【インタビュー】「BLACK SPIDER」誕生の裏側…LINDBERGが歩んだ葛藤と更新の記録

LINDBERGのニューシングル「BLACK SPIDER」が2025年10月8日にリリースされた。「Fresh」や「~種~」など、配信リリースやライブ会場限定リリースはあったものの、一般で流通するCDとしてリリースされるのは、「LIVE your LIFE」以来、実に約16年ぶりである。「BLACK SPIDER」は満を持しての発表となり、LINDBERGの核となる魅力が詰まった作品となった。
2025年は<INDBERG 36YEARS TOUR “もっともっと愛しあいまshow 2025!!!!”>、<HOP STEP JUMP 2025 in 新横浜>、<Billboard Live Tour>、そして<LINDBERG LIVE TOUR 2025「BLACK SPIDER」>と、ライブ活動が活発化しているタイミングでもあり、この新作はLINDBERGの最新の旗印のような存在になりそうだ。
表題曲の「BLACK SPIDER」はネガティブな要素をポジティブな要素へと変換するパワーを備えたナンバー、カップリングの「Stand By Me」は、メンバー4人の体温までもが伝わってくるヒューマンな楽曲だ。このシングルは、LINDBERGの最近の活動の充実ぶりを象徴している。メンバー4人に、最新作について、そしてこの曲名がツアータイトルになっているツアーについて、話を聞いた。
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──最新シングルの「BLACK SPIDER」は、16年ぶりの新作CDです。このタイミングでのリリースとなったのは?
渡瀬マキ(Vo):ここ数年、“だすだす詐欺”みたいでしたよね(笑)。CDをリリースしたい気持ちはあったのですが、タイミングがうまく合わなかったり、行動が伴わなかったりして、ようやく実行が伴ったのが、このタイミングだったということですね。スタッフからの、「早く出せ」という強いプッシュもあり(笑)。
──最近のライブ活動の勢いも、このシングルに詰め込まれていると感じました。
小柳”cherry”昌法(Dr):マキが元気になってきて、バンドとしてもやれることが広がってきたタイミングで、新曲をリリースできるのは良かったなと思っています。
平川逹也(G):「BLACK SPIDER」は、もともとは『BARKUP TV』(テレビ東京系 / TVQ九州放送)という番組のエンディングテーマ(2023年9月)として使われていた曲なんですが、そのままCDとしてリリースすることもなく、放置されていたんですよ。そこからどんな流れになったんだっけ?
小柳”cherry”昌法:せっかく番組で新曲が使われたんだから、ライブでもやろうじゃないかということになり。
平川逹也:ライブでやってみたら反応も良く、これはシングルとしてリリースすべきなんじゃないかということになりました。CDとしてリリースするならば、もう1曲ほしいということになって、それぞれ書き始めたのがおおよその経緯ですね。
──その結果、平川さんが作曲した「Stand By Me」をカップリングにすることになったわけですね。
川添智久(B):そうですね。でもそれからレコーディングするまでにまた時間がかなり経過して…(笑)。
渡瀬マキ:そうだよね。だって、この間だもんね、レコーディングしたのは。
川添智久:当初は去年のツアーの時にリリースして、今年春のツアーの前に出そうと計画していたんですが、間に合いませんでした。

──完成に至るまでにかなり時間がかかったわけですね。そもそも、「BLACK SPIDER」はどんなきっかけから生まれた曲なのですか?
川添智久:10年くらい前に録音してストックしておいたものがあったんですよ。『BARKUP TV』のタイアップの話が決まり、この曲がいいんじゃないかということになり、データが残っていたので、リズムだけ採用して、そこから作り変えて完成させました。
──作曲は平川さんですが、メロディはどんなきっかけから生まれたのですか?
平川逹也:LINDBERGの新曲を作ろうと思って、作った曲です。前作の「~種~」がミディアムの曲調だったので、疾走感やスピード感を意識して、ライブをイメージしながら作りました。
──歌詞はその段階であったのですか?
渡瀬マキ:テーマは全然違うけれど、「ぐるぐる巻き」というフレーズは前からありました。
──ネガティブな状況をポジティブに変えていくパワーを備えた楽曲だと感じました。精神的に追い詰められている、閉塞感のある状況を逆にバネにして、打破していく歌詞も見事だなと感じました。
渡瀬マキ:おっしゃる通りですね。まだたまに喉が閉まってしまう症状が出ることがあり、通院が続いているんですが、私の中では診察室の中にすっぽりはまってしまっているような感覚が長年あるんですよ。そのことをテーマにしつつ、でもネガティブな作品で終わらせず、自分の希望も含めて、ここから脱出したいんだという気持ちを込めて書きました。
──蜘蛛に自分の願いを託しているところもあるわけですね。そもそも蜘蛛をモチーフにしたのはどうしてですか?
渡瀬マキ:その待合室に熱帯魚がいるんですよ。当初はその熱帯魚の名前を使おうと考えていました。映画『ファインディング・ニモ』に出てくる、ニモを助けてくれる「ギル」という名の、傷のついたかっこいい魚。
小柳”cherry”昌法:かっこいいイメージがあったんだ。
渡瀬マキ:そう。でも精神的に参っている時って、幻覚じゃないけど「足元に蜘蛛が這っているような感じがする」って身近な人から聞いたことがあって、熱帯魚よりも蜘蛛がいいかなと思って変えました。


