【インタビュー】陰陽座、風神と雷神をテーマとした驚愕の2連作を同時リリース
名作『鬼子母神』の衝撃もいまだ鮮烈な陰陽座が、今度は何と『風神界逅』と『雷神創世』という二つのアルバムを同時リリース。この驚愕の展開も彼らにとっては、かねてから入念に計画されたものでしかないが、何より目を向けるべきは、伝統と革新をバランスさせた珠玉の楽曲群が、また新たな表現を溢れさせながら紡がれている事実である。彼らの純粋な創造性の根源とは何なのか? 日本が世界に誇る、圧巻の傑作がまた登場した。
◆陰陽座~拡大画像~
■風神と雷神は一対になったものと言って思い浮かべる代表格じゃないですか
■風神雷神図を実写化した2枚のジャケットはくっつけると1枚の絵になるんです
▲『風神界逅』 |
▲『雷神創世』 |
瞬火:作りました(笑)。
――前作『鬼子母神』(2011年)は、最高傑作という言い方が適切かどうかわかりませんが、とにかくヘヴィ・メタル史に残る、名コンセプト作品だと思うんです。だからこそ、次のアルバムはどうなるのかと、当然、ファンも思っていたはずですよね。そんな最中に届けられたのが、何とアルバム2枚を同時発売するという驚愕のニュースです。いつも「2つ先のアルバムのことまで具体的に構想ができている」と瞬火は話していますが、今回はなぜ2作同時という構想に至ったのか、まずはそこから教えてください。
瞬火:2作同時発売ということ自体は、陰陽座を結成したときから、いつかやりたいことの中に挙がっていました。ただ、そういうことができるバンドというのは、それだけの作品を生み出す創作意欲はもちろんですが、それが許される環境があるかどうかですよね。自主製作なら別ですが、レコード会社が「いや、1枚にまとめてくれ」と言ったら、普通はそうせざるを得ません。だから、それが許される環境とバンドとしてのバイタリティやスキルを備えたと思えた時点でやろうと考えていました。実際に具体的な計画として明示したのは、2009年の『金剛九尾』制作時です。その次は10作目だから、かねてからの予定通りコンセプト・アルバムで“鬼子母神”をやり、その後はずっと前から言ってたように、11枚目、12枚目は同時に発売して、イメージは風神、雷神だよと、その時点でメンバーには伝えてありました。
──2009年にはすでに2枚同時の構想があったんですね。
――『鬼子母神』には入れられなかった曲があったと。
瞬火:はい。『鬼子母神』の曲ではあり得ないけど、純粋に一つの楽曲としてすごくカッコいいというものがいくつも溜まっていて。だから、そのストックに加えてさらに楽曲を書き足せば2枚同時も絶対に問題なくやれると確信を持ち始めてたので、今回、その予定通りに進めたということなんです。
――実際に今回のアルバムに収められたものでいうと、その時点でのストックはどれぐらいあったんですか?
瞬火:結果的に収録されたのは、そう多くないですね。3~4曲くらい。でも、そもそもストックを切り崩してギリギリ2枚アルバムを作ろうとしていたのではなく、それも視野に入れながらもどんどん曲を書き下ろして、とにかく密度と完成度の高いアルバムを2枚作るつもりだったので、ストックのことは一切意識せずにアイデアをどんどん出して、僕以外のメンバーが持ち寄ったものも合わせて、最終的にそれぞれ『風神界逅』『雷神創世』用に20数曲ずつのマテリアルを揃えました。そこから絞り込まれたのは今回の12曲ずつの収録曲なんです。だから、最初のほうに「これは使える」と思ってストックしておいたものも、後から出てきたアイデアに取って代わられたりということも多々あったわけです。もちろん、ボツということではなくて、楽曲のタイプのかぶりの問題で選ばれなかったのがほとんどなので、また今後のストックにはなっていくんですけどね。
――2枚同時に出すというアイデアを聞いたとき、黒猫さんはどう思いました?
