寺岡呼人、特集第二弾 対談後編 vs 大江千里
大江:40代になってわかったことは、心の中では年を取りたくないというか、校庭の隅に落ちてた上履きを箱の中に永遠に取ってある。今だにそういう部分があるかなって。
寺岡:ジョニー・デップ主演の『ネバーランド』も大人になることを受け入れるか、素直に子供のままでいるかという映画でしたね。60歳を越えても体型の変わらないローリング・ストーンズを見ててもね、全然渋がらなくてもいいんじゃないかとも思うし。
大江:そう言えば40歳の頃、僕はちょっと変化がありましたね。
寺岡:ちょっとアドバイスをしてもらってもいいですか?(笑)
大江:いいですよ(笑)。それはね、流れに身を任せる、自分はこうしたいって頭で考えないこと。そういう受け入れ体制になったら、僕はちょっと楽になった。
寺岡:あぁーっ。
大江:その頃もちょうど曲ができない時期で。それは“40歳の歌を歌わなきゃいけない”とか、そうやって無理矢理引っ張るからバランスが崩れる。差異が生じる。だから、あまりこう深く考えずに“いや、18歳ぐらいの歌を歌ってみよう”って(笑)。
寺岡:大江さんの『ゴーストライター』を聴いた時にね、スポッと自然な感じで歌が入ってきたんですよ。エルヴィス・プレスリーだって、40代で超甘甘な「ラブ・ミー・テンダー」とか歌ってたわけじゃないですか。だから40歳、50歳の歌なんて本当はないのかもしれない。ちなみに大江さんって充電期間とかあったんですか?
大江:ないんですよ。コンサートの欠席率もないんです。“わしゃ、止まると死ぬんじゃ”みたいな休み恐怖症はある(笑)。まぁ、ユーミンも走ってるしね。
寺岡:ですよね。僕の好きなクリント・イーストウッドも出世作の『ローハイド』から80歳近くなるまで、一年も休んでないんですよ。上岡龍太郎さんも“みんな、充電と言って休むけど、休んだら充電もできない。だから俺はここで辞める”と潔く引退したんだけど、まさにそうだなと思って。それぞれに紆余曲折はあるけど、止まっちゃいけない。大江さんが『トップランナー』で司会されたことも、止まらない歩みのひとつだった気もするんです。遠回りに見えることが、逆に近道だったりすることもあるし。
大江:確かにそうですね。役者の仕事もそう。一番最初に『法医学教室の午後』という作品に出た時に、共演した寺尾聰さんが“君は演技が好きそうだから続けたほうがいいよ。そうするとライヴのスポットライトを浴びた時に気持ちいいから”と教えてくれて。
寺岡:深いなぁ!
大江:役者の場合は演技に納得できなくても、監督の“OK!”で次のシーンへ行かなきゃいけない。そこで飢餓感が風船のように膨らんで、曲が浮かんだり、ライヴで自分を取り戻せたりすると。寺尾さんのその言葉は今だにくっきり覚えてますね。
寺岡:そうなんです。僕はここ3年ぐらい弾き語りをやってて。曲作りに関しては迷わなくなったんだけど、裏を返せばポップでメロディアスな曲を書くのが難しくなった。でもそういう普遍的な曲が欲しくなって“これは大江さんの力を借りるしかない”と(笑)。それで“青春グラフティーな曲を書いてください”とお願いしたんです。大江千里作詞作曲の曲を寺岡呼人が歌にする。それがすごい新鮮で、自分の血となり肉となるような気が。そういう意味でも「hello,again 」はアルバムのハイライトでしたね。
大江:楽曲依頼に関してはね、本当に直感で“あっ、来るな”と思ってて。詞と曲という形でスローなバラードかミディアムだろうなって。そしたらミディアムというキーワードがバチッと来て、“hello hello~♪”というサビの輪郭もガチッと見えたんですね。
寺岡:ホントですか!? じゃあ、ちょうどマスタリング済みのテイクが上がったので、ここでちょっと聴いてみません?
大江:あっ! 聴いてみます!!
大江:おーっ!!(拍手)いやぁ、感動だなぁ!!
寺岡:いやぁ、いい曲ですわー! あのアレンジ、大丈夫ですか?
大江:アレンジ、かっこいい!!
寺岡:それ、聞いておかないと(笑)。大江さんはいろんな方に曲を提供されてますけど、ま、手前ミソですけど・僕ほどハマる人はいないんじゃないかと(爆笑)。この言葉は見出しでお願いしますよ(笑)。
大江:あはははは! でも“どうしてこんなに歌えこめてるんだろ?”って思った。
寺岡:やっぱり好きなツボが近い。一時期、雰囲気だけで持っていく音楽が流行ったけど“待て待て。もう一度、詞と曲からイマジネーションを刺激される音楽が必要なんだ”と思いましたね。それと男の人にもっともっと書いて頂きたい。何かあるんですよ。男の子感というか、そういうフレーズが。
大江:そう言えばあんまり書いてないですね。音に関して言うと、奏でる音一個一個に意味があって、その花びらの真ん中に歌があって、万華鏡のように多彩に響いてくる。声も甘い感じで録れててね。今回、デモテープを自分が最初に見えた世界に忠実に作って、若干直しが必要かなという状態で渡したんだけど、それがもう“イエイ!!”みたいな感じで返ってきたから。
寺岡:はははは。まんまですよ、まんま。デモ・テープのまんま。
大江:考えてたツボは一緒だった。歌詞のほうはね、逆に悩みました。僕的にはもう少し上の年齢設定も混ぜたかったけど、そこはもうストレートに青春グラフティをやろうと。そういうディレクションがあって、何か初心に戻った感じになりましたね。
寺岡:大江さんが“気になるところがあれば遠慮なく言ってね”と言ってくれて助かりました。意外と小心者なんで・ここは見出しにしないでください(一同笑)。
大江:はははは。いや、その直しの時間込みで考えてますから。“この部分は大丈夫? ここは変えてもいい思ってる場所だから”と送ったら“そうなんです!”とすごい早いレスが返ってきて(笑)。“やっぱりね!”とすぐに直せたし。
寺岡:はい。僕はものすごくヒントをもらいました。これをきっかけに自分なりの青春ポップスが取り戻せる気もしますし。何か視界がちょっと開けた感じがしています。
大江:僕もね、あまり表に出さない、自分で気がついていないナチュラルな部分を引き出してもらったっていうか。特別なことは何もやっていないんですよ。ごくごく普通に始まって終わる、短いラブソング。でも“それを書けばいいじゃない”と何度も気づかせてくれた。うん。プロデュースされましたね。はははは。
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