【インタビュー】ジミー・ジャム&テリー・ルイス、ジャネット・ジャクソンを語る

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カタール人大富豪と結婚し、一時は引退説まで囁かれていたジャネット・ジャクソンが、前作から7年ぶり、兄マイケルの急逝後初となるニュー・アルバム『アンブレイカブル』をリリース。『コントロール』や『リズム・ネイション1814』などの大ヒット作を共に作り上げて来た彼女の盟友であり、今回久々となるタッグを組んだジミー・ジャムとテリー・ルイスのふたりに『アンブレイカブル』の制作秘話から、ジャネットの夫の素顔までじっくり語ってもらった。

◆ジャネット・ジャクソン画像

――久しぶりにジャネットとタッグを組んだわけですが、実現までのいきさつは?

ジミー・ジャム:2年ぐらい前だったかな、一緒にランチをしたんだよね。音楽のことは何も話さなかった。お互いの人生の近況を報告し合ったりして。それから彼女のマネージメントの人と会うことになって、彼女が新しいレコードを作ろうとしている、という話を聞いてね。マネージメントは、ジャネットが僕らと一緒に仕事ができたら夢のようだって話していると言うんだ。テリー曰く、そういうことであれば話は早い、僕らが彼女に電話をすればいいだけのことだからって。マネージメントとか、彼女の弁護士を通さなくても、一緒にレコード作らないか?って彼女に聞けばいいだけのことだからね。そうしたら、「もちろん、やりましょう!」ということになって、それで実際に作ることになったってわけさ。

――今回、久しぶりに一緒に仕事をしてみていかがでしたか?

ジミー・ジャム:素晴らしかったよ。僕らは昔から友人だから一緒に仕事をしていて心地好いんだ。お互いに対する信頼もできているしね。『コントロール』をレコーディングしたのは30年も前だよ。自転車に乗るようなもので、ずっと乗っていなくても、乗ればすぐ感覚が取り戻せるようなものだった。そんな感覚かな。

――今回はクレジット欄がすっきりしたアルバムですね。基本的にあなたがたジャム&ルイスとジャネットによる以前の制作体制に戻ったわけですが、その理由は?


テリー・ルイス:プロダクションにおいてひとつの統合された頭脳集団が確立されるといい作品ができる、と僕は信じている。すべてのプロジェクトを同じプロデューサー陣で固めた方がいい作品ができるんだ。それはどんなものにおいてもね。こっちで一曲やって、また違うところで一曲やって、という手法で成功するやり方をけなすつもりはない。僕らがよく使う表現なんだが、アルバム全体のフィーリングを作っていくっていうことかな(笑)。この表現、みんな使わなくなっているよね(笑)。でも、こういうことができる頭脳集団がいるというのは大事なこと。僕らがプロデュースすることによって、ひとつの統一した流れができる。どういった曲を選んでいくのか、どんなプロデューサーたちが関わっていった方がいいのか? 関わるべきなのか? 僕らが書いて、レコーディングしていくすべての曲において統一感のあるものになっていくと思うんだ。

――若手のプロデューサー、ドウェイン“デム・ジョインツ”アバナシーの起用が意外でした。起用することになった経緯を教えてください。彼はドクター・ドレーの『コンプトン』でもプロデューサーとして参加していますね。

ジミー・ジャム:そうだよ。実際に彼は、ジャネット作品のプロデュースと同時期にドクター・ドレーの作品をやっていたんだ。ドクター・ドレーのスタジオとジャネットのスタジオを行き来してた。とても忙しくしてたね(笑)。彼とはBMGを通して出会ったんだ。BMGはジャネットのレーベル、リズム・ネイションのパートナーだから。才能のあるプロデューサーや作曲家陣をいっぱい知っているから、興味があったら紹介できるとBMGのクリエイティヴ部に言われてね。どんな作品を作っているのかを聴きたいって言ったら実際に彼らがスタジオにやって来て3~4曲かけてくれた。それで言ったのさ。「こいつに会いたい!」って。作品をもっと聴きたいというよりも、とにかくデム・ジョインツに会いたいって思ったんだ。なぜなら、彼のサウンドには深みがあったから。とても現代的であると同時に僕らがやろうとしていることによくマッチしていた。実際に会ってみたらとてもいい人でね。個性もある。そして僕らはファミリーになったんだ。もう一人、今回のアルバムの共同プロデューサーにトミー・マクレンドレンという奴がいて、彼はミスター・マクレンドレン名義でやっている。トミーは、ジャネットとずっと前からの知り合いで、彼女の甥っ子(註:オースティン・ブラウン)の作品にも関わっているんだ。

――J.コールとミッシー・エリオットのふたりのゲストはどのように決めていったのでしょう?

