【インタビュー】友希、1stフルアルバム『Main Dish』で結実した“これまでの自分”──そして開けた未来への展望とは

2025.10.24 18:00

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◼︎リード曲「THIS IS ME」は、今までの自分のことを肯定してあげられるような曲に

──そのクラウドファンディングに参加された方と一緒に作った「WA!」から、各楽曲についてお聞きしていきます。この曲はどんなプロセスで形にされたのでしょうか?

友希:まずはクラファンの支援者だけが入れるDiscordで「“ライブ”って、自分たちにとってどういう場所か?」を聞いて、テーマから決めていきました。その回答の中に「輪」という漢字がありまして。そのシンプルな言葉がぐっと刺さったし、その「輪」が頭の中で、声を出す「WA!」にも変換されたんです。それで、声を出す「WA!」と「私たちの“輪”をWA!って広げたい!」という想いとかいろんな意味を込めて、タイトルにすることに決めました。

──そのうえで、歌詞のフレーズを募集された。

友希:そうですね。例えば2番の《現実をロッカーに入れたらば》というフレーズの“ロッカーに入れる”という感覚って、ライブハウスに通う人じゃないと出てこないものだと思って。その風景が浮かぶところに面白さを感じたので入れたり……他にも使わせてもらったフレーズは結構あります!そうやって歌詞だけを先に作った状態で合宿に行って、今度はファンの方を前にしながら曲を作っていきました。

──具体的には、どのように?

友希:まず頭の中にある方向性をレフティさんにお伝えして、バンドメンバーと一緒に「こんな感じじゃない?」とセッションしながら作っていきました。そうしたら、あっという間にトラックができて!フルサイズができるまで、1時間半かからないぐらいだったんですよ。あの場じゃないと、この曲は絶対できなかっただろうなぁ……。それからオケを作っている間に、私が急いでメロディを考えて。すぐファンのみんなにコールやコーラスの指導をして、一緒に録るまでを全部、その1日でやりました。

──ということは、曲中のコールやコーラスはファンの声?

友希:はい。曲を作る前から「ファンの声は絶対入れる!」と決めていたので、実現させられてよかったです。

──セッションでできたうえにファンの声が入った曲が、アルバムの最後を飾るというのもいいですね。

友希:そうなんです。全曲がメインディッシュなアルバムではあるんですけど、私的には11曲目まででひとつ起承転結ができて、ラストを飾る「WA!」は“めっちゃ盛り上がるアンコール”という感じなんです(笑)。でも、現在開催中のツアーでもライブの定番になりつつあるんですよ。友希の曲にはかっこいい曲や聴かせる曲も多いなか、「これさえ覚えておけば絶対に盛り上がれる」という曲がひとつできたのも、よかったなと思います。

──そんな「WA!」とは対照的に魅せ聴かせる要素の強い曲となったのが、MVも制作されたリード曲「THIS IS ME」です。

友希:この曲は、合宿でゼロから作った曲です。合宿中にレフティさんと話し合いをするなかで、「私ができるシンガーソングライター像」の話題になりまして。自分の強みについても改めて考えていったんですけど……シンガーソングライターって、世界観の強い方が多いじゃないですか?でも私って基本的にポジティブで、悪く言えばただの“いい子”。それって面白みや深みがないのでは?という悩みがずっとあったんです。

──そう見えてしまう、という悩みが。

友希:はい。そんななかレフティさんが「今できる技術を極め尽くすしかないんじゃない?」と言ってくれて、ジェイコブ・コリアーさんという海外のシンガーソングライターの方のライブ映像を観せてくれたんです。そうしたら、1曲の中でひとりでドラムとギターとピアノを全部演奏していて、「めっちゃ面白い!こうなりたい!」と思ったんですよ。「たしかに私は踊れるし、歌はもちろんピアノもギターも、芝居もやってきた。それを全部極め尽くすことが、今の自分にやれる最大限だな」って。

──ひとつ、答えのようなものに行き着いた。

友希:そうなんです。それでレフティさんが「それ、『THIS IS ME』でいいんじゃない?」みたいに言ってくれて。「なるほど!」となってそれをテーマに曲を書いていって……「これがリードだ!」と思って、リード曲が「コイウタ」からこの曲に急遽変更になったんです。ただこの曲、メロディに苦戦しまして。自分の中の限界を出しても、トップラインにいまいち“リード”と言えるほどのパワーがなかったんです。

──その点は、どう解決されたんですか?

