【インタビュー】首振りDolls、「最初で最後のワンマン」という特別な一夜

2025.05.03 14:28

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日本屈指のライヴ・バンド。

首振りDollsのライヴを一度でも観たことがある人たちならば、こうした少しばかり大仰な形容にも頷いていただけることだろう。筆者自身、彼らのライヴを観るたびに満足感をおぼえ、しかも同時に新たな発見をさせられてきた。だからこそ「また次も!」ということになり、何度も何度も繰り返しあちこちのライヴハウスに足を運ぶことになるのだ。

そんな彼らは、2024年3月に登場した通算6枚目のフル・アルバム『ジェットボーイジェットガール』を携えながらのツアーをほぼ1年がかりで続け、去る2月9日、東京・新宿LOFTでの公演をもってひとつの時間の流れを終了。しかしそのツアー自体は終了したものの、彼らは相変わらずあちこちのライヴ会場に出没しているし、この5月17日には大阪・味園ユニバースでのワンマン公演を控えている。

昭和、平成、そして令和の現在へと至る時代の流れを見守り続けてきた味園ユニバースは、独特の雰囲気や匂いを持った場所として知られてきたが、この6月末をもって閉館を迎えることになる。つまりそこで彼らのワンマン・ライヴを観られるのはこれが最初で最後ということになる。しかもこれは、彼らにとって過去最大級の単独公演でもあり、それが現在の拠点である東京でも、バンドの発祥地である小倉でもなく、大阪で行なわれるという点にも注目すべきだろう。大胆というよりむしろ無謀ともいえるこのライヴに向けて、彼らはいったいどんな思いを抱えているのか? nao(Dr, vo)、ジョニー・ダイアモンド(G, Vo)、ショーン・ホラーショー(B)の3人に話を聞いた。なお、記事中のライヴ写真はすべて前述の新宿LOFT公演の際のものである。


──まず2月9日に行なわれた新宿LOFT公演について振り返っておきたいと思います。あの日をもって『ジェットボーイジェットガール』のツアーは終了ということになったわけですが、それ以降も相変わらず活発なライヴ活動が続いています。ただ、あの時点でひとつの流れが完結したという感覚ではあったはずですよね?

nao:流れとしてはそうですよね。でもなんか、終わったというよりも動き出したという感覚のほうが強くて。新宿LOFTではコロナ禍以前にもワンマンをやらせてもらってるんですけど、その場所にやっと戻ってこれたな、みたいな気持ちでもあったんです。今の自分たちにはあの当時みたいなメジャー・デビューの追い風とかもないし、これといって新鮮な話題があるわけでもないけれど、あの場所にあれだけの人を集めることができた。そこで「ようやく戻ってきたぞ! ここからまた始まるぞ!」という感じになれたんです。

ショーン:確かに「ついにここまで来た!」というよりは、あくまで通過点という感じでしたね。もちろんライヴ自体にはすごく手応えがあったし、間違いなく成功だったと思ってるんですけど。

ジョニー:うん。ひとつの通過点ではあるんだけど、何かの区切りという感じではなかった気がしますね。ただ、感覚的にはお祭りというか、前々からすげえ楽しみにしてた日ではありました。だから絶対に最高の日になるだろうなとは思っていたし、結果的には想定してた以上に素晴らしい一日になったな、と。もちろんそれはライヴだけじゃなく、打ち上げとかも含めて(笑)。しかもそこで、味園ユニバースっていう新しい目標地点を発表できたのも良かったし。


──その味園ユニバース公演の話に移る前に確認しておきたいんですが、ツアー・ファイナルの場所として新宿LOFTを選んだのは、あの場所を満員にすることで新たなスタート地点に立てる、というような意識からでもあったわけなんですね?

nao:そうですね。実際、「ファイナルどこでやる?」みたいな話は、ツアーが走り出してから始まったんですよ。その中でいろんな会場の名前が挙がってきたり、レコード会社の方にも意見を仰いだりしてきたんですけど、やっぱり最終結論としては新宿LOFTだったんですよね。やっぱり古くからロック・バンドにとっての登竜門として言われてきた場所だし、ある意味わかりやすい場所でもある。で、改めてそこを満員にすることを当面の目標にしながらやってきたわけです。

ジョニー:もう一度あそこでやって、コロナ禍以前にやったワンマンを超えたいっていう気持ちは確かにありましたね。前回のワンマンについても満足はしていたし、あれはあれであの当時なりの最高到達点だった気もするけど、それを超えることによって次に進めるんじゃないかという気がしたし。

