【インタビュー】fuzzy knot、2ndフルアルバムに魂の共鳴と以心伝心「大事なことは悲しみが教えてくれる」

■人生も終わるまではずっと途中
■死ぬまで生きるわけですよ
──その点でお互いに共鳴し合いながらも、明るく昇華していくライブのパワフルさもfuzzy knotの魅力かなと。8曲目の「Backseat Driver」の話に戻りますが、ギターがエモーショナルですし、どっしりしたヘヴィロックで、既にライブで盛り上がるのは実証済みです。
田澤:僕はこういう曲がすごく好きだし、こういう曲でギターを弾いているShinjiが好き。Shinjiって自分が“すごいギターを弾いてるんだぜ!”という面をあまりゴリゴリ出してこないじゃないですか。でも、この曲ではそれが出てきていて、僕の中でもキッズ心が揺れました。ギターソロもカッコいいし、この曲が出来てめちゃくちゃ大喜びしましたよ。
Shinji:アルバム制作の中で最後のほうに出来た曲で、もうわりと自由に遊んでいる感じですね。この手のリフ推しの楽曲となると、もっとメロディーがなくてヴォーカルは吐き捨てるぐらいの歌い方にしたほうが、より一層洋楽っぽくはなると思うんです。でも敢えてそこまではやらず、fuzzy knotらしさや自分らしさも入れながらつくりました。さっきも話しましたが、そもそもつくる前に一番意識していたのは田澤のロングトーンです。
──田澤さんとしても実際、歌いやすいんですか?
田澤:いいですね。歌ってみると一番艷っとしたトーンで歌える。これがもうちょっと高くても低くても、音色って変わっちゃうんです。だからちょうどいい。
Shinji:ヴォーカルがロングトーンであれば、その後ろでギターって動き放題なんですよ。メロディーが動いているのにギターも一緒に動き回るのが、僕はあまり好きではないので。そこはやはりアレンジとして、出るところと引くところを考えたいんです。田澤がさっき「ポピュラリティーを知り尽くしてる人間」みたいなことを言ってましたけど、僕はアルバムの中でこの曲が一番何も狙っていない。

──“好き勝手につくれ”と言われてつくる曲のランキング1位は「パステル」でした。
Shinji:はい。ポピュラリティーを意識したり、“いい曲だな、響くだろうな”とかそういうことは全く考えず、バンドのカッコ良さ、パワーを皆さんに伝えられる曲になったらいいな、という想いだけでつくった曲ランキングの1位が「Backseat Driver」です。
──Shinjiさんにはぜひ、高いお立ち台でギターソロを弾いてほしいです。歌詞は、野次馬が多い昨今の世の中に物を申すような、ちょっと外に向いたトーンですよね?
田澤:外向きです。“バックシートドライバー”って、要は後部座席から、運転している人に向かってあれこれ言う人のことで、そういう生き方はしたくないなって。同時に“自分はどうなの?”って常に自問自答していますが。
──自戒も込めているわけですね。
田澤:“「振り返ってみれば あれが最後のシーンだった」なんて終わり方するかもな”と歌っていますけど、“いつまでも振り返れると思うな”っていう気持ちがある。今回のアルバムはフェードアウトで終わる曲が多いのと重なるんですけど、最近の僕のテーマが“ずっと途中”なんですよ。人生も、終わるまではずっと途中。“どうせ一生ファイター”だし、死ぬまでは生きるんだから。辛いことがあって“消えてしまいたいな”と思っても、あるいはそんなことを思っていなくても、不慮の事故で亡くなってしまうこともあるし、パターンはいろいろあれど、言うて、やっぱり死ぬまで生きるわけですよ。

