覇することになる。Daft Punkはヒットを生み出すための絶対に失敗しない方程式を確立したのだ――それも、面白いことにそのサウンドの中に計算っぽさを微塵も感じさせることなく。それ以来、Daft Punkの言動はすべて、自らの決定権と芸術的自由の獲得に向けてギアが入れられている。そしてこの才能――とクリエイティヴな決定権――は、Bangalterのサイドプロジェクト、Stardustでも発揮され、巨大なスマッシュヒット曲“Music Sounds Better With You”を生み出した。
「僕たちは金よりもはるかに強力な決定権を持っているんだ。僕たちを完全に思い通りにすることは誰にもできないよ」。2人の中でもより率直な話し方をするBangalterは言う。
「金がすべての社会に生きている限り、物事を支配する権利は手にできない。だから、僕たちは選んだのさ。自分で支配できるってことは自由でいられるってことなんだ。人は僕たちのことを支配狂だって言うけど、支配というのは他人を支配することじゃなく自分の運命を支配するってことだ。僕たちは何も他人を操ろうとしているわけじゃなくて、ただ自分たち自身がやってることをコントロールしてるだけさ。自分たちの活動をコントロールすることが自由でいるってことなんだ。アーティストが自分の仕事をコントロールすることが悪いって考えは、いい加減止めてほしいね。今のアーティストたちの多くは、コントロールする力も、自由も奪われた犠牲者でしかない。かわいそうな話だよ。いったん金に頼り始めると、どうしても自分の出費を埋めるために金が必要だってことになってしまうのさ」
Bangalterが所有するRouleレーベルとDe Homem ChristoのCrydamoureレーベルは、どちらもDaft Punk/Stardustの気前の良さに恩恵を受けているラッキーな会社である。BangalterとDe Homem Christoは、莫大な財産におぼれるよりも、自分たちのキャリアに何度も投資し、革新的な新作をクリエイトし続けるほうを望んでいるのだ。例えば彼らは『Discovery』の1枚1枚にプラスチックでできたDaft Clubカードを入れることで、CDというフォーマットの限界を押し広げた。これは、アルバム購入者がCDをコンピュータでローディングし、カードに書かれたDaft Club番号をインプットすると、自動的にDaft Punkのファンクラブに入会できるというものだ。ファンクラブの会員になると、『Discovery』のCDを聴くよりはるかに多くの特典――まだ制作中の新曲や未発表の作品、その他のボーナス――が用意されている。
「より多くの人が気軽にアクセスできる新しいチャンネルができるのは素晴らしいけど、本来ならとっくにそうなってなきゃいけないことさ」とBangalterは言う。
「これで僕たちの音楽を聴いてくれる人たちとの間につながりができるんだ。時間の制限はないし、できたばかりの音楽を聴いてもらうことも可能になる。今日できたはずの曲を、明日オンラインで聴けるようになるのさ。あとは、インターネットを通じて本当の自分を表現できるし、それにCD自体の価値を上げることもできる。CDを買うことがレコード業界へのチャリティになったりしたら良くないからね。これは本当に重要なことだよ。ある意味、もうすでにそうなってるからさ。僕たちのCDを買ってくれる人が、“アーティストの役に立ちたいからこのCDを買おう”って言ったりするわけだから。そんな風に考えなきゃいけないなんて、ある意味バカにしてるよ。けど、それが現実だ。残念なことにね」
ここから話はNapsterの問題に及ぶ。世間の風潮でNapsterが“下劣”(punk)だと評されているように、Daftiesも絶対に彼らの音楽を理論上、人々に“盗ませる”ような代物には猛反対のはずだが? いや、そうでもないらしい。
「僕たちに言わせりゃ、Napsterは実にイカしたシステムさ」。Bangalterはいたって肯定的だ。
「重要なのは、きちんと分別するってこと。Napsterはポジティヴなもんなんだよ。疑問を抱かせたり、議論の糸口になったりしてるわけだから。アーティストとかレコード業界にとっては電気ショックみたいなもんさ――それに刺激を受けて、もっと価値の高い、新しくてクールなものを開発するためのね。 Napsterが合法的なものなら僕たちも反対するけど、違法なんだったら別に反対じゃない。違法だとわかってNapsterを使っているとすれば、それはクールなことだ。大事なのは、違法なことができるということじゃなくて、違法なことをしていると自覚することなんだよ。アーティストも一般の人たちも、警察みたいになっちゃいけないと思う。