【インタビュー】じん、12年ぶりボーカロイド起用フルアルバム『BLUE BACK』に全11色の青「青春時代にとどめを」

2025.02.24 18:00

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■抜けるような爽やかな青だけが
■“青”ではないので

──続く「Summering」は“失った青さ”をテーマにしたロックナンバー。

じん:この曲を発表したとき、「『カゲロウプロジェクト』と決別するのか」と言われたんですけど、別にそういうわけではなくて。小さい頃に大事にしていたものって、大人になるにつれて徐々に断捨離されていくよな…と思ったのが一つのきっかけなんです。子供のときに遊んでいたオモチャだったり、夏祭りで買ったお面もそうですけど、成長していくと違和感が出てくる。それはしょうがないことかもしれないけど、あんなに憧れていたもの、すごく好きだったものを捨てるって怖いことだし、負い目に感じることもあるんですよ。捨てていったものたちは、また拾ってもらえるときを待っているのかもと思うこともあるし、その気持ちを曲にしたという感じですね。

──そのテーマは、“無邪気な青さ”を掲げた「ヘンシン」にも共通しているかも。

じん:あ、そうですね。「ヘンシン」は特撮ヒーローに思いを馳せたところがあって。ヒーローにバンバン倒されていく大勢の敵がいますけど、あの人たちって悪なのかな?っていう。あの人たちから見たらヒーローのほうが悪だろうし、その在り方がどこか自分と重なるところがあったんです。自分としては普通に生きてがんばってるし、悪意を持って何かをやったことはないんだけど、「ひどいやつ」って言われたこともあって。“もしかしたら自分は、特撮モノでボコボコにされる人たちかもしれない”って盛り上がる気持ちがあって(笑)、それを曲にしてみたいなと。

──そして重音テトをフィーチャーした「イライラしている!」は、ダンサブルかつアグレッシヴな楽曲。タイトル通り、怒りが漲ってる印象がありました。

じん:たぶんイライラしてたんでしょうね(笑)。“イライラしているからイライラした曲を作りたい”という感じもあったし、あとは重音テトさんが流行ってたんですよ。重音テトさんが歌ったアグレッシヴな曲がけっこうあって、“僕も使いたい!”って。

──すごく衝動的なモチベーションですね。

じん:そうだと思います。こう言うとちょっと語弊がありますけど、何も考えずに作ってみたかったんですよ。僕にとって音楽は、特別に神格化されているものではなくて。特別な存在ではないし、神聖視されるべきものでもなく、自分に正直に作ればいいと思っているんですよね。「イライラしている!」には“金玉の中から 人生脱線してんぜ”という歌詞があるんですけど(笑)、別にキレイな言葉じゃないといけないということもないので。

──アーティストとしてのイメージを気にしてたら、“金玉”は使わないですよね。

じん:奇を衒うつもりもなく、普通にペロッと書いたんですけどね。みんなそこから来てるんだからさ!っていう…なんの話ですかね、これ(笑)。

──(笑)。「しゃべくりカタブラ」もめちゃくちゃテンションが高いですね。人と人がしゃべり倒しているときの高揚感がそのまま曲になったというか。

じん:この曲は編曲をしてくれてる“しょけん”と一緒に作ったんです。ZOMOZというバンドのギタリストなんですけど、俺の家に来てもらって。「こんな編曲にしたいんだよね」という話をしながら作ったので、すごくライブ感がありますね。ギターのカッティングとモーグ製シンセサイザーの掛け合いがベースになっているんですけど、すごく生き生きしているし、楽しい曲になりました。そういう作り方でしか出てこないものがあるんだなって改めて感じましたね。

──続く「シーナ」はダウナーかつメロディアスな楽曲。「イライラしている!」「しゃべくりカタブラ」とはまったく雰囲気が違いますね。

じん:いろんな曲を作りたいので(笑)。「シーナ」は部屋の湿気感だったり、日常の生々しさみたいなものが宿るといいなと思っていました。大学3年とか4年とか、部屋でタバコを吸いながら、あまり上手くいってない恋人のことを考えたり…。そういう“何もできない瞬間”、途方もない青さもあるんじゃないかなと。先ほども言いましたけど、抜けるような爽やかな青だけが“青”ではないので。

──確かに。「Newton (BLUE BACK Ver.)」は、星街すいせんさんへの提供曲をバラードアレンジにした楽曲。この曲を収録した理由は?

じん:単純に“入れたかったから”という感覚的なものが大きいでしょうね。この曲はアルバムのなかでも、自分自身への視点が一番強く出ている気がして。これまでのことを否定したい、もしくは信じたいという思いもそうですけど、反発し合う自分の気持ちに頭がかき混ぜられているというか。そこで生まれるエネルギーを描きたいと思ったし、その領域は自分でも理解不能なんじゃないかなと。「Neo」が“未完成な青さ”だとしたら、「Newton」は“未解明の青さ”ですね。

──とても深いテーマだと思います。「ステラ(BLUE BACK Ver.)」は既に多くのリスナーや歌い手に共有されている楽曲。パワフルなロックサウンドは、じんさんの真骨頂なのかなと。

じん:このアルバムのなかで、時間軸的には最初に生まれた楽曲ですね。“青さ”を表現する方向に歩き始めた一歩目みたいな感じかな。「ステラ」がなかったら、こういうアルバムにはなってなかった気がします。

──アルバム『BLUE BACK』の起点になった楽曲なんですね。

じん:そうですね。作っていたときは全力で向き合っていただけなので、“この曲をどう評価するか?”みたいなことは考えてなかったです。振り返ってみると…ということだと思うし、アルバム自体も青さを振りかえる要素があって。それも自然だったんじゃないかなと。

──「Worlders (BLUE BACK Ver.)」は、映画『劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク』への提供曲。アレンジメントとミックスをTeddyLoidさんが担当した壮大な楽曲です。

じん:映画の為に書いた曲ではありますが、やっぱり僕という人間の要素が多分に入っていて。この曲も音楽に対する考え方…音楽って、予定調和になったらつまらないと思うんですよ。たとえば「映画の曲を書いてほしい」と言われたとして、“こういう言葉を使っておけばいい”なんて思ってしまったらダメだし、“自分を持ち込まず、作品に合わせよう”というのも違う気がして。他者に自分の理想みたいなものを重ねると、お人形遊びみたいになってしまうというのかな。やっぱり血の通った自分の考えを持ち込んで、それに感応してもらったり、増幅するような音楽が理想だし、「Worlders」はまさにそうだなと思っています。劇場版では大勢で歌っているし、TeddyLoidさんにお願いしたことも含めて、予定調和に委ねなかった楽曲なのかなと。

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