【インタビュー】ラウドネス二井原実が語る、イヤモニ(カスタムIEM)の真実

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遡ること2011年12月、Ultimate EarsのUE 5 ProというカスタムIEM(イン・イヤー・モニター)のレビュー記事を執筆した時に、ラウドネスの二井原 実からイヤモニに関するコメントをいただき、掲載させてもらった。10年以上にわたってステージでUE 5 Proを使用してきた彼だけに、プロの現場のツールとして長年にわたって酷使してきたプロ・ミュージシャンの言葉には、リアリティと重みがあった。

◆二井原実&イヤモニ(カスタムIEM)画像

あれから2年8ヶ月、二井原 実がカスタムIEMブランドのJH Audioとコンタクトをとり、JH16 PROをオーダーしたという噂を耳にした。ん?JH16 PRO? UE 5 Proは…どうしたのか? ラウドネス、X.Y.Z.→Aともに活動が活発化しているだけに、ステージ機材にも変革をみせているのか? 再び二井原実にアプローチ、話を聞く機会を得た。プロミュージシャン界隈のイヤモニ事情から、聴力保護の必要性と難聴問題、プロが求めるイヤモニの特性など、極めて貴重な話を聞く機会となった。

   ◆   ◆   ◆

▲取材現場に持ち込まれたカスタムIEMの数々

──(取材現場に持ってきてもらったカスタムIEM群を見ながら…)えと…

二井原実:まず、これはカナルワークス。これがJH Audio。で、これがWestone4Rをリモールドしたやつで…

──リモールド(編集部註:市販のイヤホンの中身を取り出し、カスタムIEMとして作り変えること)までしているんですか?

二井原実:ええ。で、これが2001年に初めて作ったアルティメット・イヤーズのUE5です。PROという名前が付く前の初期のUE5ですね。当時はこの色(肌色)しかなかったんです。これと同じのが、6つあるんですけど。

──え?6つも?

二井原実:そうですね。海外ツアーをしているとトラブルは実際ありますからね。断線もありますし、汗が入るし。えと、いきなりこんな話でいいんですっけ?

──いや、いきなり話が濃すぎました。一旦リセットしましょう(笑)。プロにとってのイヤモニ(カスタムIEM)の話を伺いたいのですが、最近はそのイヤモニが、一般の方にも浸透して高級イヤホンとして愛用する人が増えていまして。

二井原実:そうですよね。最近はテレビでもアーティストが耳につけていますからね。アレは何をつけているんだ?ということで気になりますよね。

──そうなんです。にも関わらず、実はアーティストの中ではカスタムIEMイヤモニの話ってほとんど聞かないんです。ミュージシャンのために設計されたカスタムIEMなのに、一般人のほうが盛り上がっている変な状況でもあるんですね。

二井原実:僕もミュージシャン同士でイヤモニの話することってないですね。この前、B'zの稲葉くんと対談した時にイヤモニの話をしたけど、彼が初めてだったかな。彼はWestoneを使っているって言ってたな。今はFitEarを使っている人が多いけど。

──今ではイヤモニも使う人が増えましたが、ラウドネスを始めた頃って当然イヤモニなどは無く、ステージの上は劣悪な音環境でしたよね。

二井原実:特に僕らのようなバンドだと、そりゃもうね(笑)。特にドラムの人がね(笑)、樋口さんはでっかいスピーカーをモニターとしてドラムの後ろに置いていたんですよ。でね、キックを踏むと、モニターの音圧で僕の髪がぶわんと揺れるんです。そんなところで、前にある転がし(足元にあるモニタースピーカー)だけで、楽器陣の圧倒的な轟音の中で歌っているわけです。その上でPAからの出音が化け物のように大きくて、その音が跳ね返ってくる。もう、文字通り轟音です。ぐわーという音の嵐の中にいる感じ。