友希:悩んでいたらレフティさんが「岡嶋かな多さんと一緒に書いてみたら?」と言ってくれまして、助っ人的な感じで参加していただいたんですよ。私が書いた9割ぐらいの完成度のメロディや歌詞にアドバイスしていただいて……結果めちゃくちゃかっこよくなって、圧倒的パワーを持ったリード曲として完成したんです!そのおかげで、今までの自分のことを肯定してあげられるような曲になりました。それこそ「若井友希という存在は“敵”ではなくて、“強み”だ」みたいな……ふたつの自分がひとつになれたような感覚がありました。

──そしてこの曲のMVでは、ピアノの演奏に続いて突然ダンスが始まるので、驚いた方も多いのではないかと思います。

友希:それも狙いでした。カメラマンの小倉(裕基)さんやレフティさんたちみんなと話し合って「ピアノを弾いてると思ったら急に踊り出したら、めっちゃおもろいじゃん!」となりまして。それで序盤は“普通のシンガーソングライター”と思わせるような撮り方をしていったんです。

──ただ、そのダンスがあるからこそ「THIS IS ME」という言葉により説得力が生まれるように感じます。

友希:ありがとうございます。あんまり混じらないところが交じる瞬間というのが、やっぱり「THIS IS ME」の一番の魅力ですね。

──続いて、元々リード曲予定だったという「コイウタ」なのですが、やや静かめにアコースティックに始まって、途中から走り出していくような構成になっています。

友希:「コイウタ」は私らしさが結構詰まっている曲になっています。私がY2Kなちょっと懐かしさを感じる時代の曲が一番好きというのもありますし、アヴリル・ラヴィーンさんみたいなキャッチーなパンクロックを聴いて育ったりもしていたので、元々好きな方向性でもあるんですよ。それに、“ラブソング”を絶対1曲は入れたかったんです。でも「ラブソングを作ろう」となっても、全然いい案が降りてこなくて。そんななかで「私が今一番恋してるものって、音楽だな」と気づいたら、めっちゃ歌詞が降りてきて(笑)。合宿前に一気にスケッチが完成したんです。

──そのうえで、合宿ではどう作り込んでいかれたんですか?

友希:レフティさんに「Y2Kで作りたい」というコンセプトを伝えたら、「モダン要素を加えてちょっと今どきにしよう」とアイデアを出してくれたんですね。なのでサウンドはロックより少しモダンっぽくなっていて、そういう今の良さも入っているところもめっちゃ好きですね。あと、これもレフティさんのアイデアなんですけど、最初のアコギの弾き語り部分は自分の部屋でボイスメモで録ったものなんです。「そのほうが“自分の一番身近な音楽”を出せるから」ということで。

──それに続くのが、序盤に少し話題に出た「遺言」です。サウンド的にも少々夜好性調で、こちらも今までになかった感じの曲になっていますね。

友希:はい。「遺言」も合宿でゼロから、「ピアノをめっちゃ弾くかっこいい曲を作る」というテーマをもとに作った曲なんですけど……作っていく途中で、「自分の中の“怒り”みたいな、今まで言えなかったような言葉を綴るのがいいね」となったんです。ただ、そのなかで「もっと文学的な要素が欲しい」となりまして。

──文学的な要素ですか?

友希:そう。音楽に頼るのではなくて、もっと「日本語の強さ」を生かしていきたい。だから「この曲の歌詞は、私じゃないほうがいいね」となって、レフティさんが長く付き合いのある黒木渚さんに作詞を頼んでくださったんです。黒木さんって結構パンチのある、どす黒い言葉を書いてくれるのが魅力で、でも美しい。その「怖いのに美しい」みたいなところが真骨頂だと私は思うし、この曲にもその良さを詰め込んでいただいています。

──実際の制作は、どのようなプロセスで進んでいったんですか?

