【ライブレポート】小野大輔「自分の好きなことや自分が伝えたいメッセージ、すべてを詰め込んだツアーになった」

2025年11月2日(日)の高知公演よりスタートした小野大輔のライブツアー<ONO DAISUKE LIVE TOUR 2025 musée>。
ライブタイトルにも冠された『musée』はフランス語で“美術館”を意味し、7thミニアルバムのタイトルともなっている。こちらは、美術館に足を運ぶのが好きで、時間を忘れて延々と鑑賞してしまうという小野自身の趣味とも合致したコンセプチュアルな一枚となっていた。もちろん、今回のライブツアーも“美術館”を想起させるような演出が盛り込まれており、まるでアートを鑑賞しているかのような気分にしてくれるギミックが盛りだくさん。小野らしい遊び心が詰まったツアーとなっていた。
そんな<ONO DAISUKE LIVE TOUR 2025 musée>より、千穐楽となった大阪公演の模様をお届けする。
この日のNHK大阪ホールは、見事に満員御礼。女性のファンのみならず、男女ペアで参加するような来場者も散見され、幅広い層から愛されているということを改めて認識させられる。また、小野といえば12月に入って「Kiss Kiss Kiss」のMVやライブ公演映像がXで爆発的にバズるなど、10年近く前の映像が脚光を浴びている真っ最中。自身はSNSをやらないと明言しているだけに、今回のライブでどういった反応をするのかという点も注目を集めていた。

ライブの舞台は美術館のエントランスをかたどるように、ノーブルなレッドカーペットが敷き詰められた二層構造のステージ。上層と下層をつなぐ豪奢な階段と、アルファベットの“D”が刻印されたボールランプ、そして開場前のスクリーンに投影されたモノクロームのロゴが厳かな雰囲気を醸し出している。開場前のナレーションでは、自身を美術館の館長、ライブの開園をコレクションの公開と表現するなど、世界観の作り込みにも余念がなかった。なお、この日のナレーションを担当したのは、TVアニメ『黒執事』などで小野との長らく共演、コンビを組んできた声優の坂本真綾。なんとも心憎い人選だ。
神秘的な雰囲気のオーバーチュアが流れ、“始まり”を意味する“Chapter#1 Le début”というフランス語がスクリーンに映し出されると、いよいよフォーマルな衣装に身を包んだ小野館長がステージに登壇。「みなさんを芸術と官能の世界にお連れしましょう」という言葉とともに最初の楽曲「シャドウ」の歌唱が始まる。優美な振りつけとともに、ホールの中を蠱惑的な歌声で満たしていく小野。背後のスクリーンには掲げられた右手を描いた絵画が映し出され、間奏のタイミングでだけ妖しく動き回るなど、ホール内には幻想的な光景が広がる。一曲目にして、不思議な世界にトリップしたかのような没入感に支配されたファンも多いことだろう。
息をつかせぬまま、舞台は“~Chapter#2 Musée~”へ。2曲目は2013年にリリースされた6thシングルより、色気がにじみ出た楽曲として人気の高い「Lunar Maria」だ。背後のスクリーンには、宇宙、空、砂漠、海がループするような不思議な光景(※小野はのちのMCで、ジョルジュ・デ・キリコの形而上学的絵画をイメージしたとコメント)が広がり、艶やかさと狂おしさを内包する歌声とともにNHK大阪ホールに幻想的な世界を形作っていく。
余韻も冷めやらぬなか、続く楽曲は2015年にリリースされたアルバム『Doors』より「プルマ・シエロ」。バンドD(※小野大輔のライブにおける、バンドメンバーの呼称)の奏でるアタックの強いビートと、小野による力強い歌唱の融和が生み出すリリカルな空気がなんとも心地いい。欧風の街並み、窓から空を見上げる女性の瞳に映る青空、緑一色の森林といった色鮮やかな光景を切り取った映像もスタイリッシュだ。
4曲目はミニアルバム2ndミニアルバム『DOWN STAIRS』より「Ascending&Descending」。同曲のモチーフとなっているのがマウリッツ・エッシャーの階段のだまし絵ということもあり、スクリーンにはひたすらループし続ける階段の映像が映し出される。明滅する白いライトを背負いながら、胸にダイレクトに刺さってくるようなロックな歌声を響かせる小野。しかし、振りつけにおいてスタイリッシュさやノーブルさを保ち続けているという点は、さすが美術館の館長というべきだろう。