ショーン:前回やった時もすごく盛り上がって、お客さんも全国各地から駆けつけてくれてすごく嬉しかったんですけど、そのあとで大変な時期を過ごしてきたわけじゃないですか。だからもう一回、LOFTでいい感じに盛り上がりたい、というのがありましたね。

nao:前回、LOFTでワンマンをやった当時というのは、お客さんも増えつつあって「いい感じで来てるぞ!」っていう実感があった時期だったんですよ。ところがその後、自分たちに限らず誰もが一旦はコロナ禍の影響というのを喰らうことになって。ただ、ライヴが思うようにできない状況下でも、動画サイトなんかを上手く使って名をあげていくようなバンドも結構いたし、そこで焦りみたいなものを感じてた部分も、正直、なくはなかったんですね。もちろん自分たちもそこでいろいろと試行錯誤してきましたけど、基本的には愚直にロックンロールをやり続けてきて…。ただ、本当にあの頃って、どうにかライヴをやれるようになってからも「お客さん、みんなどこに行っちゃったんだろう?」みたいな状況が続いてたし、そんな時期を乗り越えてきたことが自分たちを強くしてくれたとも思っていて。実際、そんな中で居なくなってしまったバンドというのも少なくないし。

──ええ。居なくなってしまったバンドもいれば、あの時期を境にライヴを観に行く習慣が薄れてしまった人たちもいるかもしれません。

nao:そうなんですよね。だから、もちろん以前からずっと観に来てくださってるお客さんもいるんですけど、前回と今回のLOFTワンマンを比べると、結構人が入れ替わってるんじゃないかと思うんです。

──僕自身もそれは感じます。そこでひとつ思うのは、当時と今現在の首振りDollsのお客さんの熱さの違いなんですよ。もちろん前回のLOFTでのワンマンもすごかったけれど、今回はその熱さの種類が違っていたように思うんです。

ジョニー:それは間違いないですね。とにかくお客さんが熱くて、盛り上がりがすごい。

nao:しかもうちのお客さんは、実際のライヴの時だけじゃなく、SNSで告知を始めた時点から熱いですからね。それこそ対バンのライヴをやる時に他のバンドに言われたりするんですよ。「首振りDollsのライヴ告知は、バンドだけじゃなくてファンもやってるのがすごい」って(笑)。「どうやったらああいうことになるんだ?」って訊かれたりします。実際、何がどう作用してそうなっているのかは上手く説明できないんですけど、自分なりに分析すると、首振りDollsのライヴの今現在の規模感に納得してないお客さん、もっとデカいところでやって然るべきだろうと思っているお客さんが結構多いってことなのかな、とは思っていて。

──ええ。だから何かひとつ情報が解禁になると、みんなで拡散に努めてくれる。

nao:ホントにそうなんですよね。だから、みんなと一緒にバンドをやってるような感覚でもありますもん。


──4人目のメンバーというべき人たちがたくさんいるわけですよね。そうした人たちの熱さもすごいですけど、タネも仕掛けもないストレートな2時間のライヴを、中だるみ一切なくやりきってしまうバンド自体もすごいと思います。そして肝心の味園ユニバース公演の件ですが、5月17日にワンマン公演を行なうことがあのLOFT公演の場で発表されました。このライヴ自体、かなり急に決まったんですよね?

nao:そうなんですよ。本決まりになったのはホントにあの3~4日前のことで。変な話、LOFTで何かしら新しいことを発表したいな、というのはあったんです(笑)。で、実は1月に味園ユニバースであったストロベリーソングオーケストラ主催の<怪奇大作戦>というイベントに出たんですけど、あの大好きな会場がなくなってしまうことはすでに決まっていたんで「味園でやるのはこれが最後か…」と思いつつ、MCでもお客さんに対して「ここでワンマンやりたかったけど間に合わなかった。ごめん!」みたいなことを言ったんですね。ただ、閉館が6月末ということは、逆にそれまでにやれる可能性もワンチャンあるんじゃないかと思って訊いてみたところ、仮押さえになっている日があって、そこが空くことがあるにしてもギリギリまでわからないということで。そんな時にマネージャーの高槻君と夜中に飲みながら「これはどうしたもんかね?」みたいなことを言ってたなかで「こうなったら平日でも何でもいいから、決定をもらえる日があったらその日にやろう!」という話になって。そこで、自分たちとあの会場との縁を作ってくれたストロベリーソングオーケストラの座長にも間に入ってもらって、味園ユニバースでどうしてもやりたいという熱い思いの丈を綴ってメールしたところ、その翌日に座長が会場側と直接話をしてくださって、5月17日というスケジュールが出てきたんです。それが決まったのが新宿LOFTでのライヴの数日前だったので「これなら発表できる!」ということになって。だからあそこに至るまで、何回も諦めかけていたし、少なくとも4回は挫折を重ねてましたね。

──そんなにも味園ユニバースに惹かれる理由はどんなところにあるんです?

nao:来てもらったら、見てもらったらわかると思います。首振りDollsがどうしてもそこでやりたい理由を。

ジョニー:もうまさに、唯一無二のステージなんですよ。雰囲気にしろ何にしろ。

nao:ステージの後ろ全体にネオン管が仕込まれていて、それが七色に自由自在にきらめくというか。それがすごくいいんですよね。LEDじゃないので、ステージの後ろのほうに立ってると熱いくらいなんですけど。

