このアルバムは従来の実にRIP SLYMEらしいパーティ・チューンを多く含む一方で、過去の2作品には無かった幾つかの新たな方向性が含まれており、それは今の彼らの潜在的な気持ちを反映している。
まず特徴的なのが前半に見られる、ヒップホップ回帰な流れだ。RIP SLYMEは今まで、曲の中で声高に“ヒップホップ”であることを大きく掲げてきたことは殆ど無かったが、「HOTTER THAN JULY」、「WHAT’S UP? – HOW’RE YOU DOIN’?」、「ベイシック・ライン」と3曲連続でリリックに“ヒップホップ”が出てきているのにまずは驚かされる。
「WHAT’S UP? – HOW’RE YOU DOIN’?」ではヒップホップ第5の要素とも言われているヒューマン・ビートボックスを巧みに使用し、「ベイシック・ライン」ではまさに自分達の原点を思い返し、何処(=ヒップホップ)から出てきたのかを証言している。
おそらくこれは無意識の産物であろうが、自らの基本である“ヒップホップ”を、今のタイミングで表面化させているのは実に興味深い。
もう一つ、中盤から後半ではスムースでレイドバックしている曲が一つの核になっているのもこのアルバムの特徴的なところだ。
『TOKYO CLASSIC』以降、物凄いスピードで突っ走ってきたが、ここで一旦落ち着いて、自らの足元を見つめ直しているかのうようなリリックが、「WHY?」や 「ミニッツ・メイド」など、各所で見られる。
これが忙しさの中にフッと見える、彼らの本音なのかもしれないが、アルバム・タイトル曲「TIME TO GO」では、不安を抱えながらも、自らの運命に従って、前に進んで行こうという固い決意が伝わってくる。
そういった心情的な揺らぎが見られる一方で、サウンド面に関しては、DJフミヤは更に加速度をつけて、突っ走っている。
アルバムの先行シングルとなっ た「JOINT」(フミヤとペスの共作)などは、冷静にトラックだけ聴けばポップスとは程遠いコアなドラムンベース・トラックであり、彼らの今までのシングルとも一線を画する曲であるが、そんな心配をよそに、オリコンではしっかり上位につけ、今の彼らの止まらない勢いを象徴しているかのようだ。
「楽園ベイべー」のようはラテン調が薄くなったのが個人的には残念ではあるが、「HOTTER THAN JULY」、「チェッカー・フラッグ」などでの電子音全開での高速っぷりは実に心地良く、RIP SLYMEの新たな方向性を示している。
しかし、今後の彼らがどう進むかはやはり分からない。なにせ、全てが無意識に進んでいくRIP SLYMEだけに、本人達でさえ何も分かっていないだろう。
しかし、明らかなのはグループの鍵を握るDJフミヤは、更に先に進んでいくだろうし、MC達はその時どきの心情を類い稀なポップス・センスに乗せてラップしていくことで、現在進行形のRIP SLYMEというものを表現していくだろう。
それは今回のアルバムも、そしてこれからも変わらない。それがRIP SLYMEのスタイルなのだから。