ライブはここから“喜び”を意味するパート“~Chapter#3 La joie~”へ突入。5曲目は、まさにそんな喜びを主題とした「Delightful Days」。ラフな衣装に着替えた小野は、都会の喧騒を彷彿とさせるような耳なじみのいい旋律をバックに、落ち着いた歌声を響かせる。スクリーンに映し出された無機質な街並みは色彩の変化に応じて昼夜の移り変わりが感じられるようになっており、バーチャルなアーバンアートとして独特の存在感を放っていた。
6曲目はゴスペラーズの村上てつやが楽曲提供を行ったことでもおなじみの「DING DONG」だ。海岸沿いでくり広げられる男女のやり取りをバックに、小野は右手を掲げながらリズミカルに歌い上げる。シャープなタッチで描かれた映像とリズミカルな歌声とのシンクロも見事で、さわやかな潮風を感じさせてくれた。
MCでは大阪という土地柄に合わせて、「おおきに!」と満員御礼の感謝を伝える小野。ムンクの“叫び”を意匠として描いたタンブラーを手に取りながら、ムンクの“叫び”は叫んでいる姿を描いているのではなく、(自然を貫く果てしない)叫びに恐れて耳をふさいでいる姿を描いている……と豆知識をかっこよく披露するが、そちらに夢中になりすぎたのか、タンブラーの中身を盛大にこぼしてしまう。
さっそくユーモラスな一面をのぞかせたが、今回のライブツアーのテーマであるアートに対する愛情がそのMCからもひしひしと伝わってきた。サルバドール・ダリやルネ・マグリットといった画家の名前を出しながらも自身が魅了されている“シュルレアリスム”を、現実を超えて夢の世界までいってみようという“超現実主義”だと解説し、「わけがわからないから楽しいと感じて、美術館に行くたびにニヤニヤしながら見てしまう」と自身の体験を交えて分析する。このとき、熱を帯びて楽しそうに語る彼の姿を会場のファンたちもニヤニヤしながら眺めていたのは言うまでもない。また、小野は自身の行動(発言)がシュールになりがちなことにも触れつつ「シュールだなと思ったら、可能性を突き詰めているんだなと思って見ていただければ!」と笑いを誘っていた。
小野は、美術館が多い点も大阪の魅力と感じているそう。過去に仕事で訪れた際には、プライベートの時間を使って『日本国宝展』を観に行ったときの思い出を語った。“七星剣”などの国宝を眺めつつ「国宝や……」と感銘を受けていたようだが、とりわけ国宝だと感じたのは“津田健次郎さんによるナレーション”ともコメントし、ひと笑い取っていく。ちなみに小野は、吹田市にある国立民族学博物館において音声ガイドを担当しており、「僕の声が(そういったスポットに)行くきっかけとなってくれたらうれしいです」とも感慨深げに語っていた。
“喜び”を意味する同セクションをMCで盛り上げつつ、続けて披露したのは「モナリザ」。作詞・作曲をゴスペラーズの安岡優氏が担当したことでも注目を集めたミニアルバム『musée』の収録曲だ。そのパフォーマンスには歓喜の表情がにじみ出ていた。その理由は、直前のMCからもよくわかる。コロナ禍に無観客で歌っていたときの心境をふり返りつつ、芸術作品と同様に自身の(アーティストとしての)活動はお客さんがいてこそのものだと語っていた。無観客のころは「なんのためにパフォーマンスをしているのかわからなくなった」とかつての苦悩をも吐露していた小野だが、だからこそ「自分の楽曲は何世紀も先には残っていないかもしれない。けれども、みなさんが今ここで微笑み返してくれれば満足です」とコメント。モナリザのように微笑みながらパフォーマンスを披露する姿には、まさに喜びの感情があふれていた。

バンドDの演奏パフォーマンスを挟みつつ、ライブは中盤戦の“Chapter#4 danse sauvarge”へ。それまでの鑑賞を主眼としたライブからは一転、ダンサブルなナンバーでひたすら盛り上がっていくセクションだ。先陣を切ったのは『musée』の収録曲である「OVERLAY」。スクリーンにも絵画ではなく、スプレーアートで描かれるような文字(歌詞)が映し出され、ライブの趣向が大きく変わったことがひと目でわかる。“メメント・モリ”(※自分がいつか死ぬことを忘れてはならないというラテン語)というメッセージ性の強いワードをラップという形で内包した同曲だが、小野はTeamD(ダンサー陣)を従えながらクールにパフォーマンスしてみせた。