──“BLACK SPIDER”って、ポップな響きとロックな響き、両方を兼ね備えていますよね。
渡瀬マキ:“PINK SPIDER”がいいかなとも思ったんですが、すでにhideさんの曲にありますからね。蜘蛛って、普通は黒いじゃないですか。でもあえて“BLACK SPIDER”とすると、メロディへの乗り方も良かったので、これがいいなって。
──確かに、渡瀬さんが「BLACK SPIDER」と歌うところ、とても気持ちいいです。蜘蛛というモチーフも絶妙だと思いました。「見えない羽をはばたかせ」「糸を切っちゃいな」などのフレーズで表現しているところも見事です。それに蜘蛛って、もう少しで飛べそうな感じもします。
渡瀬マキ:じゃあ、ギルにしなくて良かった(笑)。
──バンドサウンドも疾走感があって、実にエネルギッシュです。それぞれどんなイメージで演奏したのですか?
小柳”cherry”昌法:ドラムは10年前のレコーディングしてストックしておいたものを採用しているので、今から10歳ぐらい若い頃の自分が叩いているんですよ。しかも、その当時、“10歳ぐらい若返ってやろう”という意識で演奏していたので、今よりも20歳ぐらい若い気分の演奏になっていると思います(笑)。今聴いても“自分が叩いている”と思えたので、10年前の音源を使うことには抵抗はありませんでした。勢いのある曲なので、前ノリを意識して演奏した記憶があります。この曲をツアーでやるとなったら、20歳ぐらい若返んなきゃいけないんで、大変ですが、演奏していて盛り上がる曲なので、やるのが楽しみでもありますね。
川添智久:ベースも同じですね。その時はドラムとベースだけみたいな状態で作ったんですよ。そのテイクを使っているので、10年前の自分の演奏ですね。新たに演奏もしてみましたが、この曲には当時の熱量のある演奏がふさわしいと判断しました。
──ギターサウンドが全開の曲で、リフやギターソロも印象的です。ギターはどんな意識で演奏したのですか?
平川逹也:シンプルに演奏するのがいいかなと思っていました。構成に関しても、いろんな楽器が入っている曲ではないですし、ライブでもそのまま違和感なく演奏できる曲ですね。最終的には、若い頃のLINDBERGの速い曲とはかなり違う印象の曲になりました。ギターの音色も、重みがありつつも、今の感じになっていますし、「今のLINDBERGはこういう感じだよ」と提示できる作品になったと思っています。
──どんなイメージで歌ったのですか?
渡瀬マキ:必死で歌っていました。パワーが必要でした(笑)。
平川逹也:それがいいんですよ。ロックな曲だし、余裕で歌う曲じゃない。


渡瀬マキ:ライブで歌うと、1曲で5曲分くらいのパワーを使います(笑)。キー設定も、上の部分が自分のギリギリのところなんですよ。そして、スピードが速いので、簡単そうに聴こえるかもしれませんが、結構難しかったです。
──先ほど、小柳さんと川添さんの「若返って演奏した」という話にも繋がりますね。自分の限界に挑む、という曲なんですね。
渡瀬マキ:そういう意味では、本当に挑んでいます。休みながら、録った曲ですよね。必死で歌って、休んで、「じゃあ、もう1回録ろう」みたいなことを繰り返していました。
──4月25日の大手町三井ホールのライブでも、アンコールの1曲目でこの曲をやり、観客も熱く盛り上がっていました。客席の反応など、何か感じることはありますか?
渡瀬マキ:全国どこに行っても、この曲を演奏する時に照明が赤くなるんです。自分が抱いている曲のイメージも赤と黒みたいな感じだから、照明さんも同じようなイメージがあるのかもしれないですね。
──赤って、情熱とか燃えたぎる血のイメージがありますよね。
渡瀬マキ:多分、そういうイメージなんでしょうね。そういう世界観ということもあり、ファンの人も入りやすい曲になったんじゃないかと思います。
──聴いている人を鼓舞するパワーも備えた曲ですが、ストレートに応援する曲とは違いますよね。
渡瀬マキ:そうですね。今は自分自身が元気になれない時もあり、昔とは状況が違うので、歌の感じも違うものになりますよね。こうやって吐き出すしかなかったし、この曲を作って歌うことによって、自分自身が救われるところもあるんですよ。自分の中だけで溜め込んでいると、結構苦しいですから。
──聴く人だけでなく、自分自身も鼓舞する曲ということですね。カップリングの「Stand By Me」はヒューマンなテイストが魅力的です。歌声も楽器の音色もとても温かくて染みてきました。イントロとアウトロも広がりがあって、アンビエントなテイストもあるし、全体を通して、空が見えてきそうなところもいいですよね。
渡瀬マキ:この曲、リズム録り、早かったよね。
小柳”cherry”昌法:2~3回だったかな。
──さっきカップリングの曲を作る意識で制作したとのことでしたが、何かイメージはあったのですか?
平川逹也:ピアノのループから作った曲ですね。この曲もライブを意識した曲です。「BLACK SPIDER」とはまた違った感じで、楽しんでくれたらいいなあという気持ちはありました。