──それは悲惨だ。

二井原実:そんな状況だから全くピッチが取れなかったり、(ノドがコントロールできずに)声が飛んでしまったりして、PAの人にどうすればいいもんかねって相談をしていたんですけど、「耳栓をつけて歌うといいらしいよ」という情報を聞いて、使って初めて歌ってみたんです。そのときね、「救われた」と思いましたよ。「こんなに歌いやすいのか」と。要するに不必要な音がカットされるから、それだけでも随分環境が変わるんです。

──騒音を減らすわけですね。

二井原実:でもね、それでも肉声は機械の音に太刀打ちできない。それでラウドネス再結成のときに、音響の人から「二井原くん、イヤモニっていうのがあるんだけど使ってみる?」って。1999年くらいからアメリカのバンドで耳にはめている人を見ていたから、「あれは何だ?耳栓じゃないな…きっとイヤホンだな。でもこんなぴったり耳にハマるイヤホンが世の中に売っているのか…」って思っていたわけ。「もしこれがイヤホンだとすれば、これはすごい画期的だぞ、アメリカって進んでいるな」と思っていたんです。

──2000年のころですね。

二井原実:そうです。でも最初は、いわゆるユニバーサル型のものでカスタムIEMじゃなかった。シュアー製のイヤモニだったんですけど、それでも感動したなぁ。今までの苦労は何だったんだ…と。

──歌いにくいということはなかったんですか?

二井原実:なかった。こんなに自分の声がクリアに聞こえたことって今までなかったから。20年間バンドをやってきていて、今まで僕はステージで何をしてきたのか?と思うくらい。初めてステージで自分の歌っている声が聞こえたんです。

──歌っている時に自分の歌声が聞こえていないなんて、お客さんは夢にも思わないですよね。

二井原実:そうなんですよね。転がし(モニター)でもね、もちろん聞こえはするんだけど、少しポイントがずれると音がぼやけてくるし、倍音を聴いているうちに聴覚もおかしくなってコード感を失ったりするんです。チューニングが狂って聞こえるという言い方を良くするんですけど、ピッチもわからないし、キーもわからない。

──分かります。バンド時代に死ぬほど経験しました。

二井原実:イヤモニは、自分がどの音を出しているかわからない、という苦しい状況から開放された瞬間でしたね。まるでレコーディングスタジオの環境にいるような感じで、すっごい画期的だと思った。で、「二井原さんもっといいのがあるんですよ。耳の型をとってそれを元に二井原さん専用のモニターを作れるんです」といって作ってもらったのが、アルティメット・イヤーズ(UE)のUE5です。UEがスタートしてまだ間もない頃ですね。ちょうどアレックス・ヴァン・ヘイレンにジェリー・ハービー(音響エンジニアでありUEの設立者、現JH Audioの設立者)がこれを作って一般売り出しを始めた初期のモデルです。UE5PROじゃなくてUE5。

──カスタムIEMの使い心地はいかがでした?

二井原実:革命でしたね。ユニバーサルのイヤモニはじっとしている分にはいいんですけど、ステージで汗をかいて口を動かしているとずれてくるんです。隙間から音が漏れてくるし、ずっと完璧な状態ではないんですよ。頭3曲くらいでだめになる。外しては付け直すということをするんだけど、汗で滑ってきて、結局中盤以降は転がしで歌うことになっちゃう。

──それはいけませんね。

二井原実:今から考えると、音質も決していいものではなかったから…。やっぱり慣れてくるとダメなところも色々見えてくるんですよね。そういう問題点を一掃したのがUE5でした。こいつは付けたら最後までかっちりと怖いくらいに遮音される世界でした。

──それでパフォーマンスや声のコンディションも変わってくる?

二井原実:もう全然、驚くくらいに違う。でもね、これを付けて歌うことに慣れるまでやっぱり1年位かかりました。声のバランスも大きくすればいいわけでもなく、楽器をどういうバランスで鳴らすかも人それぞれですから。なおかつ、これを付けた時のステージの上のモニターの声をどうするかという問題もある。ステージ上の音とイヤモニの音がどうしても干渉するんですよ。僕の場合は転がし(モニタースピーカー)からは一切音を出さないことにしました。

──PAエンジニアとのすり合わせも大切ですね。当時はみんな未経験なことだったんですよね?