そして、ここからはファン待望のダンスチューンメドレー。「熱烈ANSWER」「Kiss Kiss Kiss」「ROSA~Blue Ocean~」「だいすき」……と小野を代表するようなナンバーがギュッと集約されており、曲の並びをみただけでも盛り上がりが伝わるような超豪華なひとときとなった。ステージにはマスコットキャラクターの“もすくん”も登場し、客席のボルテージも一気に跳ね上がっていく。
メドレーのなかでも圧巻だったのは、「Kiss Kiss Kiss」。TeamDが身体でハートを作るなど、ステージをキラキラと盛り立て、会場からは黄色い悲鳴も上がる。だが、間奏に突入した瞬間に舞台袖にはけていたはずのもすくんがバズーカを持ってステージに乱入。彼はSNSで同曲がバズっていることに嫉妬していたそうで、小野につかつかと歩み寄ると容赦なく至近距離でバズーカを発射。小野は凶弾を浴びて倒れてしまう。しかし、会場全体を巻き込んだ「小野D」コールと投げキスのパワーによって復活! 不死鳥のようにパワフルな歌声を響かせる。
──この流れは『Kiss Kiss Kiss』のMVでもおなじみだが、ライブ直前になってから、バンドマスターでギター担当の渡辺拓也がSNSでバズっていることを鑑みてアイディアを出し、ここまで豪華な演出になったのだとか。また、その無茶ぶりに応えたマニピュレーター・池田公洋の功績も大きかったことがのちのMCで語られていた。同曲については小野も「なぜバズるのか、誰か教えてほしい。でも、誰も知らないんだろうね。だからアートだっていうんだよ」とコメント。“わけがわからないけれど楽しい”という、自身のシュルレアリスムの見方とも通じる部分がバズったことの根源にあると冷静に分析する。彼としては「ROSA~Blue Ocean~」や「だいすき」もバズってほしいという想いがあるそうで、とくに「だいすき「は「作詞をしているのでバズってくれたら(印税的な意味でも)うれしい」と生々しいコメントで笑いを誘っていた。
ライブも終盤戦へと入り、ここからは “~Chapter#5 un autre~”。フランス語で“もうひとつの”という意味があるタイトルからもわかるように、これまでの流れとは趣の異なる、アニメに紐づいた楽曲を集めたセクションだ。まずはTVアニメ『怪物事変』のオープニングを飾った「ケモノミチ」。ラテンの旋律が耳心地のいい楽曲だからこそ、バンドDの野口仁史によるドラムや、精密な演奏でリズムを支える篠崎哲也のベースがしっくりと耳になじむ。スクリーンに映し出された一筆書きの鹿も、小野が鹿と並んで写っていたシングルのジャケットを彷彿とさせる映像で、ニヤリとしたファンも多かったのでは。
11曲目は透明感と疾走感にあふれる「モノクロのキス」。ヴィジュアル系ロックバンド・シドが歌ったTVアニメ『黒執事』のオープニングテーマをカバーする形で披露。白と黒が交差するチェッカー状の幾何学模様をバックに、スタイリッシュでクールな歌声を響かせる。バンドDの屋台骨であるキーボード・宇田隆志による怜悧な演奏も味わい深い。楽曲のラストに小野がうやうやしくステージに膝をつくとホールには万雷の拍手が鳴り響いた。パフォーマンス後のMCでは、自分の音楽を好きで聞いてくれている人がいるということが幸せだと噛みしめる小野。「星の数ほど声優がいるなかで“小野大輔がいい”なんて言ってくれる変わった人たちのおかげで千穐楽を迎えられる」と深々と頭を下げた。言い回しこそくだけているが、これも会場にいるすべての来場者を“チームD”のメンバーとして信頼しているからこその言葉だといえる。

12曲目は小野が初めてアニメのオープニングタイアップを担当した、TVアニメ『学園ベビーシッターズ』のOP主題歌「Endless happy world」。華やかな万華鏡の模様をバックに、満面の笑顔で手を振りながら歌う小野の姿は“幸せの化身”そのもの。このレポートを執筆している筆者の胸中も不思議と幸せな気持ちで満たされていたのだが、もしかするとこれがMCでも触れていた“わけがわからないけれど楽しい”ということなのかもしれない。
