山の中腹に設置されたフジロックでは二番目に大きいWHITE STAGE。初日27日の客層は、他のステージとは少し違っていた。埃や泥に対して完全武装のロックファンに比べるとキレイめな格好。靴はナイキのスニーカー、ティンバーランドのブーツなどが多い。この日はラッパ我リヤ、MURO、NITRO MICROPHONE UNDERGROUNDなど、日本のヒップホップ・シーンを代表するアーティストが多く出演したのだ。フジロックはその名のとおり“ロック中心”のイベント。しかし、ヒップホップ・シーンの勢いは、こうした野外イベントにも及びはじめていることをこのラインナップは証明していた。 ▲ラッパ我リヤ メッセージ色の強い新作を反映したステージ。レーベルメイトの三善/善三も参戦 | まずスタートを切ったのは、入魂のニューアルバム『日本改造計画』をドロップしたラッバ我リヤと彼らが主催するラッパー集団、走馬党の面々。猛暑にもかかわらず、上下黒というスタイルのQの「そうまとぉーえんたぁていんめんとぉ~」という第一声が森林に響き渡る。いつも観客を楽しませることを忘れないガリヤらしいオープニングだが、この日は新作からのナンバーが中心で「最近、信じられないようなことをする奴が多いけど、それを許しちゃダメだ」みたいな発言もあり、最近のメッセージ性の高い作品傾向がパフォーマンスにも表われていた。途中、同じ走馬党の三善/善三をメインに2曲フューチャーしたりするなど、自分達の確立したポジションを一段高いステージに上げていこうとする強い意思の感じられるステージだった。 ▲KICK THE CAN CREW “歌謡HipHop”と言っていいほどの求心力でどうシーンに切り込んでいくか、今後に注目だ | チャートでも善戦しているZEEBRAやラッパ我リヤに続き、これからの飛躍が期待されるのが次に登場したKICK THE CAN CREWだろう。若手ヒップホップ・アーティスト20人が参加する「東京U家族」を率いるMCユーや、毎年開催されるフリースタイル・ラップの競演「MCバトル」で3連覇を成し遂げたCREVAなど、メンバーそれぞれのスキルの高さも見逃せないが、なんといっても彼らの魅力は硬軟自在に繰り出されるトラックがもたらす親しみやすい音楽性。この日も、首都高のドライヴに似合いそうなメロウなナンバーから、ドラムンベースを導入した激しいナンバーまで、多彩な曲調はロックファンも思わず立ち止まって見入ってしまう求心力を持っていた。「俺達は、ヒップホップっていうのは何でもアリってことだと思ってる」というMCからも彼らの柔軟性が強く感じられ、今後はヒップホップの枠を越えて多くの人に支持されていくのでは、と予感させる好演だった。 ▲MURO もはや風格すら漂うステージ。深みを持ちつつ、HipHop初心者にも充分アピールする | ヒップホップの柔軟さを見せたのがKICK THE CAN CREWならば、ヒップホップの何たるかを身を持って示したのがベテラン、MUROだ。バックにキング・オブ・ディギィン・クルーの面々を従え、ドスの効いた男っぽいコーラスの合間に、絶妙なタイミングで機関銃のような早口ラップをインサートする。さらには、上に掲げた手を左右に揺らしながら客席と一体になる。このスピード感がもたらす恍惚は、やはりヒップヒップでならではのもの。DJとしても活躍するMUROは、ビッグビーツやラテン、ジャズなど、世界中のビートをディギン(掘り出)しまくる雑食性も持つが、この日はバックにダンサーをフィーチャーしたりするなど、フジロックの観客に向けてヒップホップの深さを味わせようとしているかのようなステージングだった。 ▲NITRO MICROPHONE UNDERGROUND MCもほとんどない濃密なステージを展開。ハードコアな佇まいが熱烈に支持されていた | 日本人ラッパー軍団のトリを飾ったのは、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのNITRO MICROPHONE UNDERGROUND。今、シーンの中での彼らの注目度は相当なものがある。1人でも充分ソロを張れる実力派ラッパーが8人も集まったスター軍団なのだから、それはもうメンバー全員が揃ってライヴをやるだけで1つの事件のようなものだ。この日も始まる前から客席のテンションは相当に高かったが、うす暗いステージに8人が登場し、余裕たっぷりにマイクリレーをぶちかました時には、筆舌に尽くし難い高揚感があった。ただ、やや残念だったのが、途中で音が出なくなってしまうなど、マイクやPAの調子が今ひとつよくなく、DELIなどの高音担当のラッパー以外の声がクリアーに聴こえなかった点だ。それでも、曲の合間のMCもほとんどなしに、只者でないオーラのみで最後まで観客を釘付けにしていたのは立派としかいいようがない。 この日のWHITE STAGE出演者は、他にもDJのサンプリング・ネタを生演奏で次々と再現/ミックスするユニークなプレイヤー集団、ブレイケストラ、バッド・ブレインズやリビング・カラーのメンバーを従え、ブラック・ロック的な展開で新境地をみせたアンダーグランド・ヒップホップの雄、モス・デフ、トリップホップと呼ぶなかれとでもいいたげに、頭を左右にぶんぶんふりながらキレたパフォーマンスをみせたトリッキーなどそれぞれが力演。それぞれがヒップホップから影響を受け、ヒップホップというジャンルのパワーと多様性を見せつけたという点で意義のある1日だった。 文●K.O.D.A |