二井原実:そうですよ。イヤモニと同時に送信機受信機も全部揃えたんですけど、会場に持って行くとエンジニアの人がみんな集まってきて「これがイヤモニか…」って(笑)。どんな音ですか?とか聴かれるんですけど、聴かせても分からないんですよね。フィットしないとクソみたいな音ですからね、フィットして初めて真価を発揮するものだから、口で説明をしてね。あの頃は本当に珍しがられた。ライブハウスに持ち込んでも、エンジニアの方が見たことも聞いたこともないから、「え、二井原さんどうするんですか?僕は何をしたらいいんですか?」って。「モニターに出す音をこの機械に返してください」というと「え?そうなんですか?」って。昔は、まずイヤモニの説明からするって感じですね。

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──それからかれこれ十数年。時代は変わりましたね。

二井原実:そうですね。カスタムIEMを作って13年くらいかな。ドラマーとボーカリストはイヤモニを使ったほうが格段にパフォーマンスは良くなりますね。ドラムもボーカルと同じように自分の身体を使って鳴らす楽器なんで、自分の音がちゃんと聴こえていないとコントロールできなくて無理をしたりして腱鞘炎とか怪我をしてしまうんですよね。

──イヤモニって偉大だなあ。

二井原実:それまでは、僕にとってコンサートはそれこそ戦場だったんですよ。身体の負担と、音の闘いで、嵐の中に身を投じるような恐怖の場所でもあった。それからすると今はほんと楽しいね(笑)。

──自分のコントロール下にあることの大切さですね。

二井原実:ほんとにそうです。自分がどういうパフォーマンスしているのかっていうこと、自分でコントロールしながらしっかり前を見据えてパフォーマンスできる喜びですよね(笑)。今まで目をつぶって手探りでやっていた感じだから。

▲アルティメット・イヤーズの初期UE5。当時はこのような肌色しかなかった。
▲後に追加制作されたUE5。シェルはクリア系に変わっている。
▲リモールドしてカスタムIEM化した、westone4R。

──ところで、UE5は全部で6つ持っているとお聞きしましたが。

二井原実:ツアー用としてラウドネス用に3つ、X.Y.Z.→A用に2つ、あとレコーディングでもあったらいいかなと思って更にひとつ、全部で6つ用意しました。

──これがプロの現場か。

二井原実:命綱みたいなもんで、メタルのコンサートで大きなPAがある以上、欠かせないですね。

──で、気付けば他にもたくさんお持ちのようですが。

二井原実:これはここ最近4年くらいかな…もともとイヤホンには興味もなくて、UE5も仕事道具として持っているだけで普段はイヤホンで音楽は聞かないから。なんだけど、たまたまwestone3を手にしたら「何これ、今はこんなにいい音してんの?」って驚いたんです。初めてシュアーのイヤモニをしてから十数年…こんなに進化したのかとたまげた。で、ちょっと面白くなって、westone4Rもリモールドしてみた。

──いつの間にかマニアになってしまった?

二井原実:そういうわけではないですけどね。カスタムIEMはたくさんお持ちなんですよね?何がいいですか?

──難しいなぁ。僕もUE5PROは好きですよ。凄くタイトでロックを鳴らすにはとても気持ちいい、分かりやすいサウンドだと思います。

二井原実:そうですよね。westoneはどうですか?B'zの稲葉くんが凄くいいと言っていたんで。

──稲葉さんはwestone ES5を使っていますね。WestoneのESシリーズは、カナル部分がシリコンなので遮音性が抜群に高いんです。ES5はサウンドも素晴らしいですし。二井原さんは今カナルワークスのCW-M51aと、JH16PROをメインに使われているのですよね?また6つくらい作るんですか?

二井原実:いやいや、もうね、そこまでは要らないです(笑)。もし何かあったらUE5で十分ですし。ただね、JH16PROのレベルになると、声の響きが変わってくるんですよね。

──聴こえ方が違う?

