杉真理、『魔法の領域』特集内インタビュー

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――30周年を記念して作られたアルバムということですが、新作のリリースってどれくらいぶりになります?

杉真理(以下、杉):ソロとしては5、6年ぶりですね。でも、その間に僕が組んでるピカデリーサーカスっていうバンドでも出してるんで、自分ではそんなに久しぶりっていう感じはしない(笑)。あと、ソロだったり伊藤銀次さん、須藤薫さん、堂島孝平くんとも定期的にライヴはやってまして、その度に新曲を書いて発表はしてたんです。そういった曲が今回たくさん入ってるから、歌い出しが僕じゃない曲もけっこうあって。でも、こういうのがあってもいいんじゃないかなと思うんですよね。最終的に僕色が出ればいいと思うし。実際、いろんな人を巻き込んでやってる欲張りなところとか、今までで一番僕らしいアルバムになったと思うんですよね。杉真理を知らない人は、このアルバムから聴き始めてね、っていう感じです。

――特定のコンセプトを設けず、多彩なミュージシャンと多彩な形態で曲を作る。この種々雑多ぶりが“らしさ”なのかもしれないですね。

杉:作るときは好き勝手にやって、曲が出揃ったときに俯瞰で見ると全体像が見えるという、それが僕にとってのコンセプトなんですよ。だから制作の終盤になると、“3曲目にハマる曲がないな”とか思っちゃう。そうなったとき、不思議と最後にできた曲がそこにすっぽりハマったりするんですよ。他にも、ちょうどビートにハマる言葉を探してると、不思議な形で答えがやってきたり。今回の堂島孝平くんと作った2曲だって、2日ほどでできたものですからね。普通に考えたら上手くいくわけないことが上手くいく……人智を超えた不思議な力が働いてくる、それがタイトルにもある“魔法の領域”なんですよ。

――なのに全13曲というボリュームになっているのは、つまり、それだけ入れたい曲が沢山あったということですか?

杉:そうなんです! 僕の中でアルバムというのは本みたいなもんですから、曲順はとても大事で。今って聴き手が自由に曲を飛ばせる時代だからこそ、アーティストは最高の曲順と曲間を提供したうえで、自由に聴いてもらうのがフェアだと思うんですよ。そう考えてたら13曲になっちゃった(笑)。でも、1曲が短いでしょう?

――ええ。だからツルッと聴けちゃうし、1曲目の「Make Love Not War」で力強さを示して最後は「あの夏の少年」のオーケストレーションで壮大に締めるという、美しい流れが彩り豊かに描けているんだろうなと。

杉:最初はビートから来て、最後はやっぱりハートに来るようにしたかったですからね。僕、小中学校時代は東京の大田区に住んでたんですけど、初めて自転車を買ってもらったときに、地図も持たずに渋谷のほうまで漕いでいったことがあって。そしたら道玄坂の上に出て視界がパッと開けた、その景色がもう未来都市だったんですよ!「あの夏の少年」は、そのときのことを書いた曲なんです。

――全編において、とにかく歌詞の描くものが若々しくて溌剌としてるなという印象があったんですが、「あの夏の少年」の“決して誰も歳をとらない 魔法の国に住んでた”という一節に行き着いたとき、思わずハッとしたんですよね。もちろん、単純に気持ちが年を取らないということもあるだろうし、今の年齢になったからこそ、若かりし頃を素直に振り返ることができるんじゃないかなって。

杉:あ、そうかもしれない。一昨年福岡に行ったとき、タクシーの運ちゃんが離婚経験のある僕の連れに“あ、マルイチなんですか?”って言ったことがあったんですよ。その言葉に衝撃を受けて、“君の愛すべき過去の日にマルをつけておあげ”という一節で締め括る「恋するバツイチガール」って曲を、去年ライヴで発表したことがあったんですね。僕も去年、ずっと封印してきたビクター時代のアルバムを再発することになって、もう一度聴き返してみたら“あ、22、23歳の俺にしては頑張ってんじゃん”と思えた……つまり、ようやく自分の昔に丸をつけられるようになったんですよ。確かに年を取って失くすものも多いけど、得たもののほうが多いから、今まで昔に戻りたいと思ったことが一度もないし。僕、年を取るのは“完成された子供”になることだと思うんですよね。

――あ、いい言葉ですね。

杉:だって子供は未熟だもん。お酒も飲めないし、デートや車の運転もできない。そう考えると今、自分が仲間たちと音楽をやれてることは、“明後日〆切だぁ”って愚痴る気持ちも含めて、昔の自分が夢見てたことなんですよね。それに、この世には知らないことのほうが圧倒的に多いじゃないですか? やってないこと、行ってない場所、食べてない美味しいもの、読んでない本、観てない映画……。そうやって、如何に知らないことが沢山あるかを知る、逆に今知っていることの大切さを知ることが、大人になるってことじゃないかなと。

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