CASBAH、新作EP『ETERNAL SLAVES』で示す“らしさ”と“新しさ”の共鳴

去る8月、国内屈指の老舗スラッシュ・メタル・バンド、CASBAHが『ETERNAL SLAVES』と題された新作EPをBandcamp限定にて配信リリースし、幅広い年齢層のリスナーから反響と注目を集めている。実に40年を超える歴史を持つこのバンドは、過去には活動停止や再集結などを経ているが、現在はTaka Hatori(Vo)、Ryo Murayama(G)、Koichi Mitani(B)、SHU(Dr)という布陣も安定した状態にあり、若手には太刀打ちのできない説得力と切れ味を併せ持ったライヴを武器に、音楽的進化を目指し続けている。
今回リリースされた『ETERNAL SLAVES』には全4曲が収録されているが、その各曲に共通するのは“らしさ”と“新しさ”が共存していることだ。つまりCASBAH然としていながら、ありそうでなかった曲ばかりが詰め込まれているのだ。彼らは決して多作なタイプのバンドではなく、歴史の長さに対してオリジナル・アルバムの枚数はとても少ない。ただ、それは彼らが“らしさ”だけで勝負してこなかったからこそでもある。作曲面の要であるギタリストのMurayamaは次のように語っている。

「新譜を出さずにいてもCASBAHとしての活動自体は楽しく続けられていたから、新しいものを作るということに対して少し距離を置いていたところもあったし、本当にそれが必要なのか、という疑問もあった。ただ、すでに前作アルバムの『REACH OUT』が出てから7年経っているだけに、新曲を作ろうじゃないかという話も当然のように出てきて、そこで自分としては、昔からやってきたことを繰り返すんじゃなく、自分でも新鮮だと思えるものを捻り出したかった。だからこそ曲作りのハードルが高くなった」
彼はさらに「過去と同じようなものを出せばいいならば、それは簡単にできる。ただ、そうなってしまったら、もはやそれはCASBAHではないと思う」とまで言い、「だからこそ新鮮なものを作りたいわけだけど、これほど長くやっていると完全に新しいものを捻り出すのは容易なことじゃない。そこが一番難しかったし、だからこそ実際にこのEPを完成させることができた時は本当に嬉しかった」と喜びを口にしている。そしてフロントマンであるHatoriは、いわゆるフルサイズのアルバムではなく、全4曲収録のEPというサイズ感が功を奏したことを認めている。
「曲数が少ないからこそ集中できやすかったというのもあった。フル・アルバムを作ろうということになっていたら無理だったかもしれないし、諦めていたかもしれない。4曲にしようと決めた時点でMurayamaの曲作りのスイッチが入ったようなところがあった。とはいえ、実はかなり前から手を付け始めていた曲もあって、今回ミュージック・ビデオを撮った「Here To Stay」についてはヴォーカルを4パターンぐらい作り替えながら練り込んでいったものだったし、これほどストレートな曲でありながら、当初は7分ぐらいの長尺な曲だった。そこでどんどん削ぎ落としていった結果、この形になっているんです」
自分たちにとって新鮮なもの、刺激的なものを形にするうえで効果的だったのが、アイディアを次々と足していくことではなく、引き算の発想だったというのは興味深い話だ。また、彼らは今作において、これまでのCASBAHにはなかったレコーディング方法に挑んでいる。いわゆるベーシック・トラックが、いわゆる一発録りになっているのだ。Murayamaは、その経緯について、次のように説明している。
「実は他にやっているバンドで一発録りをする機会があって、その際にグルーヴ感がすごくいい感じで反映できることを実感できたんです。音をひとつひとつ重ねていくやり方だと、どうしてもそれが出にくいというのを常々感じていたし、今現在のCASBAHの勢い、バンドとしての一体感みたいなものを録るうえでは、そのやり方が効果的じゃないか、と。そこである時、たまたまスタジオで時間が空き時間ができた際に、昔やっていた曲を一発録りしてみたところ、それがかなり上手くいって。もちろん一発録りとはいっても、グルーヴを求めたいベーシックな部分だけを一発で録って、その上にオーヴァーダブを重ねて構築していく形にはなるんですけど、それによって“3人が一緒にいる感”を音に落とし込むことができたし、確実にこれまで録ってきたものとは違うものになったと思う」

この発言を受け、Hatoriもまた「ライヴでのグルーヴ感を何故スタジオでは出せないのかというのが前々からの悩みどころのひとつだったし、今回はそれを解消することができた」と言い、ベーシストのMitaniも「全員が同時に取り組むことで、何か少しでも疑問が生まれたら、その場で話し合いながら善後策を即決することができた。そういった判断の早さに繋がったのも良かったと思う」と語っている。ある意味、彼らはここにきてついに自分たちにもっとも似つかわしいレコーディング方法を見つけたのかもしれない。
また、Mitaniは、バンド内最年少でCASBAHでの活動歴ももっとも浅いドラマーのSHUについて「現在のCASBAHをまとめているのは、実は彼だと思う。SHUがバンドを支えてくれている」と言い、Hatoriもまた「彼はCASBAHの過去をリスペクトしつつ、今現在のことを踏まえながら、絶妙のバランスを考えてくれている」と発言している。SHUの持つ、3人とは世代感の異なった視点、ある種の客観性といったものが、現在のCASBAHにおけるケミストリーのあり方を、過去とは異なったものにしているようだ。

実のところ現在のCASBAHは、往年のような頻度でツアーを繰り返すような状況にはない。ただ、それだけに1本1本のライヴがいっそう重い意味を持つようになっていることも間違いない。そしてこの9月13日から15日にかけての3日間、彼らは、盟友と呼ぶべき関係にあるRAGING FURYとタッグを組み、さらに各公演で異なったゲスト・バンドを招く形での東名阪ツアー<BUILT TO LAST JAMS 2025>を行なっており、9月15日の東京公演では、すでに移転の決まっている目黒・鹿鳴館のステージに立つ。もちろんその先にもライヴは控えているが、是非この機会に、長い歴史を飛び越えながら明日に向かい続けているCASBAHの現在に触れてみてはどうだろうか。
取材・文◎増田勇一
撮影◎Go Sato

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