▲JH AudioのJH16PRO。暗いところでも左右がすぐ分かるよう、左を青に右を赤系に指定。

二井原実:非常に立体的な音で…なんていうのかな、UE5と比べるとJH16PROの声がよりリアルなはっきりとした声かな。余裕のある音がする。

──違うんですね。

二井原実:マイクを通してモニターしてみると、自分にとって「これは合う」「これはダメ」というのが一発で分かるんです。音楽を聞くだけだったらどれも凄くいいんだけど、「歌いやすいかどうか」は、はっきり分かれます。

──ほお…それって個人差もあるんでしょうか。

二井原実:個人の差はそうとうあると思いますよ。声を出しているから、自分の内耳で響いている声も影響してくると思うし、フィットの加減もあると思うけど、その人の声に一番合うイヤモニって、人によって違うと思います。いくらJH16PROが良いと言っても私には高音がきつすぎるとか、これはモコモコしすぎとか、面白いほどに分かる。カスタムIEMは、その人にとってどれが一番いいかは試してみないとわからない。ひとしきり各メーカの傾向を見たら「ここのメーカーは自分の声は固く聞こえるな」とか「ここのブランドは自分の声がいい音に聞こえるな」とか、わかってきます。楽器隊はどうかわからないけど、声は見事に分かります。

──面白いですね。

二井原実:聞こえてくる声が加工的な音だと、やぱりフォームが変わって発声が変わってもろにパフォーマンスに影響してくるんですよ。「聞こえてくれればいい」という話から一歩先の話になるんだけど、出している声がどれだけフラットに自分の出している、自分が思っている声に近い音を返してくれるかというのが問題になってきます。マイクとの相性もあるんですけどね。

──それは深いなあ。

二井原実:「このマイクとこのイヤモニだときついけど、このマイクなら…ちょうどいい感じ」ということもあるから一概には言えないけどね。僕の場合は、今のところJH16PROがレコーディングしている時の自分の声に一番近い。ガチっとタイトに耳にはまって遮音性も高いから、ステージでは一番力が入らずに自然に歌いやすいモニター機材ですね。

──普通のオーディエンスが音楽を聞くために選ぶのとは、全く違う視点なんですね。かなりシビアだし。

▲こちらはカナルワークスCW-M51a。ステージモニターとして使われるため、同スペックで2セット用意されている。

二井原実:そうですね。カナルワークスのCW-M51aも音楽を聴くと凄くいいんです。低音も凄いし、高音も綺麗に伸びているし。でも歌うと、言葉によってちょっとキラキラし過ぎるところがある。良し悪しではなくキャラクター的な相性です。イヤモニをひとつしか持っていなければ、それで慣れればいいんだけど、たくさん持っていると、こいつが歌いやすいな、というのがわかってくる。自分の声を綺麗にモニターできるイヤモニを見つけられたら、もっといい歌を歌えるかもしれないですよ(笑)。

──何事も経験ですか。

二井原実:ただね、モニターで使うのと音楽鑑賞で使うのは全然違いますよ。JH16PROは僕の声のモニターにバッチリで、トーンもバランスもとっても歌いやすいですけど、音楽を聞くんだったらJH16PROよりもカナルワークスのCW-M51aのほうが綺麗でいいです。CW-M51aをモニターで使う場合は、マイクとの相性を考えなくちゃいけない。

──その違いって何でしょう。

二井原実:やっぱりJH Audioはモニターエンジニアリング的な視点で作られていて、ミュージシャンがステージの上で必要な音ありきで開発されている感じがします。余計な音も鳴っているんだけど、ステージ上で使っている時のバランスの良さが見事。カナルワークスはオーディオ的な発想で設計されていると思いますね。ステージでは邪魔な音も入ってくることがある。でも音楽を聴くにはちょうどいい素晴らしい音がする。

──みなさん、そういうこだわりでイヤモニを選んでいるのかな。

二井原実:僕の周りで同じような年格好のボーカリストって、イヤモニを使っている人意外と少ないんですよ。SHOW-YAの寺田恵子さんとかEARTHSHAKERのマーシーとか一時期使ったんだけど合わないって言って、使いたがらないんですよね。

──マイケル・ジャクソンもイヤモニを嫌がっていましたよね。

二井原実:意外と嫌がる人も多いですよね。ボーカリストが大事にされていて、歌いやすいように気を遣ってくれるバンドだったら、そんなイヤモニとか要らないですよ(笑)。

──そうなの(笑)?