──最後は、客席も一緒になってシンガロングになりそうですよね。
平川逹也:そうなったらいいなというイメージはありました。ピアノで作って、デモテープも録ったんですが、最初はしっくりこなかったんですよ。自分がイメージしていたものと違う感じになったぞと思い、シンプルなんだけど、広がりのある感じに作り直しました。リズム隊もU2みたいな感じ。洋楽的なテイストのあるものになりました。
──アンビエントなテイストもあって、聴き手がいろいろと想像しながら聴ける余白がありますよね。
平川逹也:ピアノも一切やめて、大きく方向転換して、ギター中心で作り直しました。ギターも全編同じようなアルペジオがイントロからサビまで一貫して流れている構成。それで成立するならば、余分な要素はない方がいい。ベースも最初は違う路線で弾いてもらったんですが、シンプルな方が入りやすいかなと思って、変えてもらいました。ドラムも最初は打ち込んでもらって、イメージに合うものにしてもらって、ドラムが決まったら、また、他の楽器も変えていき、という作業でした。そうやって作っていくと、どうしても時間がかかってしまうという(笑)。
──入念に時間をかけて作ったことによって、深みが加わったのではないかと感じました。
平川逹也:今っぽい作り方というか、メンバーとデータをやり取りしながら変えていき、イメージに近づけていく作業でした。
──リズムに関してはどんなイメージで演奏したのですか?
川添智久:いろいろと考えつつ、試しながら、という感じですね。やり取りをする中で、だんだん固まっていきました。
小柳”cherry”昌法:僕は歌のメロディを聞いて、サビのところのスネアは2拍と4拍に入るのは違うなと思ったので、あえて外して違うパターンに持っていきました。いろいろとやり取りしたからこそ、冒険ができたと思いますし、面白く作ることができました。
──渡瀬さんは「Stand By Me」の歌詞を書くにあたって、どんなことをイメージしていましたか?
渡瀬マキ:最初はもっと、今の世の中のこと、例えば「戦争」「AI」「大気汚染」とか具体的に書いていたんですよ。そこで自分とどうやって結びつけるのかを考えていたら、結局は「愛」なんだよなという結論に達しました。人間はひとりでは生きられないし、誰かと一緒に生きていくんだな、愛が大切なんだなと思い、もう少しわかりやすく身近なものに置き換えながら書いていきました。
──「太陽が登れば 新しい僕になる」というフレーズ、とてもいいですね。
渡瀬マキ:以前、「POWER」という曲を書いたんですが、「POWER2」みたいなことが書きたかったんですよ。世の中のことを言いつつも、愛のパワーについて歌う、みたいな。
──フレンドリーな歌声が印象的です。話しかけるような口調で歌っているところもありますよね。
渡瀬マキ:ラップまでは行かないけれど、語りかける感じは意識しました。キー設定もいろいろなものを試しました。家でいろいろなキーで歌ってみて、どういう聞こえ方がいいんだろうって、選べたのが良かったですね。最初は、もうちょっとキーを上げて、サビはもう少し優しく歌う感じだったんですが、いろいろなキーで歌ってみて、これがいちばんしっくりきました。
平川逹也:テンポもいろいろ変えてみて、イメージに合うところを探していきました。最終的には、当初のものよりも少し遅くなったのかな。
川添智久:歌が乗るとニュアンスが変わるので、そこでまたテンポを換えたりしました。でも、歌があるほうが演奏しやすいですよね。昔は、歌詞ができていない状態で演奏して、完成してから、「こういう歌詞だったのか!」と思うこともありました。それぞれの歌や演奏を聴くことで、演奏の方向性を固めやすくなりますが、やり直すことも多くなるので、時間はかかりますね。この曲もなんだかんだで、半年ぐらいかけました。
平川逹也:ギターソロもなかなか決まりませんでした。
渡瀬マキ:激しく弾いたり、抑えめで弾いたり、いろいろやったよね。
平川逹也:どういうギターがいいんだろうって、見つけるまでにかなり時間がかかりました。ベラベラ弾くのも違いますから。最終的にはリズムを意識してカッティング中心に演奏し、リズムをプッシュするような感覚のギターがしっくりきました。