そして、ライブ本編のラストを飾ったのは、『ヤマトよ永遠に REBEL3199 第二章 赤日の出撃』のエンディング主題歌でもある「Reach for the Star」。星々が輝く銀河を背に切々と歌い上げるステージはエモーショナルというあまりにも壮大。「何億光年 星の彼方 未来へと手を伸ばそう」という一節にも、世代を超えて継承されていく旅路を想起させる声の力と想いがあふれていた。
「Reach for the Star」を歌い終わった小野は舞台袖へと退場するが、場内には間髪入れずにアンコールを求める小野Dコールが鳴り響く。急ぎラフな格好に着替えて舞台に再登場した小野は、「あんなにすぐ(アンコールが)来ると思わなかった! 裏でパンイチで聞いていました」と驚きを露わにしていた。このときステージには、~Chapter#4 danse sauvarge~で大活躍だったもすくんも再び登場し、手にしたバットを使って小野と息の合ったコントをくり広げる。もすくんの“ドリル”や小野の小気味いいツッコミが見られるなど、新喜劇に慣れ親しんだ大阪のファンにとってうれしいサプライズだったことだろう。
予想を超えてきたのはそれだけではない。アンコールの1曲目で披露されたのは、TVアニメ『しろくまカフェ』で小野が演じているラマのキャラクターソング「ラマさんのラママンボ」。意外な選曲に会場からもどよめきが巻き起こる。ノリノリのステップを踏み、ダンサー陣とのワチャワチャとしたやりとりを挟みつつもユーモラスな決めポーズをとる小野の姿も非常に楽しげで、またそれまでキレキレのダンスを披露していたTeamDの面々がゆるゆるで牧歌的な振りつけで楽しいステージを構築している点も新鮮だった。
改めて今回のライブツアーを「自分の好きなことや自分が伝えたいメッセージ、すべてを詰め込んだツアーになった」と振り返る小野。喜びを露わにする一方で、これまでに歩んできた活動のなかでの悲しい出来事や別れも忘れないようにしたい……そんな想いを込めて、アンコールの2曲目には自身の原点である「雨音」を選んだ。遠い所へ行ってしまった大切な人を想った珠玉のバラードを、切なく儚く、けれども力強く歌う姿は圧巻だった。
余韻を残しつつも、アンコールの3曲目で歌われたのは「ヒーロー」。ステージ上にはダンサーDやもすくんも勢ぞろいするという豪華なパフォーマンスで、会場からの歌声もものすごい大音量へと膨れ上がっていく。
そして、ライブのフィナーレを飾ったのは「canvas」。タイトルそのままにスクリーンをキャンバスに見立てて、小野の歌声とともに画面の中にはさまざまな色が広がっていく。まるでモノローグのように心に染みこんでくる歌声は、やがてサビで力強い色合いへと昇華され、ホールに集った小野を愛するチームD全員の力を借りながら、見事な絵を描き出してみせた。最終的にスクリーンの中に、小野のシルエットが浮かび上がるという仕掛けもまた美しい。
芸術性も、ライブとしての楽しさも、そして胸を打つような感動も、MCで小野自身が語ったようにあらゆる要素を内包していた<ONO DAISUKE LIVE TOUR 2025 musée>。どの要素がファンをもっとも夢中にさせていたのかは筆者にも想像がつかないが、シュルレアリスムのように“よくわからないけれども楽しい”という気持ちが湧くライブだったのは間違いない。そして、最終的には多幸感に満たされる──そんな小野のライブならではの魔力がこの日のライブにも宿っていた。はたして、つぎはどのようなステージを見せてくれるのか、ぜひとも楽しみにしたい。
文◎原 常樹
写真◎草刈雅之
■大阪公演セットリスト
~Chapter#1 Le début~
M1 シャドウ
~Chapter#2 Musée~
M2 Lunar Maria
M3 プルマ・シエロ
M4 Ascending&Descending
~Chapter#3 La joie~
M5 Delightful Days
M6 DING DONG
M7 モナリザ
~Chapter#4 danse sauvarge~
M8 OVERLAY
M9 (メドレー)熱烈ANSWER → Kiss Kiss Kiss → ROSA~Blue Ocean~ → だいすき
~Chapter#5 un autre~
M10 ケモノミチ
M11 モノクロのキス(カバー)
M12 Endless happy world
M13 Reach for the Star
ENCORE
EN1 ラマさんのラママンボ
EN2 雨音
EN3 ヒーロー
EN4 canvas