二井原実:ラウドネスの場合、「ボーカルが歌いにくいから、高崎さんギターの音量下げてくれる?」って言っても、そんなこと聞き入れてくれるバンドじゃないからね(笑)。「そんなもん自分で解決せー、俺は俺のサウンドがあるんやから」というバンドだから。寺田恵子さんとかマーシーとかはイヤモニは要らんのかも(笑)。でも矢沢永吉さんも使ってはるよね。

──矢沢永吉も聴覚の保護を考えて使っているらしいですね。

二井原実:耳の保護はミュージシャンにとって深刻です。亡くなった樋口さんが生前耳を痛めていて、まだ彼が生きていたら、僕と彼はふたりでイヤモニ論議を交わしていたと思う。ロックバンドのミュージシャンは、初めの1~2年はいいけど、5年以上バンドを続けている人は、もう聴力の保護のためにもイヤモニは使った方がいい。

──私もそう思います。

二井原実:音響のテクノロジーもどんどん上がっているから、今ではとてつもない音が出るんですよ。小さい機材でもすごい低音が出るでしょ。プロテクトしてあげないと耳が壊れますよ。

──現役アーティストからの経験則による警鐘は説得力があります。

二井原実:僕のまわりにもライブ後の耳鳴りに凄く悩まされている人がいて、ひどくなりすぎて低音の聴覚障害になったり体調によって高音が聞こえなくなったりしているミュージシャンがいます。そういう人、多いですよ。完璧に職業病なんですけどね。彼らには「イヤモニをした方がいいんじゃない?」って言うんですけど、「でも高いんだろ?」「いや、でも最近はSHUREとかWestoneとかいいのがあるからやってみたら?」ってね。友人はそれをやったら、ライブが終わったその日の夜もぐっすり眠れたって。耳鳴りで睡眠もできない状態から開放されて「もっとはやいうちにやっておくべきだった」って言っていた。耳の細胞ってずっと爆音にさらされていると死んでいくから。

──そこなんですよね。一度破壊された聴覚細胞は二度と復活できないですから、ミュージシャンにとって死活問題のはずです。

二井原実:曲は作れても、いい音が聞こえなくなると悲しいですよね。僕は十数年前にPAの人がイヤモニを勧めてくれて、それからずっとコンサートではこれを使ってきたから、相当難聴を遅らせることができたと思っています。がならなくていいからノドの保護にもなったしね。適性な音量で歌えるというのは、身体のダメージも軽減してくれているから。

──特にラウドネスは過酷なツアーを繰り返してきたバンドですからね。

二井原実:イヤモニのセットさえあれば、どんな会場でも同じ環境で歌えるから、同じクオリティのパフォーマンスができて耳も保護できるということです。よくぞ開発してくれたと思いますよ。アレックス・ヴァン・ヘイレンが音が大きすぎて耳がどないかなりそうだとジェリー・ハービーに相談した時に、彼がどういう思いだったのかって痛いほど分かるから、ほんとに深刻な悩みだったと思う。アレックスが作ってなければ、僕が作っていたかもしれんし(笑)。アーティストの中にも普通の会話ができないくらいの難聴の人もいますからね。特にコンサートが終わった後のミュージシャンの耳はひどいですよ。「はー?」って。