黒猫:『金剛九尾』のときに、次の10枚目はコンセプト・アルバムで、その次は2枚同時だよという聞き方をしたんですね。だから、何か陰陽座らしいというか(笑)、歩みを止めない、さらに加速するようなイメージだったので、すごくワクワクしたんですけれども、そのときはまだ単に夢想する感じです。あのときの自分が、今、出来上がったものを聴いたとしたら、ホントに想像以上だったなぁ、陰陽座イズムがまた一つ形になったなぁと思うだろうなって。すごく感激しています。
――陰陽座の取材をするようになって十数年経ちますが、他のアーティストと比べて、新たな活動展開に関する情報は、ホントにその直前になるまで伝わってこないんです。メンバーおよびスタッフ以外には、完全な箝口令を敷いているかのような(笑)。
瞬火:みんな結構前から言うんですか? 僕、ギリギリまで言っちゃダメって言われるから黙ってるだけですよ。
黒猫:あ、そうなの?(笑)
――誰が「言っちゃダメ」って言うんですか(笑)。
瞬火:◯◯さん(担当ディレクター/一同笑)。僕はもう、たとえば13枚目のタイトルだって決めていますし、言って墓穴を掘るとか、藪蛇になるとか、そういうことは起こり得ないから、いくらでも言っていいんですよ。今回だって、2枚作っているってことを早めに言えていれば、瞬火が引きこもっていた理由もみんなにわかってもらえるのに……。「何やってるの?」みたいに見られていることが嫌で、早く言わせてよって思っていたんですよ(笑)。でも、ギリギリまで惹き付けたことで、衝撃は高まったんでしょうから、結果、よかったと思いますけどね。
――陰陽座はそういうものだと思っているんですが、今回に関しては驚いた出来事がありました。今だから言えますが、『鬼子母神』に伴う全国ツアーの千秋楽、東京・NHKホール公演を終えた後の歓談の席で、瞬火さんが次のアルバムは2枚同時に発表すると明かしてくれたじゃないですか。さらにタイトルはもうこれしかないという言葉だということも。作り手として、それまで以上と言えるほど、創造意欲の高まりがあるのだろうなと、そのとき思ったんです。
瞬火:だって、いつ誰が、“風神”“雷神”という2枚同時発売をやらかすかわかったもんじゃない(一同笑)。だから、戦々恐々としていました。誰かが同じ言葉を使った作品をたまたま出したとして、それを真似したと思われたら嫌ですからね。だから、14枚目まではタイトルがもう決まってるんだから、言っていいなら僕はいつでも言いたいですよ。『鬼子母神』のツアーのときに話したのは、多分、あれは『鬼子母神』の後、どうするのって思われがちなところで、それぐらいのことを考えているということを、完全に黙っておくのに耐えられなくて話したんでしょうね。先に証人になってもらおうと(笑)。
――ははは(笑)。あんなに早い段階で明かすなんて、かつてないことでしたからね。もう一つ気になるのが、なぜこのタイミングで、風神と雷神をモチーフとして採り上げたのかということです。
瞬火:これはもう、直感としか言いようがないですね。 あくまでも単独で成立していて、並び立つからこその対になった二つのものと言って思い浮かべる代表格じゃないですか、風神と雷神は。それ以外のものが筆頭に来るのを僕は想像できないんですよね。金閣、銀閣というのも違いますし(笑)。変にひねくって、「何だか響かねぇなぁ」「何でこれが対なのかな?」と思われるようなものだったら、お店に行ったときに迷うかもしれないじゃないですか。風神ときたら雷神。これなら「陰陽座の新譜が2枚出たらしいけど、何ちゃらと…もう一個何だっけ?」みたいには絶対にならない(笑)。2枚のジャケットも、くっつけると1枚の絵になるんです。あの有名な風神雷神図を実写化したものですが、どう見ても、これが同時に出た二つだとわかる。そのわかりやすさを演出する、絶対的な題材が風神と雷神だったというだけです。
黒猫:その話を聞いたときは、私たちも、なるほどって。対をなしていて、神々しく威厳のあるものの代表なので、それを陰陽座流にアルバムに仕立てるというのは、すごくやり甲斐があるし、いいものができるんじゃないかって、そのときにも思ったんです。
――風神と雷神そのものは対ですが、アルバムとして、この2枚が対になるという意味合いではないですよね。
瞬火:ないです。たとえば、この全曲がシンメトリーになっているとか、それぞれの収録曲がそれぞれに関係し合ってというのなら、2枚組にすべきですよね。つまり、どちらかしか出ていなかったとしても、今回の陰陽座のアルバムはイカしてるねって言われる、完全に1枚で成立した、完成したアルバムを二つ同時に出すということをやりたいと。その二つを曖昧に捉えられないように、しっかりと二つ同時に来ることを受け止めてもらうために、対をなすイメージを持たせたんです。唯一、お互いの11曲目に来ている「故に其の疾きこと風の如く」と「而して動くこと雷霆の如し」は、その意図や意志が同じ流れの中にありますが、何かを共有している曲というのは、アルバムをまたいでもいつでもあり得るものですからね。でも、たとえばそれぞれの1曲目を見ると、「風神」はインストだけど、「雷神」はヴォーカル曲。これも内容の部分で対とかシンメトリーにする意図はないことを冒頭で表すために、そうしているんです。
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