──まさしく。生きていることは、死への旅の途中ですね。
田澤:“だったら思いっ切りやろう”という本当にシンプルなメッセージです。でも、そのシンプルがシンプルに刺さらないぐらい、今の時代は気持ちが湾曲している気がするんですよ。昨今は特に。自分の気持ちもそれにつられているという自戒も込めて。もっとほんまは自分主体でいいはずなのに、情報が溢れているから右往左往しがち。全部手元に持っているスマホで済んじゃってる。目に飛び込んでくる言葉に反応してそこで完結しちゃう。手元に持っていたものを置いた時、“解決してないやん。自分の周りの世界が何か変わりましたか?”っていう。
──スマートフォンでゴシップやSNS投稿を見て、脊髄反射して終わりという。
田澤:出てきた言葉に対して、言葉でねじ伏せたからといって“何が変わった?”って。何も変わってないんですよ。しんどくても、変えていくのは自分の行動でしかない。届かないパンチを打っていても変わらない。自分はやれてるような気持ちになるかもしれないけど全然届いてないし、“まずは当たる距離に行こうぜ”という感じですね。
──10曲目「TAILWIND」の歌詞にある“「生まれ変わったら」じゃない 今、今。”とも繋がっていて、来世に先送りせず今行動しようという覚悟は、アルバム全体にある気がします。
田澤:さっきお話ししたように同じ時期に歌詞を書くから、やっぱり繋がりは出てくるんです。だけど、それが作品の統一感になるんじゃないかなと僕は思っています。多方面にわたる様々なジャンル感の曲調に、唯一、統一感を出すとしたら、歌詞のテーマなのかなって。1stアルバム『fuzzy knot』の頃は、それこそ曲に対して顔色を伺う部分はあったんですよ。でも、この『fuzzy knot II』に至るまでの時間が、その成分を変えたんです。まさに「TAILWIND」で歌っていることもそうですし、それが詰まっているのがこのアルバムですね。

──アルバムを締め括る11曲目の「シャ・ラ・ラ」は、コーラスで一体となるライブの情景が目に浮かびます。
Shinji:みんなで歌えるような楽曲ってfuzzy knotにはなかったのでほしいなと。実際にみんなに歌ってもらえるかどうかはやってみないと分からないですけどね。あとは、バラードっぽい曲もほしかったし、そんな中でもみんなで歌えるような曲をつくりたかったんです。
──時期的にはいつ頃出来た曲なんですか?
Shinji:これも制作期間の終わりのほうだったし、田澤もたぶん一番作詞に苦労した曲なんじゃないかな?
田澤:サビの頭が一生出てこないんじゃないかと思いました。もうスキャットしかないかな、みたいな苦肉の策ですね、正直言うと。意味がどうとかじゃないっていう。“シャララ”の後に“爛々”が漢字で入ってるのが俺っぽい。“こうしちゃえば♪シャララランランって歌えるやん”と思いましたし。
──歌詞カードを見てそういう工夫を知る楽しさもありますね。
田澤:俺はそこに遊び心をずっと持っていたいんです。“どうせスキャットでしょ”と思って歌詞カードを見ると“あ、意味込められてる”みたいな、その面白さがほしくて。でもやっぱり、この曲も哀愁ですかね。とにかく僕に哀愁がこういう言葉を書かせる。“悲しみに手を振ろう”みたいなワードも、すごく前向きな気がしてて。一貫して本当に大事なものは、悲しみが教えてくれる気がしています。本当はね、サビに今言ったみたいな“大事なことは 悲しみが教えてくれる”みたいな言葉を書けばいいんですけど、それだとちょっと強過ぎるんですよ。
──歌詞としては押し付けがましくなっちゃうんじゃないか?みたいな。
田澤:Shinjiが作ってくる楽曲やメロディーにハマらないし。だから、さりげなく各所に散りばめつつ、こういうインタビューの場で「実はこうたったんです」ってネタ明かしじゃないけど、しゃべれることがありがたい。もちろん、そこに気付いてもらわなくても本来いいんですけどね。俺、別のプロジェクトで作家の松井五郎さんに作詞していただいて、歌録りにいらっしゃったのでお話を聞いたんです。で、僕の歌詞も読んでくれて、「何かを伝えようとしてるんじゃダメだ」と言われて。
──へえ!
田澤:その時は分からなくて、“え、伝えないとダメなんじゃないの?”と思ったんですけど。今なら、その言葉の意味が分かるんですよ。“伝えたい”という気持ちは必要やけど、伝えようとし過ぎるといろんなものが死んでいく。そのことを自分の中に落とし込めるようになりたいと思ってて。それこそ、まだ途中なんですけど。
──傷付いて逃げる人のこともちゃんと受け止める優しさも感じる素敵な曲でした。いろいろな要素が散りばめられている作品なので、アルバムとして通して聴く楽しさもすごくあります。
田澤:音も含め、アルバムごと向き合ってくれるとめちゃくちゃ面白いと思います。