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――“FLR”のコンセプトは?
FLR: ケンイシイ・プロジェクトよりもダンスフロアに特化されたものを自分なりに追求したのがFLR。それこそ曲によってはDJが使える、ダンスフロアでお客さんが踊りやすいものに、自分なりのテイストを加えたもの。だから変に考えているというよりはダイレクトにフロアでお客さんが喜びそうな、もしくは自分が本当にDJ・セットで使えるものを自分自身で作りたいっていうのがあったかな。
――Easy FilterシリーズをまとめたCD『Easy Filters』の収録曲はリリース順ではなく、曲順が変えてあって、DJらしいというかMix CDっぽい印象を受けたのですが…。
FLR: それぞれ12インチをリリースしてきたけど、それらの曲を作ってきたときは、本当にパーッと出てきたものを作っていた。それをまあ、最初はファンキーなものから始まって、途中ディスコっぽくなって、最後はハードに、10曲の中で70分くらいにまとめたのが、このCD。普段のDJセットではいろんな人の曲も織り交ぜながら、2、3時間の中でそういう流れを作るんだ。
――聴いてみて、"直感的"と"ディスコ"っていう言葉が即座に浮かんだのですが、その辺は意識されたんですか?
FLR: "直感的"というのはまさにそうで、それがEasy Filterっていう名前の由来でもあるんだけど、簡単にというか、テイク・イット・イージーな感じ。DJミュージック本来がそうだと思うけど、そんなに緻密には作りこまなくて、基本的にワン・アイディアで、ノリ一発っていうのが直感的なところだと思うんだ。
"ディスコ"っていうのは、ディスコ・サンプルを使うってことだけじゃない。自分のDJプレイを聴いてもらえばわかると思うけど、どっちかっていうと曲調とかもハードじゃなくて明るいほうに向かっている。単純にマイナーコードとメジャーコードの違いでもあるんだけど、マイナーコードになって盛り上がるっていうよりは、明るい方向に向かっている曲調のものが多いんだ。そういうところは普段、自然にでる自分の気分というか、曲を作ってる時に自分が出たってことだと思う。
――初回限定盤についてくるRemix盤の人選は意表をつかれたというか、非常に興味深かったです。
FLR: 基本的には普段、自分のレコードバッグに入っているアーティストに依頼したんだ。自分にはいわゆる"ビッグネーム"みたいなものへのこだわりは全然なくて、それこそまだ面白いことをやっている人間がいるっていうことを自分は知ってるつもりなんだ。日本のテクノ・アンダーグラ ウンドの中では、まだカヴァーしきれていないと思うから、このアルバムに触れることで、本当のアンダーグラウンドっていうか、そこのアーティストを少しでも知ってもらいたいっていう気持ちはあった。
――メインストリーム的に見られることに対してアンチになってるという発言を最近のインタヴュー記事で見かけたのですが…。
FLR: アンチというか自分がこうなりたいっていうレベルを多少越えてきてしまった部分が過去何年かあったんだ。どっちかっていうとアンチというより、自分の中でそれだけではいけないと思ったし、メインストリームってのも、自分の活動の中からついてきたもので、それを自分は楽しめるからやってるんだけど…。ある程度越えた部分だけを見ている人はもしかしたら初めから自分がやってることを知らないままである可能性はあるだろうね。
――’95年にリリースされたアルバム『Jelly Tones』以降、「ケンイシイさんは変わった」という人がいますが、その辺はご自身でどう思いますか?
FLR: 基本的に活動の中身が変わったというか、まわりの環境が変わったっていうのはある。もともとデビューはヨーロッパなんだけど、それから『Jelly Tones』までっていうのは基本的にアンダーグラウンドな感じで、そんなに忙しいってわけでもなかったし、それこそ自分の好きな時に好きなものを作ってれば良かったから。でも『Jelly Tones』以降、いきなりテリトリーも大きくなって、いろいろお呼びがかかったりとか、舞台が大きくなったりしたんだけど、(自分にとってそれは)まあ大きな世界も見たってくらいの話だと思う。それまである程度こもっていた人間が、いきなりいろいろ見れば、やっぱりそれは刺激も受けるし、単純に"見方が広くなった"っていう感じ。
それまでのものってのも好きなところもあるし、単純に引き出しが増えた。 今までやってきたスタイルっていうのは今でもいつでもできるし、それをやるのは自分が楽をしてしまっているような感じがするんだよね。(自分が)そういう性格でもあるんだけど、新しいものがあったらとりあえず試してみたい。それで良くなければやめればいい。ただ試してみなければわからない。その辺は猪木イズムというか、"行けばわかるさ"的なね(笑)。
今は何にも考えないで突っ走っている感じではあるんだ。音楽的な部分とか(について言えば)、常に全然違うジャンルのミュージシャンと一緒にやってみたいなとか、そういう方向性も凄く好きだし、そういうのは常に自分の中で当たり前になっている部分なんだ。自然にね。ヴィジュアルも普段から興味があって、仲のいい友達と一緒にいろいろ遊びでやったりもしているし、そういった意味でも今、自分のいろいろな部分の中で、自然にやりたいことをやってみようかなと。最近だとDJをやる機会がすごく多くて、肉体的にきついんだけど世界中のいろんな場所を廻るだけ廻ってみようと思っている。多分、そこからいろいろやっていく中で、いろんな場面があって変わっていく部分もあるだろうし。そういうきっかけをツアーとか通して見てみたいなっていう感じ。それが今の気分。
取材・文●門井隆盛
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