ショーン:ドラマーにとっては結構危険なんて話も聞いたことがありますね(笑)。

ジョニー:自分たちとしては、これまで味園ユニバースには<怪奇大作戦>でしか出たことがなくて。それこそコロナ禍の頃はあのイベント自体もなかったし、それがまた復活したこともあって、とにかく自分たちでもいつかあそこでワンマンをやってみたかったわけなんです。

nao:新宿LOFTをどうしても満員にしたいというのと同じように、いつか味園ユニバースでワンマンを、という気持ちが常にありましたね。<怪奇大作戦>に出るたびに「ここでワンマンやりたい!」って叫び続けてきたんです。ただ、こうして実際ワンマンをやれることになったのはこの上なく嬉しいんですけど、ひとつだけ問題があって…。かなりキャパシティ大きいんですよ(笑)。

──言ってしまえば、過去最大規模のワンマンを、敢えて大阪でやることになったわけですよね。

Nao:はい。かなり無謀なことをやろうとしてるのは自分たちでもわかってます(笑)。だから今は、とにかく首振りDollsがあの場所でやるってことを、みんなに知ってもらうしかない。本当に素晴らしい会場だし、あんな場所をこれから作ろうと思っても絶対に無理だろうし、誰かが作ってくれることもないだろうし。味園ユニバースに行ったことがある人も、そうじゃない人も、この先もう二度と観られないものを体験できるはずなんです。自分たちにとっては文字通り「最初で最後の味園ワンマン」になるし、これは俺が将来、自分の生涯を振り返りながら年表を作る時に、絶対に太字で書くはずの大事なことなんです。「2025年5月17日、味園ユニバース・ワンマン」って。

ジョニー:しかもあの雰囲気は、ホントに首振りDollsにぴったりなんですよ。

nao:うん。だから過去に<怪奇大作戦>での首振りDollsを観たことがある人たちは、俺たちのことを味園に似合うバンドだと思ってくれているはずだし、もちろん自分たちでもそう思ってるし。

ショーン:自分たちではそれがわかっているけど、大阪の人たち以外には意外なくらい知られてない場所でもあって、「名前は聞いたことがあるけど行ったことはない」という人が結構多いみたいなんですよ。だから、これまで味園ユニバースを知らずにきた人たちに、その魅力を伝えていかなきゃ、という想いもあるんです。


nao:うん、まさに。マジですごくいいところなんですよ。建物自体がさまざまな時代を見てきたビルという感じ。上層階のほうはかつてホテルだったりもして、なにしろ建物の中に滝があるんですよ!(笑)そんな中にある、かつてキャバレーだった場所、きらびやかなショーが繰り広げられていたステージで、首振りDollsがライヴをやるんです。だからある意味、タイムマシンに乗って違う時代に行くみたいな感じでもあるんだけど、俺たちはそこで自分たちなりの最新型の音楽をやるわけです。なんかそこで、面白い効果が生まれてくるはずだと思うんですよね。

ジョニー:レトロといえばレトロなんだけど、時代感不明みたいな。それこそ昭和の日本映画とか観てると、ヤバい人たちがキャバレーで遊んでいてそこに刑事が乗り込んで来て、みたいなシーンがよくあるじゃないですか(笑)。まさにあのまんまの世界がそこにあるんですよ。ある時代には、まさにいちばん楽しい場所だったはずだし、その場所がまだギリギリ残っていて、そこがなくなってしまう前にライヴができる。自分たちが欲しい雰囲気やきらびやかさはすでにそこにあるわけなので、もう小細工一切無しで首振りDollsのライヴをぶつけていきたいですね。

nao:同時に自分たちとしては、このライヴを、未来を感じられるものにしたいと思ってるんです。自分たちが味園ユニバースでワンマンをやるのが最初で最後になるのは確定だし、あの場所自体、もうすぐなくなってしまう。だけど首振りDollsはまだまだこの先も続いていくわけなので。

──ということは、新曲が聴けたりもするんでしょうか?

nao:約束はせずにおきますけど(笑)、新しい曲はぼちぼち増え始めてますし、次の制作のことも考えてます。それに関する何らかの発表も、当日できたらいいなと思っていて。あと、もうひとつ大事なことがあって。当日は16時開場、17時開演なので、新幹線とかでの遠征を検討中の方は、帰路も余裕で最終に間に合うはずなんです。だから宿が確保できないこととかを理由にして諦めずに、大阪以外のあちこちからも観に来て欲しいですね!

取材・文◎増田勇一
撮影◎木村辰郎

<首振人形大舞踏会>

5月17日(土)
@大阪・味園ユニバース
開場16:00 開演17:00
イープラス:https://eplus.jp/sf/detail/3575360001-P0030005P021001?P1=0175


◆首振りDollsオフィシャルサイト