──じっくり時間をかけて細部までこだわることで、今のLINDBERGの作品になったわけですね。シングルジャケットのイラストとロゴもポップかつロックかつキュートです。
小柳”cherry”昌法:昔、LINDBERGの作品のデザインをやっていただいていたデザイナーにお願いしました。いまや世界というフィールドで頑張っている方なのですが、以前、同じ事務所に所属していました。LINDBERGがブレイクした時に、LINDBERGのデザインをしたことによって彼の認知も広がったみたいで、「LINDBERGのおかげです」と今でも言ってくれて、よくしてくれています。今回も「僕にやらせてください」と言ってくれて、素敵なデザインのジャケットになりました。
──シングルの曲名がツアータイトルとなった<LINDBERG LIVE TOUR 2025「BLACK SPIDER」>は、どんな感じでやっていきたいですか?
川添智久:今回のシングル曲を中心とすることで、今までとは違う見せ方になる気がしています。ちょっと大人っぽくなるのかな。新たな部分を楽しみながら、各地を回っていきます。
小柳”cherry”昌法:今回のツアーに合わせて、ステージの後ろの幕も作ったので、観た目も楽しみにしてほしいですね。カラーやロゴのイメージも重要だと思っているので。演奏に関しては、重厚感がありつつも、ポップで、勢いのある感じでやれたらと思っています。10歳から15歳は若返ったような演奏をしたいですね。
──若返った演奏をするためのポイントは?
小柳”cherry”昌法:ペース配分をしっかりすることですね。ツアーって、最初はペース配分がわからないから、身体がきついんですよ。手を抜くわけではありませんが、緩急をつけて休むところは休みながら、いいバランスで演奏できたらと思っています。まだ、セットリストが確定していないのですが、もしかしたら、休憩するタイミングがない可能性もあるので、その場合は頑張るしかないですね(笑)。
渡瀬マキ:嫌がらせのように休める時間、作らないよ(笑)。
平川逹也:僕もみんなと一緒なんですが、あとは1曲1曲の精度を上げたいという気持ちが強いです。まずは音源の再現をしっかり出来た上で、ライブならではの要素をプラスできたらと思っています。
渡瀬マキ:新曲があることによって、古い曲、最近の曲、今のLINDBERGの曲、いろいろと演奏出来るので、「今の我々はこうですよ」みたいなところも表現できるんじゃないかな。皆さん、楽しみにしていてください。
平川逹也:コロナ以降、音楽業界全体でライブの動員が下がっていましたが、最近、また上がっている中で、LINDBERGも精力的にライブ活動を行っています。いったんはリタイアしていたけれど、戻ってきて一緒に盛り上がってくれている人たちもいるんですよ。そういう姿を見ると、とても嬉しいですし、さらに多くの人に戻ってきてほしいですね。今回のシングルやツアーがそのきっかけになったらと思っています。
文◎長谷川 誠

New Single「BLACK SPIDER」
2025年10月8日(水)発売
WAGE-12011 1,320円(税込)
1.BLACK SPIDER(作詞:渡瀬マキ / 作曲:平川達也)
2.Stand By Me(作詞:渡瀬マキ / 作曲:平川達也)
3.BLACK SPIDER(instrumental)
4.Stand By Me(instrumental)

<LINDBERG LIVE TOUR 2025 「BLACK SPIDER」>
2025年10月10日(金)HEAVEN’S ROCKさいたま新都心 VJ-3
2025年10月12日(日)新潟GOLDEN PIGS RED STAGE
2025年10月17日(金)なんばHatch
2025年10月19日(日)岡山IMAGE
2025年10月25日(土)福岡DRUM LOGOS
2025年10月26日(日)広島LIVE VANQUISH
2025年11月1日(土)神戸VARIT
2025年11月3日(月・祝)DIAMOND HALL
2025年11月7日(金)Zepp Sapporo
2025年11月9日(日)帯広MEGA STONE
2025年11月18日(火)Zepp Haneda







