| 音楽は日常に溢れている。テレビやラジオ、街角から流れてくるヒットソングのキャッチーなメロディが頭にこびりつく一方、それとは全く違う快感を音楽に求めてている人がたくさんいる。日頃の鬱憤晴らし的な爽快感だったり、安らぎ、そして現実逃避のためだったり…。
そういった欲望を満たしてくれるのが美しいサウンドを追求し続けるバンド、Mercury Revだ。
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▲Jonathan Donahue
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インディ時代の1stアルバム『Yerself is stream』と初めて出会った時から、彼らのサウンドはとて幻想的感覚を呼び起こすものだった。その頃の彼らの音楽はゆったりとした流れの中にもギター・ノイズやディストーションが重くかかった、どちらかというと荒々しい感じだったが、我々聴く側を現実から遠くに運んでくれるような心地よいサウンドを奏でるバンドだった。
それから約10年の間、メイン・ヴォーカルのデヴィッド・ベイカー脱退や活動休止などいろいろなことがあったが、今年2001年夏、アルバム『All Is Dream』を完成させた。世界中で彼らの名を知らしめたであろう前作『Deserter’s Songs』のプレッシャーをものともせず、彼らの世界観をさらに突き詰め、繊細に美しいサウンドスケープを展開した仕上がりだ。
そしてそんな作品を引っさげての今回のライヴ。オンタイムに「Funny Bird」の音が鳴り出すと、一気にMercury Rev独特のサウンドで会場の空気を覆い、トリップしたような感覚に陥る。
彼らの素晴らしいところは発達した電子機材を過剰に使用するでもなく、彼らが演奏するそれぞれの楽器と声で夢のような世界へと引きづりこむ力だと思う。
シンプルさゆえに彼らが奏でるメロディは涙が出そうになるほど美しく、鍵盤の音色は安らかでシンバルの音は人の心を高揚させる響きだ。そして、それと同時にしっかりとしたリズム体やギター音は、ダイナミックに楽曲の流れを作りながらロックという魅力を充分に引き出しており、我々の耳や心により一層深く打ちつける演奏だ。
また、今回のパフォーマンスで目を引いたのが、元フレイミング・リップスのギタリストで、メイン・ヴォーカル&ギターを務めるジョナサン・ドナフュー。
声量の物足りなさがほんの少し気になった点は否めないが、やさしくも彼自身の芯の強さが伝わってくるヴォーカルは、空や夢の中といった現実とはかけ離れたところから響くような、まさにこのバンドの独特な世界観にピッタリな歌声。また、観客をそのサウンドの空気へと先導するかのように腕をダイナミックにふる指揮者のようなしぐさなど、メンバーの音をひとつにするのと共に圧倒的な存在感を見せつけ、このバンドに無くてはならない存在なのだと強く感じた。
ほとんどの曲が新作『All is Dream』からの演奏であったが、前作『Deserter’s Songs』の一曲目に収録されている「Hole」や10年前にリリースされたアルバム『Mercury Rev』の収録曲「Frittering」を中盤で2曲連続演奏した時は、会場から歓声があがり、自分を含め長年のファンにはうれしい演奏であったと共に、Mercury Revの長年の歴史を再確認した。
また、アンコールではテルミンなども披露し、浮遊感のあるその響きが、更に彼らの世界へと導き、最後に演奏された曲は全19曲を締めくくるのにふさわしい「The Dark is Rising」だった。美しく、哀愁漂うサウンドの中にも力強い希望が感じられるエンディング。
1時間半という短い間ではあったが、彼らの幻想的な世界にどっぷりと浸り、日々のめまぐるしい現実を忘れさせてくれた時間だった。
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