「ハイファイ メッセージ」、2006年6月14日リリース。デビュー10周年を2ヶ月後に控えるEvery Little Thing(以下、ELT)が放つ、通算30枚目にあたるニューシングルだ。
“前作の「azure moon」はものすごい起承転結というか、押し引きのあるドラマティックなサウンドだったんですけど、今回は本当に、カーステ“ぽん”って、同じ速度で走る気持ちよさ!みたいなものを感じて欲しいですね”(伊藤一朗/G)との言葉通り、「ハイファイ メッセージ」の持つ乾いたそのドライビング・サウンドは、初夏を思わせる、爽やかで屈託のないナチュラルな作風となった。
そして、そこでじわじわと浸透してくるのが、持田香織の詞世界、である。これがまた凄い。ともすると、“日常の小さな小さな幸せに思いをはせ感謝する”といったような、誰もが小脇に抱えている日常の気持ちの折り重ねを歌っているだけのこと。でも、その感受性たるや、絞れば汁がぽたぽたと落ちる新鮮な果実のようなビビッドさに溢れている。
――この詞の持つテーマというのは……?
持田香織(Vo/以下、持田):私は、詞を書くようになったことで、そのつど自分の感情と自分が対話をするようになったというか、詩を書くときに自分に向き合ってみるんですね。“今、自分がどういう自分なんだろう”ということを分かっているようで分かっていないこともあるじゃないですか。そういう意味では、今、この詞にあるような内容を、タイミングよく演れるというのは、私はすごくラッキーだなと感じてます。
――ELTの詞世界は、『commonplace』を皮切りにテーマが削ぎ落とされ浄化されてどんどんナチュラルになってきていますよね。こうなると次作は“健康って素晴らしい!”“深呼吸って素敵♪”みたいなことになってしまうのではないかと。
持田:あはは(笑)、どうなんでしょう。それを意識的にやっているかと言われると、意識的でもあるだろうし無意識……まあ、無意識ということはないのか……“健康ソング歌います!”みたいなことではないですけど、やっぱり自分が生活していく中で、ということは大前提にありますね。
――2人の作り出す空気感が、この世界を生み出しているのは間違いないわけで、伊藤さんのギタープレイも同じですよね。
伊藤一朗(以下、伊藤):そうですね。ライターの書いた楽曲を演るということが多いので、まず歌メロであったり歌のフィーリングであったり、まずそれを活かすための周りをどうすればいいのかという、そういうことの重要さですね。それこそ昔はただ“トラックごとにベストなものを入れればいい”と思っていたんですけど、ただひたすらゴールをキメようと体力だけなくなって、一番大切なものを見る体力が残っていない、そんな感じだったですから。
――もはや、若さにも似たギタリストのエゴのようなものはない、ですね。
伊藤:ないですね。
――そんなトラックに、日常にある当たり前のことをテーマ不在かの天然さで歌う持田さんですが。
持田:当たり前のことを歌にしているということですか? ね? あー、わからない。そうやって自分を客観的に見つめたことはなかったです。
――持田香織の世界には一人称が男か女かわからないことがありますよね。
持田:それも、別にこだわってないんです。なぜ女性なのに僕という詞をつけるのかとか、曖昧すぎて分からなかったりとか、そういう意見をもらうこともありますけど。ひとりの人としての気持ちであって、それが“あなた”でも“私”でもいいんですけど、曲にとって、僕という響きの方が心地よかったり私という響きの方が心地よかったりということです。これは私の勝手な主観かもしれないんですけど。
――詞を書くにあたって、普段からアンテナを張っているんですか?
持田:とくに日頃から気にして、例えば言葉を拾っていく作業とか、書き留めておくみたいなことはしていないです。ただ、一人で生きているわけではないので、人と人と触れ合うたびに感じる感情があるじゃないですか? そういう思いを歌っていけることは、すごい素敵だなと感じるんですけど…どうでしょう(笑)。
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