【レビュー】クイーン、『オデオン座の夜~ハマースミス1975』の魅力
クイーンが1975年のクリスマス・イブにロンドンのハマースミス・オデオン(現:イヴェンティム・オデオン)で行ったコンサートのDVD/Blu-ray『オデオン座の夜~ハマースミス1975』が11月20日にリリースされた。
◆クイーン画像、映像
クイーンときけば口髭に短髪のマッチョ姿のフレディ・マーキュリーを思い浮かべる方も多いと思うが、ここでは少女マンガから抜け出してきたような貴公子然とした若き彼らの姿を見ることができる。この時のフレディは29歳。後年のライブではキーを下げているが、ここではスタジオ盤とほぼ同じキーで歌っている。特筆すべきはその映像の美しさ。1コマずつ丁寧にブラッシュアップするという気の遠くなるような作業を経て編集された入魂のレストア映像。長らくノイズ混じりの粗悪なブートレッグ盤を見慣れてきた目には驚愕に値する程のキレイさ。さらにサウンドも新たにリミックスされ、音のひとつひとつがくっきりと浮き上がり実にクリア。ここまで修復できる最新の技術に感謝!大満足の完成度だ。
■1975年末時点のクイーンの英国におけるポジション
さて、このコンサートは1975年11月14日にスタートしたオペラ座の夜UKツアーの最終公演として行われたもの。この年のハロウィンにシングル「ボヘミアン・ラプソディ」が発売され、クイーンにとって初めての英国チャート1位を獲得。11月21日にリリースされたアルバム『オペラ座の夜』もチャート最高1位となる大ヒット。この時の彼らは前年に「キラー・クイーン」のヒットこそあったが、まだまだデビュー3年目の新人バンド。このシングルとアルバムでようやくトップ・アーティストの仲間入りを果たした。
この時期のロンドンで最も大きいコンサート会場が10000人以上収容のウェムブレイ・アリーナとアールズ・コート。ザ・ローリング・ストーンズやレッド・ツェッペリンといった大物アーティストはここでやっており、ホール・クラスで最も大きい会場が3500人収容のハマースミス・オデオン。つまり彼らはイギリス国内で2番手クラスの会場でヘッドライナー公演を行える程までに成長していたのだ。しかもこのコンサート、クリスマス・イヴのゴールデン・タイムにBBC2とBBCラジオで生中継放送されている。これは日本に置き換えれば大晦日のNHK紅白歌合戦に匹敵するほど。この時期の彼らが、いかに英国内で注目のアーティストであった事がよくわかる。このコンサート映像はクイーンがトップ・アーティストに向けて階段を駆け上がり始めた瞬間を捉えた貴重な記録にもなっている。
『オペラ座の夜』ツアーと銘打ちながら、このコンサートでは同アルバムの曲は「ボヘミアン・ラプソディ」1曲しか演奏されていない。これは放送時間に合わせた短縮プログラムがその理由。それでも予定時間をオーバーしたようでDVD/Blu-rayでは生放送の終了時間の関係でアンコールの「輝ける7つの海」が収録されていない。このツアーの他の会場では『オペラ座の夜』から「スウィート・レディー」「預言者の唄」が加えた3曲を演奏されていた。
さて「ボヘミアン・ラプソディ」。この曲は(1)イントロ(2)バラード(3)オペラコーラス(4)ハードロック(5)アウトロの5部構成は周知のところ。スタジオワークの集大成のようなこの曲、ステージで演奏するには事実上不可能だ。とはいえ大ヒット曲。この時期の彼らは、この曲の演奏には頭を悩ませていたようで、苦労の跡が忍ばれる。ここではメドレー・コーナーの冒頭に(2)バラードを演奏しキラー・クイーン~マーチ・オブ・ザ・ブラック・クイーンと繋ぎ(5)のアウトロで締めるという、なんとも変則的な「ボヘミアン・ラプソディ」を披露している。後年お馴染みとなる(2)~(3)テープ演奏~(4)ハードロック~(5)アウトロ形式は1977年1月からのUSAツアーからなので、こんなスタイルで聴けるのはこのライブのみだ。
なお、このコンサートでは演奏されていないが、同ツアーの他公演ではオープニングに(3)のオペラパートをテープで流し(4)のロック・パートを経てオウガ・バトルというド派手なメドレーでコンサートの幕を開けている。
■ピアニストとしてのフレディ・マーキュリーにも注目
クイーンの楽曲はギター、ベース、ドラムにピアノ。基本はこの4つの楽器とボイスのみで録音されている。オーケストラの音はブライアン・メイのギター多重録音だし、金管や木管楽器の再現に至ってはロジャー・テイラーとフレディの声で表現するという徹底ぶり。そもそも彼らのスタジオで作ったサウンドをステージで再現するには不可能に近いのだが、コンサートにサポートが入るのは1982年4月から。それまでは頑なに4人のメンバーだけで演奏してきた。それゆえフレディも歌だけでなく、プレイヤーとしての重責も担わされる。フレディといえばその卓越したボーカルと美しいメロディばかりに評価がいくが、実はピアノ奏者としても相当の実力の持ち主。特に「ホワイト・クイーン」(M-3)の間奏ではブライアンのギター・ソロと掛け合うように流麗なピアノ・ソロを披露。改めてピアニストとしてのフレディ・マーキュリーに演奏力を堪能できる。