友希:合宿中に黒木さんとリモートで会議をしまして。今までの人生についてインタビュー形式で聞いてもらって、歌詞を書いていただきました。その中には、さっきも言ったような“若井友希”という存在に対してヘイトが向く瞬間のことだったり、それを求めるファンの方に対して生まれてしまった苛立ちみたいなものについてとか……言えずに抱えていた部分を代弁していただくようなところもあって。

──そういった内容だと、“代弁”という点も含めて作詞に入ってもらうほうがより適切かもしれないですね。

友希:そうですね。ただ自分の中には、「ファンの方へのヘイトは向けたくない」という気持ちも強くて。この曲を受け取った人が「自分の見方って、そんなに嫌だったんだ」とは絶対思ってほしくないんです。大前提としてみんなに感謝しているなかで、持っていた「でもどうしたら“友希”も認めてくれるんだろう?」みたいな気持ちを汲み取って、攻撃的でありながら「認めてほしい」という想いも込めたちょうどいいところをついてくれたのがこの曲の歌詞で……だから最終的には、ファンへのラブソングになったような感じもしています。

──結果として、これもラブソングに。

友希:はい。アイドルとしての自分ももちろん大事にしているけど、どんな存在であっても“自分”というものを追いかけたり応援してくれる人を大事にできるように、今までのうじうじしていた自分をここで殺して。“遺言”として書き留めて、「“若井友希”もあるけど、私はちゃんと“友希”として生まれ変わるから、こっちにもついてきてくれないと許さねぇぞ」……みたいな歌です(笑)。

──そして「THIS IS ME」を挟んで、M4「Cut the rope」は全英語詞の曲になっています。

友希:この曲は元々「1曲洋楽を作りたいね」という話があったなかで、急にレフティさんに「ロンドン来れば?」と言われたのがきっかけで生まれまして……(笑)。

──ロンドンに?

友希:そうなんです。レフティさんはいつも夏頃に1~2ヵ月ぐらい海外に滞在して、いろんなライターと曲を作られているので、そういう連絡をくれて……実は半分冗談だったらしいんですけど(笑)。でも私は、「絶対行きたい!」ってマジになっちゃったんです。「初めて海外で作った曲を、アルバムに入れたい!」って。それでなんとかスケジュールを空けてもらって……元々は1泊3日だったところを、なんとか2泊できるようにしてくれました。

──楽曲制作は、どのように行われたんですか?

友希:到着翌朝からスタジオに入って、TALIA(DUSSE K)さんとMARKIE(ALVIN THOMPSON)さんと一緒に曲を作っていきました。英語が得意じゃないので不安もあったんですけど、いざ制作が始まったら「あ、自分ついていけるな」と思って。

──それは、どんな瞬間に?

友希:今回はレフティさんが作ってくれた基盤となるオケに私たちがメロディを乗せて作っていったんですけど、2人がボイスメモで鼻歌を録っているのを見て「私とやり方一緒だ!」とわかったときですね(笑)。そうやって、お互い浮かんだメロを歌い合って作っていきました。「手も足も出ずに、全部向こう任せになるのは絶対嫌だな」という想いもあったので、同じフィールドに立って曲を作れたことは嬉しかったです。2人からは私からは出ないようなメロディがいっぱい出てきて、楽しかったしいい意味で「私もまだまだやな」とも思えて、本当に刺激になりました。

──一方で、歌詞についてはどんなものを目指していったんですか?

友希:あえてロンドンには何も準備をせずに行ったんですけど、他の曲がメンタル的にはやられているような曲が多いから、「ポジティブな自分でいたいな」と思って。それで、ロンドンに着いたときの匂いや景色とか、受けた刺激から来るわくわくを曲にすることに決めたんです。それが、私がi☆Risというホームタウンを1個抜けて友希として活動している姿ともリンクするように感じたから。

──そういった意味合いを、ロンドンでコライトした曲に込めるというのも素敵ですね。

友希:はい。それで、2人がどんどん話しながら作詞を進めているのを、私が翻訳アプリを通して見ていって。ちょっとネガティブになりすぎちゃったときは少し調整をお願いしたりしながら、3人で進めていきました。