──その上で、打ち上げの飲み会で騒ぎすぎてノドを潰すという(笑)。

二井原実:ホントそうです。聞こえないからガナって喉を潰す(笑)。だからボーカリストは飲み会禁止なんです。

──飲み会でもイヤモニ必携ですか。

二井原実:ホントそうですよ(笑)。せめて耳栓しろって話ですよ。でもイヤモニの進化も凄いですね。僕らにとってステージ・モニター用として開発してきたものが、まさか音楽鑑賞用に一般の人が手にするなんて思わなかったもんね。

──現在ではカスタムIEMは市民権を得るようになりましたね。

二井原実:補聴器店の人が「耳の型を採りに高校生がひっきりなしに来る」って言ってた。彼らはファッションのひとつとして、カスタムIEMがカッコいいらしいですね。

──我々は音楽鑑賞用ですけど、ステージモニター用では選ぶ基準が全く違うという話は新鮮でした。

二井原実:ギタリストがギターにこだわるのと同じで、ステージモニタとして自分の声を正確に聞かしてくれるイヤモニがきっとあるはずだから。でもそれは必ずしも6ドライバーであったり8ドライバーである必要はない。2ドライバーで十分かもしれないし、フィットがちゃんとするかどうかで世界が全く変わってくるんで、シェルの出来具合も繊細ですよね。低音が出ないのは完璧にフィットしていないサインですからね。そんな状態でモニターしていても正確な音じゃないからボーカリストには厳しいかな。

──イヤモニの使いこなしにもノウハウがありそうですね。

二井原実:音量の加減も自分にピッタリの状態を見つけるのに結構時間がかかる。ステージの上で凄く大きくしてみたり小さくしてみたり試行錯誤するからね。大きくすると後半には耳が疲れてきちゃうし、小さくすると今度は力が入っちゃう。このあたり個人の好みだけど、使いこなすのにやっぱり1年くらいかかるかなぁ。

──なるほど。

二井原実:だから、コンサートを年間で10本もしないようなアーティストがこれが必要なのかというと、もしかしたら要らないかもしれない。けど、年間30本以上ライブをするとかツアーをまわるような人は、使ったほうがいいね。いろんな意味で幸せになると思う。

──使いこなしにコツはありますか?

二井原実:えとね、ボーカルの聴こえ方で一番いい音量があって、まずそれを決めます。ボーカルのレベルを良い感じで決めたら、そのボリュームは上げ下げしないで、そこにバックの音を足していくとばっちり完璧な状態が作れます。それをしないで、全部の音を一気に上げたり下げたりすると、何も決まらなくなる。

──なるほどなるほど、それもノウハウですね。

二井原実:最初はどう使っていいかわからないから、ひたすら上げたり下げたりしていましたね。楽器の音から始めると「これ以上歌は上がらないです」みたいな袋小路に入ったりする。当時はエンジニアも試行錯誤だったから、それこそ「コンプやリミッターはかけたほうがいいのかどうか」ってところから「EQはどうしたらいいんだ?」とかね。カスタムIEMの場合どのように僕に聞こえているのかエンジニアには分からないから、コミュニケーションが大変なんですよ。エンジニアもイヤモニつけているけど、お互いの聴こえ方が違うから、情報共有が難しい。今はもうバッチリですけどね。お互い気持ち良い音が共有できています。

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たかがイヤモニ、されどイヤモニ。イヤーモニターとして開発されたカスタムIEMは、本来のモニタとして使われるシーンとともに、音楽鑑賞用として高い評価を受けている新たなシーンも牽引している。厳密な線引やカテゴリは存在しないが、やはりステージ上で酷使するイヤーモニターとしてモノを見た場合、ミュージシャンにとって、UEやwestone、JH Audioといったステージモニタとして設計開発されてきたブランドへの信頼は、我々オーディオリスナーとは全く違う価値観から寄せられているようだ。

最近はプレイヤーのみならず、コンサートスタッフ全員がイヤモニをして業務を遂行する事も多い。ライブやイベントを影から支えるモニターの世界には、まだまだ面白いエピソードが隠れているようだ。

ライブ写真:ほりたよしか
取材・文:BARKS編集長 烏丸哲也

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