ジミー・ジャム:「ノー・スリープ」ができ上がったときに、誰かにラップを入れてもらいたいと思っていたんだ。僕らはそもそもJ.コールのファンでもあったんだけど、彼だったらこの曲の味みたいなものを上手く出してくれるんじゃないか、そういう繊細さを持っている人なんじゃないかって思ったんだ。ただのフィーチャリング・ラッパーとしての参加ではなく、有機的にレコードの一部として参加して欲しかった。ただラップしただけのものは僕はあまり好きじゃない。いわばファミリーにならなくちゃいけなかった。J.コールはそういったことも出来て、そういう雰囲気を曲に出してくれると思った。彼はそれを完全に成し遂げたよ。

──ミッシー・エリオットは?

ジミー・ジャム:ミッシー・エリオットは、プロジェクトの最初の頃からコラボの可能性のある人として名前があがっていたんだ。リストのトップの方に入っていたよ。彼女は才能があるというだけでなく、ジャネットとは親友だから。彼女たちはずっと仲のいい友人同士で、人生の中のさまざまな局面でお互いを助け合って来た仲。いくつかのプロジェクトで一緒に仕事をしてきたりね。ジャネットはショウのオープニングでミッシーとの「バーンイットアップ!」を演奏するんだけど、ツアーの初日のステージでの観客の反応が面白かった。オーディエンスたちはどこかで聴いたことがあるって感じたみたいで、みんな踊り出してね。反応が非常に良かったよ。ジャネットのファンは彼女がミッシーと一緒にやったということを喜んでくれていたようだった。レコードを作っている最中から「ミッシーと何かやればいいのに」ってツイートされていたからね。だから、初日にああいった形でみんなが曲に反応して、「ミッシーと一緒にやったんだ!」って大騒ぎしているのを見ることが出来たのは楽しかったな。

――サウンドの方向性についてはどのように決めていったんでしょう? ミネアポリス・ファンクを思い出すような曲もあれば、80年代前半のエレクトロ・ヒップホップ的な曲も、90年代的なテイストのビートを持った曲もといった具合に、かなり幅広いスタイルが入っていますね。

ジミー・ジャム:それはとても正しい分析だね。僕らはもうジャネットとは30年間アルバムを作り続けている。だから、このレコードは30年間かけて作られたようなサウンドになっているんだ。音的に『コントロール』の頃に戻っているものもあるし、僕らが制作してきたそれぞれの時代のサウンドを網羅している。新しい工夫もあるんだけど、最終的にはジャネットのレコードになっているのさ。ある特定のサウンドというのは特になかった。彼女がどの曲でも心地好いと感じられるようなものであれば良かった。よく使われる言葉だけど、「上手く機能しているのであれば、直す必要はない(If it ain't broke don't fix it)ということだよ。

――アルバムのコンセプトや方向性について教えてください。

テリー・ルイス:アルバム全体のコンセプトはアンブレイカブルだ。意味は、ものごととの関係性の問題。信条、家族、友人、世界、人生そのものとの関係性だったりする。どのレベルでも共感できるのがあって、どこにいて、何をやっているにしても、何らかの関わり合い、関係性の中にいる。このアルバムが総称しているのは、いまジャネットが世界とどう関わりを持っているのかということだと思う。家族、彼女の宗教との関わり合い方、家族とのつながり、ファンとの関わり方、そういうことすべてが含まれるんだ。

――ジャネットの結婚相手のウィサム・アル・マナはどんな人なのでしょう?

ジミー・ジャム:素晴らしい人だよ。とても面白くて、落ち着いた感じの人。食べるのが大好きだから、僕らは彼のことをfoody(食べるの大好き人間)って呼んでいるんだ。グルメなんだよね。レコーディングの最後の方では、いろいろなごちそうを運んで来てね。それをテーブルに全部並べて…。僕らはアルバムの曲順とかを考えていたんだ。そうしたら、「こんなに食べ物あるのに、どうするの?」って彼が言い始めて。「わかった、じゃあ、食べよう、食べよう!」って最終的にはなったんだ。恋愛関係においてこういったバランスって大事だと思うんだよね。ジャネットが彼女自身でいられる場を与えてあげなければならない。「今日はぐっすり寝て、明日にでもまた取り組めば?」って言ってくれる人が必要なんだよ。マッサージをしてあげるとかね。そういうところが彼にはあるんだ。僕らはかれこれ30年も一緒に仕事をしてきているから、彼女は言わば娘のようなもの。彼女がちゃんと扱われているというのは僕らには大事なことなんだ。あと、彼はかなりの音楽ファンでもあるんだ。ジャネットの音楽を気に入っているというだけでなくて、僕らの作品もよく知っていたよ。過去に作って来た作品、ザ・タイムとかモーリス・デイの時代の曲なんかの話にもなった。そういったレコードのファンだったらしいんだ。彼は彼女の人生の中でポジティヴな一面なんじゃないかな。

文:荘 治虫
写真提供:Getty Images
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