■激レア?変則ボヘミアン・ラプソディ披露
■クリスマスならではの弾けっぷり
コンサートが行われた12月24日はクリスマス・イブ。つまり翌日からは長いクリスマス休暇で、日本でいえば大晦日のようなもの。アンコールでは巨大な風船が舞い降り、客席にはシャボン玉が飛び交い全体がお祭りムードが漂う。ドラムのロジャーはレインボウ・カラーの帽子を被り、ギターのブライアンは山高帽に白いマフラー。お洒落に無頓着なベースのジョン・ディーコンでさえベースボールキャップ姿とメンバーそれぞれが弾けたモードでアンコールに登場。中でも圧巻はフレディ。おそらくこの年の春に初めて訪れた日本で買ったものであろう、派手な女性用の着物を着て表れ観客の度肝を抜く。そのままストリッパーよろしく、着物をパッと脱ぎ捨てた下には白いホットパンツ姿。そんな出で立ちで娼婦をテーマにした「ビッグ・スペンダー」を歌い出すからオーディエンスも大喝采。普段はスリリングなステージを見せる彼らの、クリスマス・イブならではの弾けた姿が見られる。
■ボーナス映像には初来日の武道館も
さてボーナス・トラックには1975年5月1日に武道館で行われたクイーン初のジャパン・ツアーの最終日の模様が収められている。英国やヨーロッパのファンの男女比率はおおよそ半々。ところが当時の日本ではクイーンはアイドルとして支持され、ファンの9割は女性。このボーナス映像ではその凄まじい熱狂ぶりが垣間見える。黄色い歓声が大き過ぎて演奏が殆ど聞こえないほど。本編のロンドン公演と同じ曲が収められているので聴き比べてみるのも面白い。
昨年は1974年のロンドン・レインボウシアターでのライブ映像が発売され、今年は1975年のハマースミス・オデオン公演が商品化された。このペースで行くと来年はアルバム『華麗なるレース』が発売されて40周年。1976年9月に15万人を集めて行われたロンドン・ハイドパーク公園のフリー・コンサートの映像商品化濃厚。ブートで見ていた粗い映像が、今回のようにレストアされて生まれ変わるなら大歓迎!今から次回のアーカイブ発掘プロジェクトが楽しみ!
文:石角隆行/六角堂
『オデオン座の夜~ハマースミス1975』
2015年11月20日(金)発売
SHM-CD+DVD UICY-77615 ¥4,600+税
SHM-CD+Blu-ray UICY-77616 ¥5,600+税
SHM-CD UICY-15448 ¥2,500+税
2015年12月9日(水)発売
初回生産限定 スーパー・デラックス・ボックス:UICY-77617 ¥22,000+税
※歌詞・対訳つき/解説:東郷かおる子、石角隆行
CD&DVD/Blu-ray 収録曲(※=CDのみ収録)
1.誘惑のロックン・ロール(ナウ・アイム・ヒア)Now I'm Here
2.オウガ・バトル Ogre Battle
3.ホワイト・クイーン White Queen(As It Began)
4.ボヘミアン・ラプソディBohemian Rhapsody
5.キラー・クイーン Killer Queen
6.マーチ・オブ・ザ・ブラック・クイーン The March Of The Black Queen
7.ボヘミアン・ラプソディ(リプライズ)Bohemian Rhapsody(Reprise)/
8.リロイ・ブラウン Bring Back That Leroy Brown
9.ブライトン・ロック Brighton Rock
10.ギター・ソロ Guitar Solo
11.サン・アンド・ドーター Son And Daughter /
12.炎のロックン・ロール Keep Yourself Alive
13.ライアー Liar /
14.神々の業(わざ)...リヴィジデット In The Lap Of The Gods...Revisited
15.ビッグ・スペンダー Big Spender
16.メドレー:監獄ロック / Jailhouse Rock~まぬけなキューピッド / Stupid Cupid~ビー・バップ・ア・ルーラ / Be Bop A Lula
17.輝ける7つの海(※)Seven Seas Of Rhye
18.シー・ホワット・ア・フール・アイヴ・ビーン(※)See What A Fool I've Been
19.ゴッド・セイブ・ザ・クイーン God Save The Queen
DVD/Blu-ray ボーナス映像
クイーン初来日の日本武道館('75年5月1日)公演より誘惑のロックン・ロール(ナウ・アイム・ヒア)/キラー・クイーン/神々の業...リヴィジデット、オデオン座を振り返って /LOOKING BACK AT THE ODEON、ブライアン・メイ&ロジャー・テイラー 最新インタビュー
◆オデオン座の夜 ~ハマースミス1975オフィシャルサイト
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